6.亜人の王(3)


「つまり、僕たちもあなたの手のひらの上で踊らされていたってことですか……」


 驚愕と疑心の視線がサーファに突き刺さる。

 これまでにも幾度となく向けられてきた目だ。

 仲間だと思っていたのに利用されていた、信じていたのに裏切られた。彼の今の気持ちはそんなところだろう。


「手のひらの上って……。人をそんな、詐欺師みたいに言わないでよ」


 そのまま本題には触れず、小さな不満を口にしてみる。すると、後ろからアルフも応戦してくれた。


「いやいや、『詐欺師みたい』じゃなく、立派な詐欺師だろ」

「ちょっと! アルフは黙ってて!!」


 真面目な顔で裏切るんじゃない。

 仲間に背中から襲われて、こっちこそ裏切られた気持ちだよ。ここは流石にフォローを入れるところでしょ。


「そうよ、アルフ。サーファは詐欺師なんてチンケなもんじゃないんだから。言葉巧みに人の心を操る悪魔、いや小悪魔なのよ! ……ああ、小悪魔なサーファも素敵」


 こっちはこっちで、急にトンチキなことを言いだした。誰が悪魔か。

 どうして恍惚とした表情を浮かべているんだ。

 セノビアはこれが通常運転だから恐ろしい。


「セ、ノ、ビ、ア、も! ごめんね、騒がしくて。もう気づいているとおり、キミたちを救ったのは全部こちらの都合なんだ。だから『気にしなくていい』って言ったんだよ」


 全てを話す必要はない。

 ウソなんてつかなくても、伝える事実を選ぶだけでいい。


 あの村が王国兵に見つかるように仕向けた。

 村の狩人たちが山の麓に近づくように、ウサギを縄張りから追い立ててたのはちょっと大変だった。

 焚き火や食事のゴミを残しておいたのも、もちろんワザとだし、最初に村を襲った王国兵の片方をドサクサに紛れて殺したのもサーファだ。

 村を焼いた一発目の火矢は、仲間に木の陰から射掛けさせた。


 どれも、この作戦を成功させるためにサーファが仕組んだマッチポンプだが、そんな事実を伝えたところで何になる。


「もし、僕たちが。村が、逃げるという選択をしていたら……どうするつもりだったんですか?」


 もし彼らが逃げ出していたとしても、計画はほとんど変わらない。

 仲間と共に三十人の王国兵を皆殺しにして村ごと燃やしておけば、怒り狂った奴らは犯人を探し出すために、大勢の兵士を城外へと繰り出すだろう。

 村人たちが生きていることがわかれば、嫌疑は全てそちらに向く。

 昨日はあえて見逃した伝令の兵士。彼さえちゃんと殺しておけば、サーファたちの仕業だと気付く者などいない。


 城から兵士を釣りだすための囮が、村から村人に変わるだけ。

 アルフからは非情と言われるけど、結実に不要な枝を切り落とす作業に情なんて無意味だ。

 サーファにとっては、ミカンの樹に生えた夏秋梢かしゅうしょうを切るのとなにも変わらない。


 もちろん、これも彼には言う必要のないことだ。


「まあ、そのときはそのとき。別の作戦を動かすだけだよ。でもまあ、次善の策は最善の策じゃないから……。キミたちが戦ってくれて良かった、と心から思っているよ」


 サーファは笑顔で気持ちを伝えた。


 もちろん、これもウソじゃない。

 攻城戦の準備に奔走していた仲間たちに、余計な仕事をさせずに済んだのだから。彼らに感謝しないわけがない。

 

 村人たちが戦力として機能してくれたおかげで、主力部隊の体力を温存できたことは、最後の攻城戦の成功率を押し上げたはずだ。


 しばらくの沈黙のあと、ロンスがサーファの瞳を見つめて「もしかして」と小さくつぶやいた。


「サーファさん、亜人の王はあなたですか?」

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