4.王国兵の撃退法(1)
村の中がひどく慌ただしい。
そこら中に家具やら食器やらが散乱している。
まるで家を床下からひっくり返しているかのようだ。
村は総動員で戦いの準備が進めていた。
広場には金属の鍋やらすりこぎ棒やら布切れやら、ご家庭にある雑貨が次々と集まってきている。
必要なものはサーファが指示したらしく、これらの道具が王国兵との戦いでどう使われるのか、誰も知らないまま。ただ言われるがままに動いていた。
そんな中でロンスは「キミには別のことを頼みたいんだ」と連れ出され、ミカンの樹が並ぶいつもの斜面に立っていた。
「ここにあるミカンを全部収穫して欲しい」
「全部ですか?」
「そう。全部」
「熟れてないミカンも?」
「そう。全部」
えええぇぇ。イヤだなぁ。
これから成長するミカンを収穫するなんてもったいない。しかしサーファは、もう勝手にミカンをもぎはじめている。
「ちょっ、ちょっと待って。待ってください。せめて理由を教えてくれませんか?」
「理由? もちろん、コボルト退治のためだよ」と返事をしながらも、サーファの手は止まることなくミカンを容赦なくもぎつづける。
ああ。丹精込めてここまで育てたミカンが。
ひとつ、またひとつと、青いままもがれていく。
「おっと。これはいい色だ」と楽しそうに声をあげる彼女の手には、橙色に染まったミカンがひとつ。今朝の収穫でワルトンが見落としたのだろう。
ヘタを下に向けて、真ん中から半分にパカッ。
半分になったミカンを、更に半分にパカッ。
あっという間に四等分にされたミカンのひとつを、するりと果皮から外したサーファは、そのままヒョイと口の中へ放り込む。
「ん~~~。美味しい! ここは良いミカン畑だね」
「あ、そうですね。……って、なに食べてるんですか!?」
「ん? ミカンだよ」
「そうじゃなくて――」
「あはは。冗談だよ。大丈夫、コボルト退治に必要なのはコッチだから」
細い指に摘まみ上げられたミカンの抜け殻。
いつのまにか残りの房も食べてしまっていたらしい。
「そうでもなくて」
「あっ! キミも食べたかった? ごめん……全部食べちゃった」
そうだけど、そうじゃない。
かわいい顔で舌をペロッと出しても、ダメなものはダメだ。
「ここのミカンは全て村のものなんです。だから収穫したミカンは全て、まずは村長のところに集めることになっていて――」
「へえ。そんな決まりがあるんだ。ということは、村長のところにはもっとミカンがあるってこと?」
「え? あ、まあ、そうですね。他の村に持って行くためのミカンがあるんじゃないですかね。多分」
「なあんだ、それを早く言ってよ。ちょっと村長のところ行くよ!」
サーファはロンスの背中はバンバンと叩くと、あっという間に広場へと走っていった。
そして今、ふたりの目の前にはミカンが小さな山となって積まれている。
王国の兵士たちに負けたら、どうせ全部奪われてしまうのだから。
と、村長が倉庫を開放したんだそうだ。こんなにあったんだ。ミカン。
「よーし! さっさと皮を剥くよ!!」と気合いを入れる彼女の口に、剥かれたばかりのミカンの房が、またひとつ放り込まれた。
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