害虫駆除


害虫駆除


 門から庭に入る。スマホを取り出して内容を確認する。いつも通り雑草取りかと思っていたが違った。


『玄関前の蜘蛛の巣の除去、その他にも害虫を見つけたら駆除してください。道具は庭の黒い箱の中にあります』


「・・・・・・・」

 見ると、庭に雑草取りの道具が入っていたものよりも大きな箱があった。

 ロックを外して箱を開けた。中にはいくつかの道具と、何か畳まれた物が入っていた。畳まれているそれを手に取って目の前で広げてみた。

 服だ。服、といっても合羽のような質感のナイロンのような素材でできている防護服のようなものだった。腰の少し後ろの位置に左右対称にファンが付いている。フードが付いていて襟首が首を覆うほどの高さまである。通気性を上げるためのものなのか、服の所々に小さな通気口のようなものが、これも左右対称に付いていた。

 着てみた。

「・・・・・暑い」

 スーツには見るからにいろんな機構が付いていた。最初に目に付いたのは腰の位置にあるファンだった。左の方のファンを触ってみると、スーツから円柱型に突き出ているファンの下側に、ボタンのようなものがあった。押すと、カチッ、という音がした。すると小さい、ブオォーーーッ、という駆動音とともに、スーツの中の空気が少し冷たくなった。

「お~」

 涼しい。これなら少しは快適に作業が出来そうだ。

 左の腰のあたりには何かを装填できるような機構が付いている。

 道具箱を見ると中にスプレー缶のようなものがある。噴射口はない。

「これかな・・・?」

 缶を箱から取り出して服の左側ある機構にあてがってみた。大きさがピッタリ一致した。そのまま押し込んでみると、カチッ、と音がして缶がはまった。

 カシャッ!!

「!!」

 突然目の前を透明な何かが覆った、


「・・・・・・」


 おそるおそる

 ゆっくり

 何かも分からない透明なそれに手を伸ばした。

 コン、と音がした。

 硬いアクリルのような質感のシールドが顔の前を覆っていた。フードが自身で立ち上がり頭の上を覆っている。

 見ると、シールドの上端がフードの縁と一体になっていた。端から見ると宇宙服のようだ。

「・・・・」

 ・・・・・ここからどうすれば・・・・・・・・。

「蜘蛛の巣・・・・」

 蜘蛛の巣は玄関前にあるって言ってたな。とりあえず行ってみよう。


 玄関前に来た。まだ何に使うか分からないものがあるので道具の入った箱も持ってきた。

 玄関には一段の段差とそこを日差しや雨から守るための屋根があった。

 玄関の軒先の天井隅には、確かに蜘蛛の巣とついでに大きな蜘蛛がいた。

「・・・・・・・うーん」

 さっきから服のあちこちを触って何かないか探しているが、未だに見つからない。

 というより、この防護服みたいなのだけで駆除ができるってことでいいのかな? そういえば前みたいに箱の中に説明書も入っていなかったけど・・・。

「・・・あ」

 缶を装填した機構をいろいろと触っていると、側面にボタンのようなものがあった。

「・・・・・」

 カチッ。

 ボタンを押した。

 シュー

「!?」

 小さな噴出音とともに煙が出てきた、服から。

 突然のことにマスクがあることも忘れて焦った。止めようともう一度スイッチを押そうとするその間にも、煙が身体と周辺の空間に拡がっていく。カチッ、と再度スイッチを押すと煙の噴出が止まった。

「・・・」

 辺りが白い煙に包まれている。煙は玄関の軒先を完全に覆っていた。蜘蛛の巣を見ると蜘蛛がいない。下を見ると蜘蛛が落ちていて動かなくなっていた。

 缶の中は殺虫剤だったようだ。


「・・・」


 しばらく落ちた蜘蛛を見ていた。


 ・・・・・・・・あれは拾わなきゃダメなのかな?


「・・・そうだ」

 箱の中にはまだ何か入っていた。至る所に大きな穴の空いたかなり大きな透明の球だ。球の中心部分にはさらに透明な球がある。

 そして最後に、黒色の、片手でも扱えそうな操縦桿のようなもの。人が握れるようにの棒の部分に四つの凹みがあった。凹みはそれぞれ小指、薬指、中指、人差し指で掴める位置にあり、中指と人差し指の凹みには一つずつ、角の丸い四角いボタンと、棒の上部にはゲームのコントローラーのようなジョイスティックが付いている。ジョイスティックの手前にはPCなどでよく見る電源マークのボタンがあった。

 このジョイスティックでおそらくこの球を操作できることはなんとなく分かったが――――


「・・・・・・・・・ない」


 肝心のこれを起動させる電源ボタンのようなものが見当たらない。スーツを見た。さきほど煙を噴出させたボタンを見ると、ボタンには缶のマークが記されていた。その横にもう一つボタンがある。そのボタンには電気を表す稲妻のマークとその上に電波を表す内側から外側にかけて大きくなっている三つの曲線のマークが一つのマークとして表されていた。

 押してみると、球に付いているランプが青く点灯した。マークから見るに、ワイヤレスにこのスーツからあの球に電源となる電気を送電しているということだろう。

 とりあえず動かしてみようと左手に持った操縦桿のジョイスティックを親指で前方に傾けた。

 

