第12話 共感仲間を増やせ2
俺達、神岡龍一と今宮麗華の共感エージェントは、共感能力者であり共感エージェント候補の夢野妖子の教育を任された。
「俺達で、ほんとに良かったのかな?」
俺は誰ともなしに言った。自信も無いが、妖子が少しでも不安なら意次に言って代わってやろうと思ったからだ。
「私、先輩達でラッキーだと思ってます」と妖子。
「そうなの? どうして?」麗華が言った。
「お二人の話はボスから聞いてます。驚くべきスーパー新人が現れたとか。初めから次々と仕事をこなす稀に見ぬ逸材だと言ってました」
「あ、それは主に龍一の話ね」
「いえ、龍一さんもですが、麗華さんも凄いって以前から言ってました」と妖子が言った。
そう言えば、麗華の話はあまり聞いてなかったな。結構無謀な事するみたいだけど? ああ、苦労してないから無謀なのかも。って、じゃ教官としてはまずいじゃん。全然ラッキーじゃないよ。
「そんなことないわよ」麗華は、ちょっと照れる。
「んふっ。だから、とっても楽しみです。頑張ります先輩!」
なんて前向きで健気な後輩なんだ! 先輩もやる気満々だよ!
「ふふっ。わかったわ」
「うん、任せろ」
* * *
最初は俺と同じで定点遷移からだ。とにかく行って帰るだけだ。起動装置はインストール済みだし、使い方も一通り説明した。
そして今、夢野妖子はベッドに横になって遷移を待っていた。当然、起動するのは妖子本人ではない。
「じゃ、行くぞ。目標地点は十年後の今日、昼の12時だ。いいな?」
「分かりました」夢野妖子は素直に言った。
「じゃ、遷移トリガー」
俺は分かるように声に出して言った。すると夢野妖子を纏っているオーラが強くなった。バディは監視中、共感チェックを起動したままにしておく。
「行ったわね」麗華が言った。今回は彼女もバディだからだ。
麗華は、妖子に毛布を掛けてやった。
* * *
「ちょっと、遅いんじゃないか?」
十分経過したころから気になっていたが、妖子はなかなか戻らなかった。
「そうかな? まだ普通でしょ。龍一とは違うのよ」と麗華は言う。
「俺の時はどうだったっけ? 最初の時は、就職先が倒産する話だったけど」
「あれは特別よ。長時間行ってたから比較できない」
「それはそうか。思えば、いきなり無茶な事してたよな」
「そ、そうね」
ちょっと麗華は申し訳なさそうな顔をした。自覚はあったんだ。
「麗華の時はどうだった?」
「最初の定点遷移は、十一分くらいだったかな」
「もう、十五分だよ」
「そうか。ちょっと遅いね」
「共感解除するか?」
「共感解除はしたくないな。普通解除するのは共感チェックの発光色が変わった時だけよ。ショックがあるらしいから」
俺の時はやってたけどな。まぁ、あの時は戻り方の説明とかして無かったからな。イリーガル過ぎだろ俺の時。
「じゃ、どうするんだ?」
「十年後に行って彼女を探して連れ戻すしかないわね」
「手分けして探すか?」
「それもだめ。一人は残らなくちゃ」
「そうかわかった。じゃ、俺が行く。この時間なら花屋にいる筈だよな?」
「そうね。お店の仕事してる筈」と麗華。
もちろん彼女が十年後に何をしているかは確認している。
「じゃ、行ってくる」
「うん、しっかりね!」
俺は、もう一つの開いたベッドに横になった。ベッドが二つあるのが不思議だったが、こう言うこともあるんだな。
「遷移トリガー」
俺は迷いなく未来へ飛んだ。
* * *
俺は十年先の自分で目覚めた。
その時の俺は探偵社の接客テーブルにいた。仕事をしていた訳ではないらしい。
「ちょっと出て来ます」
「どうしたの? あ、なるほど」
隣にいる麗華は気が付いたようで何も言わなかった。
花屋は階下だ。俺は階段を下りて花屋の前を通りながら中の様子を伺った。
妖子は店先にいた。だが、俺に気付いたが微妙な顔をした。
「こんにちは」俺は、声を掛けてみた。
「……」
「あら、龍一さんこんにちは。ごめんなさい、この子昨日からおかしいのよ」奥から妖子の母親が出て来て言った。
「そうですか」
遷移点がズレたようだ。俺はおばさんとの会話をそこそこに昨日へと遷移した。
* * *
俺が昨日に飛んでみると、妖子は店の前でパニックになっていた。こんなこともあるのか? もしかすると、暗転が長すぎたとか?
「おい、妖子。俺が分かるか?」
俺は肩を掴んで、少し揺さぶってみた。目の焦点が合っていなかった。
「えっ?」
「俺だ、龍一だ。しっかりしろ。先輩が向かいに来たぞ!」
「せんぱい? 先輩!」
妖子は気が付いたようだ。そして、いきなり目から涙を流し始めた。ちょっと待て。
「大丈夫だ、大丈夫だから」
花屋の前で泣く女の子に縋りつかれる男ってのは一大事だ。
どう見ても俺が別れ話を切り出している? いや、店員だから! 花屋の店員だからな? まぁ、エプロンしてるから分かるだろうけど。
まぁ、花屋の店員を泣かしてる男も大概だが。
* * *
暫く泣くと、さすがに妖子も落ち着いたようだ。
「先輩、ごめんなさい。暗くて、ちょっとパニックになっちゃいました」
「うんそうか。仕方ないな。じゃ、一緒に帰るか?」
「はい」
「コマンドは分かる?」
「はい。大丈夫です。遷移離脱」そう言って、妖子は帰っていった。
「あらっ?」
いきなり、けろっとした表情で妖子が言った。
「今、帰ったんですね?」
「うん。そうだ」
「お疲れ様です。確か、ちゃんと帰れた筈です」
「そうか、良かった」
妖子は、すっかり普通の表情になっていた。いつもの明るいはつらつとした女の子だった。ただ、涙の痕はあったが。
「あの先輩。離れたほうが」
まだ、俺達は抱き合っていた。いや、軽くだが。
「あっ、すまん」
「もう少し、このままでもいいです」
妖子はおどけた顔をした。ふざけたりもするんだ。
そんなことはあったが、その後は特に問題なく夢野妖子の訓練は終了した。
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