屋上とすれ違い
青松落色8
やってきた
目指すのは貧困街、よく
あとは
九龍外のグループ。富裕層地域での揉めごと。最近香港にきた。成金。失踪事件。血まみれの男。情報屋。白昼堂々の誘拐未遂。
散らばったパーツが集まり、少しずつ少しずつ嫌な形を成そうとしている。
しているだけだ。まだ何も成してはいない。
いない、はずだ。
走りながら何度も
そしてもう一度電話を鳴らそうと携帯を開くと。
「
「!」
間延びした声に振り返れば、隣の屋上へと続く足場の向こうに
「
「ずいぶん電話かけてきたねぇ。どしたのぉ」
普段と変わらない調子。
やっぱり…違うんじゃないか?
ふと、絆創膏だらけの腕が目に入る。以前転んだと言っていた傷。
「
「そうだよぉ」
「…ほんまは、ガラスで切ったんとちゃうか?」
いきなりおかしな質問をしてしまった。
おかしいはずなのだ、この質問は───本当にただ転んだだけの人間からしたら。
だが、
「あん時…
富裕層地域での喧嘩を
だから、あまり顔を見られないうちに姿を消した。いやになるほど有り得る話だ。
訊けば訊くほど、なにもかもが芳しくない方向へと進んでいく。
違うと言ってほしい。全部勘違いだと。あの夜の事も、失踪事件の事も、今日の事も、なにも自分には関係がないと言ってほしい。
「さぁ?どうだろうねぇ」
そう願う
「
「さぁねぇ」
「あいつらの仲間なん?お前らが、ここ最近の誘拐事件の犯人なん?」
「さぁねぇ」
気のない返事。
「
誘拐事件についても、
わからない。
「聞いてどうするのぉ?情報売るのぉ?」
確かに、情報屋として九龍の出来事を探るのは
「力になりたいねん。友達やから」
その台詞に
けれどすぐに表情を戻し、諦めたように言った。
「友達だと思ってるのは
「嘘やろ。お前も思っとる」
「思ってないよ」
「わかんないでしょ、
暗く沈んだ瞳。空気がガラリと変わり、見たことのない
わからないから聞いているんだろ、いや、その行為自体がもはやわかってないということか?そういう意味でのわからない、ではなくて、もっと根本的な何かなんだろうか。
回るのに、言葉が出てこない。今はなにを言っても白々しくなってしまうように思えた。
ふいに、
しまった、と
「
そう言って
「っ待てや
名前を呼ぶが
去っていく背中に為す術もなく、
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