 コロコロコロ・・・・・・と球が前方に転がった。


「・・・・」


 次に人差し指の位置にあるボタンを押した。すると、

 ウゥゥゥゥゥン、という駆動音を出しながら球が少し宙に浮いた。

 中指にあるボタンを押した。

 ゴトッ、と球が地面に落ちてそのまま転がった。

「・・・・」

 人差し指のボタンを押し続けた。今度は球が宙に浮いた後も上昇し続け、ボタンを離すと球が空中に留まった。

 中指のボタンを押すと球は下降した。


 人差し指と中指のボタンは上昇、下降ボタンだ。


 空中にある状態でジョイスティックを傾けると、球はクルクルと回転しながら宙を動いた。

「・・・」

 なるほど動かし方は分かった。

「よし」

 最後はジョイスティック手前にある電源マークのボタンだ。たぶんこれを押せばこの球が一体何をする道具なのか判る。

 ボタンを押した。

 

 キュイィィィィィン! と球が小さな駆動音を出し始めた。

 

「・・・」

 少し見て、もしかしてと思い球に近付いた。


 手を球に伸ばすと、空気の流れを感じる。

 しかも空気は球に吸い込まれるようにして流れていた。

 この球は空気を吸引している。



「・・・掃除機?」



 謎の道具の正体が判った。これは丸い形をした掃除機だ。


「・・・・・・ふう」

 この道具の正体も使い方も分かった。


 よし、と満を持して玄関先を見た。

 

 










 とりあえず覚えた操作で、球を蜘蛛の死骸の近くまで移動させた。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




 本当に死んでる?




 おそらく死んでいるであろう蜘蛛を見つめる。




「・・・・・・・・・・・大丈夫、ここは外だし。走って逃げれば・・・・・・・、おそらく」



 「掃除機」を近付けた瞬間に突然蜘蛛が動き出さないことを祈って、

 球の電源をつけて吸引を開始し、球を蜘蛛の方に近付けたその瞬間だった。


 スッ――――! とわずかに音がして蜘蛛が消えた。


 一瞬蜘蛛がとてつもない速さでどこかに行ってしまったのかと焦ったが、ただ目では追えないほどの速さで「掃除機」に吸引されただけだった。

「・・・おおぅ」

 思っていたよりも強い吸引力に少し引き、

「(近付かないようにしよう)」

 と思った。

 







 玄関先での作業は終わった。

「(害虫駆除って他には――――)」

 庭を見渡す。


「(・・・あそこは?)」


 庭の内壁に、人の背の高さほどある茂みを見つけた。


「・・・・・・・」


 害虫駆除のやり方は大体分かった。

 腰にあるボタンに手を伸ばし茂みを見据える。

 カチッ、とスモークボタンを押し、

 両手を空に広げるようにして上げて、

 

 ズサァ!

 

 とアホみたいに茂みに突っ込んだ。



「(むてきだー!)」



 スーツから殺虫煙を出しながら一応茂みの中に虫がいたら嫌なので、ブンブンと腕を切るようにして振り回した。

 その後しばらく茂みの中で煙を撒いてまわった。ガサガサと茂みから出て、煙のスイッチを切る。

 スーツの腰に引っかけられるようにも出来ている丸い掃除機の操縦桿を腰から取り、電源ボタンを押し球を起動した。

 そしてそれを茂みの中で上下左右にクルクルと移動させていたときだった。

 茂みの中の丸い掃除機の青いランプが、ピッ、とオレンジ色に変わった。

 ランプの色が変化すると同時に丸い掃除機の吸引も止んだ。

「?」

 スティックを後ろに倒し、球を茂みから出した。


 見ると、球からホログラムが出ていた。


 操縦桿のマークと、下向きの矢印が上から下へと表示されては消えてを繰り返していた。


「・・・・・・」


 左手に持った操縦桿を見る。



 左腕を地面に向かってパンチするように勢いよく突き出し引き戻す。

 



 ガチャッ!

 



 音がして球からまた別のホログラムが出た。

 球の中心から放物線が出ている。

 さらにその放物線が地面に接地する位置には半球が表示されていた。

「・・・」

 ジョイスティックを操作すると放物線が動いた。自由に狙いが付けられるらしい。とりあえず遠くの方に狙いを付け、

「・・・・・・」


 中指に当たる位置にあるボタンを押した。

 何も起こらなかった。


 次に人差し指に当たる位置にあるボタンを押したときだった。



 バシュッ! という大きな音ともに球が何かを射出した。



 狙いを付けた場所を見ると、丸い物体があった。目をこらしてよく見ると、それはいろんなもので無秩序に構成されているような物体だった。

「(葉っぱ・・・・・・・・)」

 見ると、さっきこの丸い「掃除機」で吸引した茂みの葉が見えた。

 球の方を見るとランプの色はオレンジ色から青色に戻っていた。

「・・・・・・」

 つまりこの「掃除機」は、吸引した物を球状に圧縮して一つのゴミとして排出する道具、ということだろうか。

 球の中心にある空間も空になっていた。


 作業を続けよう、と思いスティックを操作した。放物線が動いて、

「ああ」

 少し考え、操縦桿を持った腕を地面にパンチするように動かした。


 ガチャッ!


「・・・・・・」

 これでさっきの『吸引モード』に変わったはずだ。

 モードを変えると、庭を見渡す。




 その後は他に虫がいそうな場所が無いか探し、作業を続けた。









 作業を終えた。

 





「・・・・・・?」

 使った道具を片付けるため、道具が入っていた箱を移動させようとしたときだった。


 箱の底になにか文字が書かれたあった。


 そこには”シュート・スフィアクリーナー”という文字が英語で表記されていた。





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