第11話 共感仲間を増やせ1

 春も三月半ば近くになると、かなり明るくなってくる。時折吹く冷たい風も春の喜びの引き立て役でしかない。


「気持ちのいい日ね」と麗華。


 今日は、探偵社は休みだ。それで俺は麗華と近くの公園までピクニックに来た。公園の梅は綺麗に咲いているし、彼方此方で春の装いが始っている。

 この学園村の人達は出歩くのが好きなのか、まだ春も早いのに公園にはチラホラと散策している人も見えた。まぁ、俺達も同じなんだが。


「やっぱり、出て来て正解だったでしょ?」


 麗華は公園のベンチに座って言った。


「そうだな。俺はこのくらいの季節も好きだな」


 そんなことを言った。その割にはぐずぐずしていたが。


 特に珍しい細工のない素朴な公園だが、俺はこの公園が好きだった。

 ベンチも控えめに端に置いてある感じが良かった。目の前の原っぱには子供連れの人達が遊んでいた。

 麗華が弁当を拡げようとしていたらフリスビーがスーッと飛んできた。面白いんだけど、これ音がしないからちょっと危ないんだよな。まぁ、ブーメランほどじゃないが。

 俺はすっと立ち上がって掴んだ。


「ごめんなさ~いっ」遠くから、投げた本人と思われる人間が叫びながら走って来た。

「申し訳ありません。あっ」見ると、それは夢野妖子だった。

「あら、妖子さん」と麗華。

「ごめんなさい。手元が狂っちゃって」

「いや、大丈夫だよ。あれ?」


 お子さんですかと言おうかと思ったが、そんな年のハズないな。


「あ、近所の子供なんです。ちょっと頼まれちゃって」と夢野が言った。


 そういや、探偵社の仕事も手伝うとか言ってたし頼まれやすいのかな?


「そうなんだ。大変ね」と麗華。

「あっ、おじゃましました。それじゃ」そう言って、また子供と遊ぶ妖子だった。


「断れない性格なのかな?」


 俺は弁当を食べながら原っぱを眺めつつ言った。


「ううん、どうだろ。子供も好きなんじゃないかな」と麗華だ。


 気持ちが分かるのか? 何が面白いのか俺には全然わからないが、見ていて楽しそうなのは分かった。


「保母さんになってもいいかもな」

「そうよね」


 それから俺達は麗華の旨い弁当を食べたあと、ちょっとベンチでうたた寝してしまった。


  *  *  *


「風邪ひきそう」麗華もさすがに後悔してた。暖かいとは言っても、まだ三月だ。夕方の寒さに凍えて、俺達は探偵社で温まって帰ることにした。


「こんにちは~っ」

「あら、いらっしゃい。今日はどうしたの?」と神海希美。

「ちょっと公園でうたた寝しちゃって」と麗華。

「あらいけない。ちょっと座ってて。温かいもの用意するから」と希美。


 接客テーブルを見たら、そこには夢野妖子が座っていた。


「あら、妖子さん」と麗華。

「今日は、よく会いますね」と妖子。


 今度はこっちの手伝いか。一日中大変だな。


「やあ、お待たせ。あれ、お前たちもいたのか」


 意次はそんなことを言いながら、書類を片手にテーブルに座った。


「面倒な依頼でも?」と俺は聞いてみた。

「ん? いや、そういう訳じゃない。ちょっと、勧誘だ」

「勧誘?」

「うん、妖子さんには、いろいろ手伝って貰ってるんだが、もっとお願いしようかと」


 なんな、微妙な言い回しだなと思った。


「はい。これ飲んで温まって」


 希美がホットココアを持って来てくれた。


「済みません」

「ありがとうございます」


 俺達はありがたく貰って飲んだ。やっと人心地着いた。


  *  *  *


「妖子さんには探偵社の普通の依頼をこなしてもらってたんだ。だが、それだけじゃなく、お前達と同じ種類の仕事もできそうなんだ」


 落ち着いた俺達を見て意次が話し出した。ちょっと驚きだ。


「そうなんですか!」


 共感能力があるってことか。いや、普通の探偵社の仕事が出来る花屋の店員ってだけで凄いんだけど。


 俺は改めてまじまじと夢野妖子を見た。俺達と同世代か、ちょっと下くらいだと思うが、普通に可愛い女の子だ。この雰囲気で探偵の仕事をこなしていたと言うのか。まぁ、公園で子供と遊ぶ健康な人間なのは分かるけど。意次が普通の仕事を頼んでたのも、その能力に気付いていたからか?


「龍一、そんなに見つめるて失礼よ」麗華に注意された。

「あ、ごめん」

「いえ、だいじょうぶです」


 妖子は、ちょっと恥ずかしそうにしたが、笑顔に緊張感は無かった。まぁ、顔見知りだしな。


「お前らも分かると思うが、彼女には特別な能力がある。俺達と同じだ」と意次。

「分かるんですか?」俺には分からなかった。


「んっ? そうか、まだ言ってないコマンドがあったな。『共感チェック』だ」と意次が言った。忘れてたのかよ。アバウトだなぁ。


「共感チェック」と俺は言ってみた。


 すると、俺達の周りにオーラのような薄い光が見えた。


「何か光をまとってますね」

「そうだ、それが共感能力者の特長だ。共感能力があるかどうかは、これで分かる。ただ、ちゃんと使えるかどうかは別だ。素養がある人間はそこそこいるが正しく使える人間は、かなり少ない」


 意次はそう説明した。確かに、以前にもそんなこと言ってたな。どこが難しいのかは分からないが。


「あ、切るのは『共感チェック解除』だ」

「共感チェック解除」


 すっと、光るオーラが消えた。いつもオンにしてたら、じゃまな機能だと思った。


「それで、俺達の仕事については一通り説明した。ただ、彼女にはまだバディがいない」

「なるほど」


 つまり、俺と出会う前の麗華と同じってことか? いや、その前か。


「それで、訓練をどうしようかと思ってたんだが、丁度いい。お前達に頼めるか?」と意次。


 ちょうど良くないと思うが。


「いや……」

「はい、もちろんです!」と麗華。おいおい。


「うれしい! 麗華さんと仕事出来るんですね!」と妖子。あれ? 俺のバディだけど?

「バディって、三人でもいいの?」と俺。


「いやいや、訓練だけだ。お前に会う前に麗華は訓練を済ませてただろう?」と意次。


 確かに、既にちゃんと共感能力に長けていた。


「そういうことか」

「そういうことだ」


「頑張れよ!」と俺は言った。

「お前もな」と意次が言った。

「えっ?」


「当然、お前も参加だ。バディだからな。一人で行動しないって言っただろ?」

「ああ、なるほど。これもですか」

「これもだ」


「よろしくお願いします、先輩!」と妖子。


 先輩? そう言われると、頑張らなくちゃと思う単純な俺。


「うん、よろしくな」と、早速先輩風を吹かせる俺。

「ふふふっ」と笑う麗華。見透かされてるし。


 こうして、俺は共感能力の教官みたいな仕事をすることになった。まだ、初心者なのに。

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