第10話 寝たら抱かれました

※うっすら性的描写ありますので、苦手な方はご遠慮ください



「お前達……俺が言うのもあれだけど、もっと自分の体を大切にしてくれ……頼むから」

「「はい!では、宿へ」」


 俺の腕に抱きついているイリアとライカが、いい返事をしてくる。

 俺は二人の返事を聞いてため息をつく。


「ネズ様……行きましょう。夜は長いです」

「いや、長くはないと思うけどこのままだとすっごい勢いで過ぎていきそうなんだけど」

「私達の愛は永遠ですよ?」

「ああ、うん……」

「ちょっと!ギゼインはどうするのよ!?」


 リタが割り込んでくる。助かった。大体、俺はまだ眠い。ゆっくり寝させて欲しい。


「はあ。分かりましたわ。事後処理をさっさと済ませてしまいましょう。ライカさん」

「分かった。全員集合!」


 ライカが風魔法で館の中全体に呼びかける。

 ライカの声はギゼインのように魔力がこもっている。だが、催眠ではなく、鼓舞という指揮に関わる効果で、対象の能力を上げながら動かす。リタの拡声ともちょっと違う。

 そして、倒れていた奴らに力を与え立ち上がらせ、そのうち、館中の人間が集められる。


 そして、催眠にかかっていないかイリアが確認していると、誰もが催眠状態から解放されていることが明らかになる。


「恐らく、ネズ様の一撃で、ギゼインが意識を失った。それにより催眠効果が一気に解かれたのではないかと」


 あの時、俺は目を覚まさせる一撃を誓ったけど、全員にきいてしまうとは。


「リタ、お前が信用出来る人間を選べ。そんで、警備関係はライカ、それ以外はイリアに振れ。こいつ等ならなんとかしてくれる」

「「はい!おまかせを!」」

「ネ、ネズ!」


 振り返るとそこにはレトワがいた。ふらつきながらここまでなんとかやってきたみたいだ。


「お、来たか」

「ギ、ギゼイン様は……?」

「あそこでのびてるよ」

「また、暴力で解決させたのですね」

「……ああ、俺はこの国を出て行かなきゃならない大罪人だそうだからな」


 レトワはその言葉に火をつけられたのか、俺を指さし叫ぶ。


「わ、私は、貴方を……あな、貴方を……!」


 レトワは催眠に対する耐性があったのだろう。

 だから、ギゼインも警戒してあまり近づけさせなかったのかもしれない。

 そして、つまり、レトワは完全に催眠にかかっていない……。


「あ、貴方を……!」


 レトワの心は弱っていたのだろう。

 周りの声に導かれるようにギゼインを信じたのだ。

 だからこそ、自身の罪に、愚かさに気付き始めている。

 けれど、罪は消えない。

 レトワの様子から今までどんなことをやってきたかうかがえる。


 償わなければいけない。


 俺は、ギゼインの隠し部屋の壁をぶち壊す。

 がらがらと崩れ落ちて行く壁の向こうには、ギゼインに催眠をかけられ、閉じ込められていた女たちが現れる。

 完全催眠にかかっていた為に記憶はほぼないのだろう。それが唯一の救いだ。

 だけど、自分の恰好や催眠に完全にかかるまでの記憶で、想像はついてしまう。


 彼女達は泣いていた。


「そ、そんな……彼女達は……」

「お前が、癒すべき人間は、償うべき人間はここにいる。頼むから正しく導いてやってくれ」


 俺はそう告げると、いつの間にか使えるようになっていた睡眠の魔法をギゼインの犠牲になった女たちに少しでも穏やかな眠りにつけるようにとかけ、その場をあとにする。


 レトワは泣いていた。

 けれど、お前がすべきことはそうじゃない。

 泣いても罪は消えないのだから。


「じゃあ、俺は寝るから。後は任せた。お前にまだ、正しい心ってのがあるのなら、ちゃんとやれ。自分の正しいと思う道を自分で歩け」


 そう言って俺はリタから聞いた隠れ家に行き、眠りについた。だけど、


「お前ら……何やってるの?」


 ライカとイリア、おまけに、リタが裸で俺に寄り添っている。


「一仕事終えましたし、隊長に抱いて頂こうと思いまして」

「いや、もう寝たいんだけど」

「大丈夫ですわ! 多少抱く時間がかかっても寝る時間はありますわ!」

「いや、だからさぁ……! それにお前ら捕らえられてたんじゃないの!? なんでそんな元気なんだよ!」

「それが……ギゼインに媚薬を盛られていたようで、今、極度の興奮状態にありまして」

「絶対嘘だろ。お前ら普通だったじゃん」

「鉄の意思で耐えていたのです! 私は隊長のものですから!」


 物凄い形相で鼻息荒く迫ってくる。媚薬は絶対嘘だと思う。

 だけど、極度の興奮状態は間違いないようで、怖い。


「そ、そう……なら、リタはなんでだよ!?」


 俺はリタを見る。

 顔が赤いし……熱があるんじゃないか? 無理しすぎて熱出て意識朦朧としてるんじゃないのか?

 そう思って額に手を当ててみる。熱いな……! 俺はすぐに手を離した。


「な、なによ! 私だって覚悟を決めたんだ! ネズの事が好きになった! 悪い?」

「え、いや、その、悪くはないが……お前も体調悪いんじゃないのか?」

「え? 私は全然平気よ?」

「いや、だって顔真っ赤だし……」

「好きだからでしょうが! この朴念仁! もういい! 脱げ! 抱け! お前の女にしろー!」


 リタが襲いかかってくる。ちょっと待て、三対一って!


「ちょっと待て!」

「隊長! もう私の思いは限界です! 待ったなしです!」

「わたくしもですわ! 家の血を残す為にも、ネズ様のを」

「逃がさん!」

「違う! これだけははっきりさせておく! 俺は、好きでもねえヤツは抱かねえからな。それだけは、ちゃんと先に伝えておく」


 一応、それも俺の中でのルールだ。ちゃんと伝えておきたい。


 だが、その瞬間、三匹の獣が誕生した。

 おい、まじかよ……。俺、ちゃんと寝れるかな……。

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