幕間・白昼の轟雷


 はじめはただの見回りだった。


 前日に「山へと入っていく亜人の姿を見た」という通報があったため、ダルシアは先輩ふたりと山を捜索することになったのだ。


 山には確かに亜人がいた痕跡があった。

 河原には焚き火の跡があり、魚を焼いて食べたらしいゴミも打ち捨てられていた。


 先輩たちは「流れ者の亜人が山越えしてただけ」と言っていたが、ダルシアは強い違和感を感じていた。しかし、ただ違和感があるというだけでは先輩たちに伝えることもできない。彼は山の中で必死に違和感の正体を探った。


 その結果、茂みに潜む三人の亜人を見つけることができた。これが違和感の正体だったのかはわからないが、山中に亜人の村があることが明らかになった。


 バラバラに逃げ出した亜人たちだったが、身体能力の差は歴然。ダルシアたちは、あっという間にふたりを捕まえ、間抜けにも銀杏イチョウの実のニオイを付けたまま逃げ出した亜人はあえて見逃した。


 亜人を追って村を見つけた先輩は、そのままダルシアたちの元へと戻ってきて村の場所を共有すると、捕らえていたふたりの亜人の拷問をはじめた。


 村人の数だとか、武器の有無だとか、普段の生活だとかを聞き出すと、現状の戦力で十分に制圧可能と判断した先輩ふたりは村へと向かう。


 ダルシアの仕事は、先に城へ戻って「何も無かった」と報告することだ。

 先輩ふたりが村で何をするつもりか、わからないほど初心うぶではないが、それに加わりたいと思うほど性根を腐らせてはいない。

 しかし先輩たちのすることを諌めるつもりもなかった。亜人ごときにそこまで心を砕いてやる理由がないからだ。


 お楽しみを前に足取り軽く亜人の村へと向かう先輩たちを見送り、拷問によって力尽きたふたりの亜人の死体を処理し、さて城へと戻ろうとしたその時だった。


 パァンと凄まじい音が響き渡り、空気が震えた。


 それはまるで雷が落ちたかのような炸裂音だった。しかし空は青く雲ひとつない晴天。なにか得体のしれないバケモノの叫び声かもしれない。


 大きすぎて確信は持てないが、先輩たちが向かった亜人の村の方だったのではないだろうか。


 背筋に嫌な汗が流れた。

 再び、先ほどと同じくらいの大きさの炸裂音が鳴轟いた。やはり亜人の村があるはずの方角だ。


 ダルシアは無意識のうちに走り出していた。

 先輩たちが向かった亜人の村の方ではなく、自分たちの城へ向かって一直線に。


 走りながらもダルシアは、報告すべき内容について頭の中で整理をしていた。少なくとも「何も無かった」ではないことは確かだ。

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