仲間と昇格・後

 旧雨今雨14






「やってるやってる。派手だな警察あいつらも」


 マオは仕掛けていた盗聴器の音声を聞きつつパイプをくゆらせ、イヤホンを片方もらったレンもその背中に身体を寄せた。足音、怒鳴り声、威嚇射撃、かなりドタバタしているのが聞こえてくる。


 皇家ロイヤルの船は、タレコミを受けて待ち伏せしていた警察に逃げ場のない海上で取り囲まれた。人身売買、売春斡旋、その他も積載せているものによっていくつ罪状が付くか楽しみである。可哀想なのは女性達だが、そちらはマフィアでもなければ犯罪に関わっているわけでもなくどちらかと言えば被害者だ。連行されたとてすぐに解放となるだろう。

 そして警察はそのかなり後方にもう一隻船舶を見付けたが─────中には、誰も乗っていなかった。


 そもそもはなからキャストを乗せてはおらず、居たのはマオレン、運転係の燈瑩トウエイのみ。エンジントラブルを装って停止した際、それなりに距離があいたのを確認してからゴムボートを引っ張り出し、船を捨てこっそりトンズラしたのだった。


 終わってしまえば呆気ない。マオが後ろを振り返る。


「しかし皇家ロイヤルのもそーだけど、燈瑩おまえが持ってきた船も勿体ねぇな…かなり高額するだろ」

「いいんだよ、持ち主が色々あって・・・・・処分に困ってたやつだから。棄てるの引き受けて逆にお金貰ってる」

「あ、そうなの?大丈夫かあんな適当に置いてきて」

「平気平気。足つかないようにしてあるし、あとは警察に廃棄任せちゃお」

「だから他にもゴミ・・積んでたのかよ。諸々の廃棄料ごと丸々ちょろまかしやがって、詐欺じゃねぇか」

「仕事はしたじゃん」


 笑って肩をすくめる燈瑩トウエイに、用心のために持ってきた釣具をイジりつつマオもカカッと笑う。どう見ても釣りをしにきたようには見えない3人組だが。


「あ、音聞こえなくなってきちゃった」


 コンコンとイヤホンを叩きながら言うレン水面みなもを滑り、ゴムボートは九龍湾へ近付いていた。レンはイヤホンをマオに返し不安気な表情をする。


アズマさん達のほうは上手く行ったんですか?殉職しちゃってません…?」

「ありゃ冗談だよ。知らねーけど死んではないだろ、イツキ居るし」

「信頼してるんですね」

「あぁ?何だその言い方、こっ恥ずかしいなお前…まぁイツキはそうだな。アズマちげぇけど」


 いいな、と小さく呟くレンの頭をマオはクシャッと撫で、気怠けだるげに言った。


「テメーも仲間だろ」


 レンはバッと顔を上げる。


「ほんとですか!?」


 その大声にマオはうるせぇと顔をしかめ、燈瑩トウエイは穏やかに微笑む。レンがやったぁと勢いよく立ち上がりボートがぐらりと傾いた。


「馬鹿、危ねぇ!!」

レン君それはマズい…あっ」


 全員の視界が揺れ、バシャァンと水飛沫が上がるとレンの姿は船上から消えていた。急いでボートを止める。

 少しがあって、暗い海から両手が突き出された。ジタバタしているそれにマオが釣り竿を伸ばして掴ませ手繰り寄せる。


「ぶぇっ…た、助けて下しゃ…うぇぇ…」

「面倒事増やしてんじゃねぇよクソ吉娃娃チワワ

マオゆっくり引っ張って、転覆しちゃう」

「さ、寒いでしゅ…」


 なんとか海から引きずり戻すと、海水まみれになりシオシオにしぼんだ吉娃娃チワワマオに抱きついた。


師範しはぁん…うぇぇ…」

「やめろ寄るな!ビッチャビチャじゃねぇかお前!」

「あっ、だから暴れたら───」


 振り払おうとしたマオレンが追い縋り、燈瑩トウエイが制する…より早く体重が片側に極端に寄ったボートをタイミングよく波があおる。

 結果。


「おぁっ」

「ひゃっ」

「うわっ」


 船は裏返り、水飛沫みずしぶきが、今度は同時に3つ上がった。





 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 明朝。人身売買組織お縄の記事はニュースの一面を飾ったが、それだけ。12Kは案の定皇家ロイヤルを無視、警察はほんのりと面目躍如、しかしそんな報道は九龍の混沌の中ですぐに立ち消え犯罪都市は通常運転。皇家ロイヤル跡地にはすかさず違う飲み屋が入ってきた。




 あのあとイツキアズマは死体を倉庫に転がしたまま【東風】へ帰宅。目撃者もいなければバックの組織もいないので追手の心配は無し、とすると、傷の少ない綺麗な身体は置いておけば必要な人間・・・・・が回収していってくれる。自分達で片付ける必要がないのは何とも楽な事だ。


 マオレン燈瑩トウエイの3人はコトが済んでから──1度ズブ濡れの服を着替えたが──皇家ロイヤルに居た少女らを迎えに行き、売春や人身売買といった核心は突かずおおまかな事情を説明。新オーナーだとしてマオを紹介し、彼女達にある事・・・を提案した。というか、このアイデアはマオの立案でまだレンにも告げていなかったので、1番驚いていたのは吉娃娃チワワだったが。






 ────それからいくらかのち

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