一雁高空
【黃刀】と酒泥棒
一雁高空1
中国のとある片田舎の、剣術のとある流派の家系。
本家じゃなきゃ意味がない、そういうもん。だが
俺たちは村八分だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「
父親の声を無視して
「出てくわけねぇだろバァカ」
今日は村の近くに商人の一団が来る。菓子や酒、煙草をくすねるのにこれほどの好機は無い。週に1度だけのチャンスである、むざむざ逃す訳にはいかなかった。稽古なんてかったるいことはやっていられない。
父親は
それでも父親は毎日鍛錬を欠かさない。愚直な男である。
そんなんだから、遊郭で一目惚れした女を大枚はたいて足抜けさせ連れて帰ってくるんだ。たまたま相手も心根の優しい人物だったから良かったものの。
九龍の方へと用事で行った折、武術関係の仲間に誘われ
口説き落として、は、語弊があるか。頭を下げ続けてが正しい。
よくそんなことがまかり通ったなと
母親は出産後ほどなくして亡くなった。父親は今でもことあるごとに母親の自慢話をする。だが、
「お…居た居た」
商人の一団を視界に認め、
商人達が荷物から離れる。今だ。
「すっかり忘れてた。今日は商人が来る日だったな」
「まだボケるには
言いながら酒瓶を掲げる
「本当にお前は、誰に似たんだか」
「
「じゃあそこは俺だな。母さんではない」
秒速の母親養護発言に、今度は
「いいから呑もうぜ。とっとと開けてやらねぇと
「あんまり呑むと成長しなくなるぞ」
「関係ねぇよ、もう16なんだから今更だろ。それにウチはみんなチビじゃねぇか」
もともと小柄な家系、それゆえ身体が小さいことを最大限に活かした独自の剣術を編み出し名を馳せた。スピード重視の技の数々、居合を得意とするのもそこに理由がある。
「
「ねーよ。
「うーん…俺はこれしかやってこなかったから…あ、最近剣を習いに来る子がいるんだよ。たまにだし、多分あんまり向いてないんだけど、良い子なんだ」
「やめとけ。バレたら本家の奴がうるせぇ」
「女性と子供には優しくするもんだぞ」
「出たよ、口癖。とっとと引退したらどうだジジィ」
チビチビと酒を唇につけつつ、父親は眉を下げる。
「生涯現役で頑張りたいんだけどなぁ。だって、母さんも‘剣を抜いてるお父さんカッコいい’って言ってた」
「あっそ。ならお好きにどーぞ」
「お前は何するんだ?
「さぁ…決めてねぇけど…」
毎日あちらこちらと周辺の村々へ足を運んでは、色に酒に博打にと遊んでいた。が、この周辺に別段面白いものはない。となるとここから離れ、行ってみたい場所…。
ひとつだけある。
母親の故郷だという九龍城砦。城塞内は東洋の魔窟などと言われ、薬に人身売買、殺人や抗争と悪い噂が絶えないが、だから何だというのだ。陰湿な嫌がらせしか出来ないようなこの村──ひいては本家──の人間に比べたら、堂々とブン殴ってくるだけだいぶマシなんじゃないか?マシの基準にもよるかも知れないけど。
「好きにしたらいいよ。父さん応援するから…グスンっ…」
「は?泣くなよ
「お前…グスンっ…そうやってると、母さんみたいで…」
すると、なんだお前!母さんの真似して!と父親がハシャいだ。見たことが無いのだから
長い金髪を束ね、月灯りの下で
「
「さすがに涙もろ過ぎだろ。歳食ったんじゃねぇのかジジィ」
確かに外見は父親にはあまり似ていない。息子は女親に似るっていうもんな、母の顔は知らないがまぁそうなのだろう。考えながら
何も無くとも、不自由も無い。そんな何気ない日々をなんとなく生きていた。
それからほどなくして。
本家の当主が死去し、次代へ家督が継承されようとした時に、その事件は起こる。
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