幕間・始まりの日


 サーファは、アルフとセノビアに計画を説明していた。それはボルト王国の端の方にある支城のひとつを奪取するための作戦。


 支城とはいえ、国境に近い場所にある城にはそれなりの数の兵士がいる。兵士を指揮して鼓舞できる将軍もいる。城を奪う、というのは簡単なことではない。


「つ・ま・り。城の中から兵士を釣りだしてしまえばいいわけだよね」

「それはまあ、そうだが……。それができないから、城も落ちてないんじゃないか?」

「少ない手勢で攻めてもすぐに蹴散らされるし、ちょっと人数揃えて行ったら籠城されちゃうもんね。どこが『ゆうかんなコボルト』なんだか」


 真正面から攻め込めば、もちろん彼女たちの言うとおりになるだろう。そして籠城されてしまえば、攻めあぐねている間に援軍を呼ばれてしまう。


「ふっふっふ。実はね、ちょっと面白い話を聞いたんだ」

「えー!? なになに? 教えてよ、サーファ!」

「ふん。いいからもったいぶらずに話せ」


 セノビアは乗りが良いし、アルフは連れない。

 とても対照的な大切なふたりの仲間に向かって、サーファは地図にある山を指で示した。


「この山に人間が住んでいる村があるんだって。で、この村を王国の犬どもに見つけさせて、囮にする」


 そう言って、ふたりの仲間の顔をちらりと見る。


「……相変わらず、同族にも容赦ないな。お前は」


 アルフの顔が少し引きつっていた。サーファにとっては優先順位の問題でしかないのだけれど、アルフは優しいから情に弱い。


「いやん。そんなサーファが……大好き」


 セノビアはなぜか両手を自分の頬に当てて、照れていた。


「だが、そんな村ひとつじゃ大した数釣れないんじゃないか? 十や二十減ったところで、城攻めが厳しいのは変わらないぞ」

「まあ、ただ見つけさせるだけじゃダメだよね。だからボクが村まで行って、村の人間たちの手で王国兵を撃退させる。血の気が多くて、クソの役にも立たないプライドだけはご立派なコボルトなら、余裕で百は釣れるよ」


 笑うサーファに、アルフの顔はしかめっ面だ。

 あきれ顔、ともいえるかもしれない。


「村の人間たちに戦わせる? 抗うことも忘れた家畜のような奴らにか? そんなことが本気で思っているのか?」

「ちょっと、アルフ! サーファがやれるって言ったらやれるのよ。失礼なこと言わないで!」

「まあ、五分五分かな」


 このときのサーファの、紛れもない本音だ。

 アルフもセノビアも同じ様に驚いた顔をして、サーファに言った。


「高っ」「低っ」


 本当に対照的なふたりの大切な仲間を見て、サーファはケタケタと笑った。


 これはサーファがロンスと出会う、少し前の話だ。


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