第6話 夜は薔薇色
その夜僕はベッドを佳奈さんに譲って、床で毛布にくるまって眠っていた。
本当は眠れなくてずっと起きていた。
悶々と羊を数える僕の頬に彼女の手が触れた。
「ねえ。こっち来ん…?」
「え…」
「やっぱり起きとる〜」
そう言って彼女はニヤニヤと僕を眺めた。
彼女はニヤニヤしたまま布団をめくってポンポンとそこを叩いた。
「でも…」
「歳下やから口答えも禁止やけん!」
そう言って彼女は頬を膨らませた。
「お邪魔します…」
僕はそう言うと導かれるままに布団に潜り込んだ。
「敬語ぉ!!」
そう言って彼女は僕の両頬を摘んだ。
そう言って笑う彼女が愛しくて、可愛らしくて、僕は涙が出そうになった。
「泣きよん!? 痛かった!?」
そう言って慌てる彼女を僕は抱きしめた。
「佳奈さんが愛しくて」
僕がそうつぶやくと彼女の耳が熱くなるのを感じた。
彼女の心臓の音を自分の胸に感じながら、僕は自分の下半身がとんでもなく反応していることに気が付いた。
彼女は妖しく微笑むとそっと僕のズボンに手を伸ばす。
彼女の小さな手が僕に優しく触れた。
甘い痺れが身体を支配する。
思わず漏れる自分の吐息に恥ずかしさが込み上げてくる。
彼女の顔が僕の顔にいっそう近付いた。
とろんとした瞳に吸い込まれるようにして僕は彼女とキスをする。
やがてそれは互いの舌を絡ませながら粘膜を介して融け合うような甘く濃厚なものに変わっていく。
激しく燃える情欲の火が身に纏った理性まで焼き尽くして、互いに一糸まとわぬ姿になると、彼女はおもむろに立ち上がった。
鞄から小さな箱を取り出し中身を持って帰ってくる。
その姿にほんの少しだけ胸が痛んだ。
だけどそれで優しく僕を包み込む彼女を見て胸の痛みはすぐに消え失せてしまう。
僕は本能のままに彼女を貪った。
彼女もそれを受け入れて何度も僕を求めてくれた。
数時間前の二人にはもう戻れない。
それが嬉しくて、だけどどこか不吉で、僕の胸に顔を埋めて眠る彼女を撫でながら僕はやはり眠れずにいた。
「いつかね、薔薇を咲かせたいの」
彼女がぽつりとつぶやいた。
「薔薇?」
「やっぱり起きてた」
彼女はそれだけ言うとすーすーと寝息を立て始めた。
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