near the home
起きた。
「・・・・・!」
覚醒していく意識の中で上半身を起こすと、その途中顔に冷たい風が触れた。
夜になっていた。
「・・・・・・」
目を開けてまず見えたのは後方からの光と前方に伸びる自分の影だった。
「・・・・・」
ベンチに座ったままゆっくりと振り返った。見ると、庭に通じる家の窓や二階の窓から明かりが外に漏れていた。
そのとき初めてこの家に人がいることを実感した。
「・・・・・・・・」
ふと二階の窓を見た。家の中に人影は確認できなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうだ・・・・」
今何時だろう。早く帰らなきゃ・・・。そう思ってスマホで時刻を確認すると、もうすっかり夜になっていた。
ベンチから立ち上がる。そのまま門の方に向かって、その日は帰った。
一ヶ月後
最初にこのアルバイトをし始めてから一ヶ月が経った。やっている内容はといえば相変わらず雑草取りだ。確かアルバイトの内容は家の周りの環境管理だと書いていたはずだけど、環境の管理というのはこの雑草取りのことだったのかな? もっといろんなことをするものだと思っていたけど・・・。
この日もいつもと同じ作業をして、作業が終わる頃にはいつもと同じ時間になった。
『作業を続けたい場合は続けるボタンを押してください。今日の作業は終了となります。』
いつもの文言だった。
普段は『続ける』を押して続けたりも、今日はいいと思ったら押さないこともあるが、今日は押した。ポン、と追加の雑草取りの範囲が示された地図が送られてくる。
その範囲はベンチの前だった。
向かって作業を開始した。
数時間経った。
あと数分もすれば終わるところまで雑草を取った。
「・・・・・・ふう」
さすがに疲れた。日も落ちてきている。
「・・・・・・・・よし」
最後の雑草を引き抜き、束になったものを一つに纏めて、指定された場所に置く。
アプリを開き、ボタンを押す。
「・・・・・・・・・・・・・」
眠い・・・。
そばにあるベンチに座った。
「・・・・・・・・・・・・・・」
目を閉じる。
目を閉じると、いつの間にか深い眠りに落ちていた。
「・・・・・・・・・・・・!」
起きた。
また眠ってしまっていた。
前のように辺りは真っ暗だった。
眠ったままの首をもたげた体勢からふと首を上げた。
「・・・?」
目の前に何かあった。
それはかなり大きく、寝てしまう前に庭にはなかったものだった。
テントだった。
「?」
この家の人が置いていったのかな? なんで? 家の中に置いておくには邪魔だった?
「・・・・・・・・・」
いやそもそも、この家の人がここに来たということは、寝ているところを見られた? 庭にあるものは使っていいとは聞いているけどなんだか恥ずかしいな・・・。
帰ろうとベンチから立ちあがろうとして、ふと動きを止めた。
違和感を感じた。
ここ一ヶ月感じていた違和感だ。このアルバイトの作業を終え、帰ろうとしたときにいつも感じる。
「・・・・・・・・」
・・・そうだ。
・・・家に帰ってもやることがないんだ。
帰ってやることといえばなんだ? ご飯を食べて、風呂に入って寝る。
明日になったらまたここに向かう。
なんの為?
ふとテントを見る。
あれを使おう。
一度帰るという手間を省いたらどれくらい「楽ができるか」を試してみよう。
テントの前に立つ。
近付いて判ったがテントは汚れ一つない、新品のような状態だった。入り口の部分に開閉のためのジッパーがあったので、開けて中を見てみた。かなり広い。
「・・・」
中に入ってみた。やっぱりかなり広い。キャンプ道具には詳しくないが、このテントは一人用ではないのかもしれない。寝転がってもほとんど中のスペースは埋まらないだろう。上を見ると、天井の部分は透明で、ジッパー式で内側から蓋ができるようにもなっていた。
テントの中心より少し奥には円柱状の袋に入った寝袋が一つあった。
テントの中心、透明の天井がある場所に仰向けになった。
「・・・!」
夜空だ。星が見える。
「・・・・・・・・」
眠い・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・すぅー・・・・・・」
そのまま寝具も使うことなく眠りについた。
「・・・・・・・・・うぁ」
間の抜けた声とともに目が覚めた。
目を開け気付いた。
・・・・・・そうだ、・・・ここはテントの中だ。仰向けになったまま透明な天井から外の様子を見ると、朝だった。
身体を起こしテントの外に出た。
「・・・お腹空いた。」
ぐー。
お腹がなった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?」
いつもどうやってご飯食べてたっけ?
「・・・ああ」
そうだ。家に帰ったらご飯を買いに行って、それを食べてたんだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・うーん」
それならここでもできる。
「よし」
コンビニに行って買ってこよう。
スマホで近くにあるコンビニを調べた。近くにスーパーマーケットもあったがそれは少し遠かった。
門から出てコンビニに向かった。
コンビニで朝食を買ってきた。ベンチで食べようとしたが、少しでも汚す可能性があったのでテントに入った。
朝食を食べて外に出た。
「・・・あ」
・・・・・・お風呂入ってないや。
「・・・・・・・・」
・・・仕方ない
・・・・今日帰って入ろう。
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