第13話 重力理論を隠せ!
夢野妖子の教育は終了した。
これ以上は正式なバディが出来てからになる。もちろん花屋の店員は続けていく。今後バディが出来たとしても、依頼がある時だけ花屋の仕事を抜けてくることになる。まぁ、店主が親なので融通が利く。隠れ蓑としても使えるので一石二鳥だな。
教育が終わったので今まで通りの生活に戻った。ただ探偵社に出勤するとき花屋の前を通ると、ちょっと恥ずかしそうに挨拶をされるのが今までと違うのだが。
「龍一がデレてる」麗華が言った。
「からかうなよ」
「ふふふっ」
俺達はまた共感定期便の仕事に戻っていった。
* * *
「久しぶりだな!」十年後の神海意次は言った。
確かに、このところ未来からの依頼を貰ってなかったからな。夢野妖子の教育もあったが、共感定期便では依頼がないときは話もせずにすぐ帰るから間が空くこともある。
「話は聞いている。大活躍じゃないか」
どうも、政党名を考えた時のことらしい。実行したのは過去だが確定した未来なので結果はでているからな。もっとも記録が残っているだけだが。
「たまたまです」
「うん。そうだな。だが、たまたまが出来る奴を優秀な奴と言うんだ」意次は笑って言った。
「それでだ」
意次は真面目な表情になって言った。仕事の依頼らしい。
「かなりヤバイ問題が発覚した」意次は、ちょっと小声で言った。
「発覚ですか」
「そう。発覚だ」
ちょっと俺は緊張した。
「いらっしゃい」
神海希美がお茶を持って来てくれた。
「いつもありがとうございます」
「妖子ちゃんのこと。うまくいって良かったわね」と希美。
「はい。なんとかなって一安心です」
「彼女、感謝してたわよ」と俺を見て言う。
そうなのか? でも、十年後の彼女に感謝されることあるか? 一昨日彼女と花屋の前で抱き合ったばかりだけど。
「そうですか」
「ふふふっ」いや、そのふふふは何でしょう?
「こほん。で、仕事の件だが」
「あっ、はい」
「知ってると思うが、俺達の学園村の電力は安い」
「はい。そうですね」
「ガス田を開発したせいもあるが、実際のところは秘密の核融合のお陰だ」
「はい。知ってます」
「これが、バレたようだ」
「なっ! バレた? なんで?」
この学園村の秘密は固く守られている筈だ。
「どうやら重力加速器が成功しているとバレてしまったようだ」
「重力加速器が?」なんだって~っ?
「そうだ。それで、核融合が完成してるのではと疑われたんだ」
「重力加速器なんてあったんですか!」俺も知らない。
「あ? 知らなかったのか?」
「はい。ってことは、重力理論が完成してるわけですね」
とんでもない事、隠してるな。うちの学園村。
「おっ、詳しいな。そう言うことだ」
「なんでバレたんでしょう」
「そこなんだがな。うちの中央研究所も一応論文は発表している。微妙な研究をな」
「はい。そうでしたね」
「核融合関連も微妙な発表を持ち回りでしているんだ。だが、動いてないことになってる」ばりばり使ってるけどね。
「はい」
「だが、論文をズラっと並べて全部見ると、どうも理論が完成してしまうようなんだ」
「えっ? ああ、それぞれが正直に書いてる部分があるから、集めれば完成しちゃうのか」
「そうだ。パズルのようにな。ウソも多いんだが全部ウソは書けないからな。正しい部分を集めたら完成してしまったわけだ」
「よく、集める人がいましたね」
「ほんとだな。ただ、そういうことだ」
「分かりました。要するにパズルを完成させなければいいんですね」
「そうだ。よろしくな!」
こうして俺は、最後のキーとなる論文を書いた時代へと飛んだ。
* * *
そこは俺から見たら五年後の学園村中央研究所だった。俺が通っている大学に併設されているので場所はすぐにわかった。
「なに? 重力加速器がバレただと?」
中央研究所の所長は意外そうな顔で言った。重力加速器関連の研究者も数名来ている。
「はい。今回の論文でジグソーパズルのピースが埋まってしまったようです」
「ああ、そうか。この論文か。重力加速器そのものじゃないから気が緩んでしまったな!」
論文を担当した研究者が言った。気が緩むと凄い論文になるってのが普通じゃない。
「困りましたね。どうしましょう。これを今から書き直すとなると、今年の論文が出せなくなります。数だけでも微妙なものにしなければ目立ってしまいます」と研究者。
「そうだな。論文発表をしない研究機関には意味が無いからな」と所長。
「政府からの支援金も出なくなります」と研究者。
「まぁ、あれは要らないんだがな。お断りすると目立つから申請してるだけだ」と所長。
「しかし、重力理論を完成させた研究所となったら、世界を代表する研究機関になってしまいます」と別の研究者。
「それは、なんとしても避けなければならない。何処かに、それらしい論文はないか?」
「難しいでしょうね。普通はもっと出せないような論文ばかり書いてますからね」と先の研究者。
研究者たちは思いつかないらしい。困った顔で見合っているだけだった。
「普通の学生の論文を使うとか」
数を揃えるだけならいいかもと思わず言ってしまった。
「おお、それいいな君!」と研究者。いいんだ。
「何かあてでもあるのか?」と所長。
「いえ、特に。あ、椎名先生に聞いてみましょうか?」
「なに? 君、椎名君の所の学生か?」
「はい。一応」
「君、論文は?」
「はぁ、一応書いてますが」
「それでいいよ」と研究者。いや、よくないでしょう? てか、完成してないし。
あ、違うな。五年後なので俺は卒業してるから完成してる筈。でも、まだ書いてる途中の論文を見るのは面倒だなぁ。ああ、三年生の春に冗談で書いた論文を先生が気に入ってファイルしてたっけ。あれでいいか。
「『とんでもない』と先生に言われたものならあります」と一応断りを入れておく俺。
「かまわんかまわん。どうせ。その程度の論文を混ぜてるんだ。今回は君の名前が出ちゃうのが申し訳ないが、頼むよ」と所長。
「そうですか。まぁ、学生ですし、いいですけど」この先、学者になる予定も無いしな。
俺は、研究室に寄って俺のギャグ論文を探し出した。
* * *
ところが、俺の論文が話題になってしまった。学生の論文なので成果はないのだが。
「君の論文、面白過ぎるんだよ。普通、論文読んでて笑わないよ」と研究者。
「さすがに、私も笑ったよ君。腹が痛くなって困ったよ。あれは論文の形をした凶器だよ」と所長。
「済みません。ちょっと椎名教授を笑わせてやろうと書いたもので」
「ああ、確かに椎名君は堅物だからな。気持ちはわかる」わかるんだ。所長、俺の仲間ですね!
そんなわけで、俺は微妙な論文になるように書き直したのだった。当然、微妙にうまくいった。
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