第7話 月影

あれから彼女はほとんど僕のアパートで暮らしていた。半同棲状態だった。


僕は佳奈さんの後押しもあってバンドを組んだ。


サークルの人達とも少しずつ仲良くなって友達も出来た。


だけど相変わらず彼女にはたくさんの男友達がいた。


彼女が誰かの肩に触れるたびに、誰かが佳奈さんの頭を撫でたりするたびに、僕の胸の奥には鈍い痛みが走った。



「佳奈。あんまり他の男友達にベタベタしないで」


ある日の帰り道僕は思わず彼女にそう言ってしまった。


それを聞いた彼女は目を伏せた。


「佳奈!」


「わかった」


そう小さな声でつぶやくと、彼女はふらりと何処かに行ってしまった。


空には消えそうに細い三日月が浮かんでいた。


深夜を過ぎた頃、彼女は家に帰ってきた。


僕はなんとなくバツが悪くて寝たふりをしていた。


「薔薇を咲かせたいんだ」


彼女が言った。


「いつか胸に綺麗で真っ赤な薔薇を咲かせたいんだ」


「寝てるの?」


僕は寝たふりをしたまま次の言葉を待った。だけど彼女はそれ以上何も言わないでバスルームに行ってしまった。


この時ちゃんと起きて話をしていれば、僕らは違う何処かに行けたんじゃないかって、今でも時々思うことがある。

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