第5話 愚か者

「それって…?」


佳奈さんは少しだけ首をかしげて僕の目を見つめた。


「こんな時に言うのもあれなんですけど…僕は佳奈さんが好きです。僕と付き合ってください」


佳奈さんは目を丸くしてパチパチと瞬きした。


ほんの少しだけ彼女の口元がほころんだ気がした。


「ちょ、ちょっと待って!!」


彼女は顔を真っ赤にして両手を前に突き出した。


よくわからない動きで手をパタパタとしながら口ごもる彼女に、僕は畳み掛けるように言う。


「僕なら、僕らなら何処へでも行けるんじゃないかって、本気で思ったんです。絶対に佳奈さんを泣かしたり、悲しませたりしません!!」


彼女は側にあった毛布を手繰り寄せて鼻から下を覆い隠すようにしながら伺うように僕のことを見ていた。


「もうすでにちょっと悲しい」


彼女はそう言って僕から目をそらした。


僕はその言葉の意味を理解した。


その瞬間ハンマーで頭を殴られたみたいな衝撃が走った。


「ごめんなさい…そうですよね。友達だと思って信用してくれてたのに、僕は…僕はとても愚かなことをしました…」


そう言って僕は力無く肩を落とした。


「そういうとこだよ」


「え?」


「付き合うんだったら、敬語禁止。よそよそしくてちょっと悲しい」


「うん…!!」


こうして僕は佳奈さんの彼氏になった。




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