第7話 月影
あれから彼女はほとんど僕のアパートで暮らしていた。半同棲状態だった。
僕は佳奈さんの後押しもあってバンドを組んだ。
サークルの人達とも少しずつ仲良くなって友達も出来た。
だけど相変わらず彼女にはたくさんの男友達がいた。
彼女が誰かの肩に触れるたびに、誰かが佳奈さんの頭を撫でたりするたびに、僕の胸の奥には鈍い痛みが走った。
「佳奈。あんまり他の男友達にベタベタしないで」
ある日の帰り道僕は思わず彼女にそう言ってしまった。
それを聞いた彼女は目を伏せた。
「佳奈!」
「わかった」
そう小さな声でつぶやくと、彼女はふらりと何処かに行ってしまった。
空には消えそうに細い三日月が浮かんでいた。
深夜を過ぎた頃、彼女は家に帰ってきた。
僕はなんとなくバツが悪くて寝たふりをしていた。
「薔薇を咲かせたいんだ」
彼女が言った。
「いつか胸に綺麗で真っ赤な薔薇を咲かせたいんだ」
「寝てるの?」
僕は寝たふりをしたまま次の言葉を待った。だけど彼女はそれ以上何も言わないでバスルームに行ってしまった。
この時ちゃんと起きて話をしていれば、僕らは違う何処かに行けたんじゃないかって、今でも時々思うことがある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます