第三章 終末へと向かう世界

第39話 社会の崩壊

「最近、町が平和になったなあ」

 おれは、徘徊しながらぼやく。


 結構若い子が、うろうろしている。

 あっ、信号が変わった。あの子。

 俺の力でも、さすがに間に合わない。


 結構かわいいのに。


 横断歩道の信号は、とっくに赤。

 車道側が矢印信号になり、雪崩れ込むように右折車が発進する。

 右折した先の横断歩道は、もう彼女は通り過ぎている。問題ない。


 上に高速道路が通っていて、橋脚がじゃまをしているため、突っ込む直進車が見えないのか、右折を開始した車たち。

 そこへ、信号を無視した直進車が、強引に突っ込む。


 双方、何とか躱すが、問題は渡り切れていなかった女の子。


 信号を無視した直進車は、対向してくる右折車を躱すため、大きく左にハンドルを切り、左側の横断歩道にまで割り込む。右折車を躱し、躱した先にいる女の子。やっと、その存在に気がつく。

 急ブレーキを踏み、ハンドルを切る。だが、急激なブレーキングからの急ハンドル。アンダーステアを起こした車は、真っ直ぐ突っ込んで行く。だが、女の子に気づかれ、次の瞬間。空を飛んだ。


「はあっ?」

 あーそうか。あの子の力か。

 腕をあっちへ飛べ、こっちへ飛べ、という感じに、ぶんぶん振っている。

 その顔はとても良い笑顔。非常に良い笑顔で、そこら辺りの車をなぎ倒し、流れ込んでくる力に酔いしれている。


 暴走している彼女を抱え、その場から逃げる。

 力を使い、浸食していく。


 現場は、当然大惨事。


 だがそれは、ここだけではなく。

 その日から、世界中で起こり始めた。


 主に、中学生以下の若い世代。

 近くで、誰かが死ぬと、能力を得る分母が広がる。

 従来と違い、理性が残らず、力を得るとすぐ周りを襲い始める。

 まるで、何かの計画が、次の段階に入ったように、能力を得て進化した新人類は周りを襲い、その命を食らう。

 一週間もすれば、世界中が社会機能を失っていく。

 本当に、あっという間だった。


 特に、昆虫の力を持つものは、全く見境なく襲って命を食らう。

 獣は、もう少し用心深いが同じ事。

 そして、あふれかえる光使いと、その使途たち。

 力を持たない人たちは逃げ回る。


 人類は、今4種類存在する事となった。


 先週の、笑顔で人々が歩いていた町は、静まりかえり、動く車もなくなった。


 人の騒めきが、聞こえるところは、光に導かれた人たち。


 世界は、いきなり終末へと足を踏み込んだ。



「あーまだ、アイスあったよ」

 ニコニコしながら、くみがアイスを咥えている。


「良かったなあ。ただ電気がいつまで使えるか分からん。そんなものを食うのは今のうちだが。そうだな冷凍物とかは先に食おう。保存の利く食い物はある程度必要だしな」

 そう言うと、アイスの甘い口でキスしてくる。


「私たちは、総を食べるから良いけど」

「馬鹿だろ。それだけじゃやっぱりまずいだろ。腹は不思議と減らないけれど」

「そうなんだよね、食欲はあまりないし、眠らなくても平気だし。エッチだけはしたいけど」


 ここは、誰かが持っていたビル。勝手に使わせて貰っているが、身内の親たちも仲間にした。

 騒動が起こったときに幾人かは亡くなったというか、行方不明だが。


 籠もっているだけじゃ駄目なので、この建物を起点にして、食料や必要なものを集めて暮らしている。

 まだ電気や水道。ガスも使えるが、備蓄をしつつ。管理範囲を拡大中。


 光に、浸食された奴も、俺の制御が強く。上書きして杏果の友達なんかも助けた?

 途中で、学生だけの光使いが居て、襲われた。

 その時に試したが、光使いだけは、浸食をしても抵抗が強く。そのまま食らった。

 能力の拮抗、光は、俺にとっての天敵なのだろう。


「だけど将来的には、田舎側へ移動して、農業をしないと駄目だよな」

 俺が独り言のように、つぶやく。だが周りに聞こえたようで。


「そうだね。総君の言うとおり。このままでは、じり貧だよ」

 これは、くみのお父さん。くみが俺とキスしていても、すぐ側でニコニコしている。

 仲間になるまでは、くみともギクシャクしていたようだが、仲間達の特性か、わかり合えたようだ。


「田舎に行って、自給自足。今は色々なものがあるから、発電設備とその辺りは何とかしよう」

 一美のお父さんは、電気関係の仕事をしていた。

 役に立つ。


「とりあえず、移動用のバスとかトラックを探さないとね」

「そうだな、まだ通信インフラが生きているから、今のうちにマップを作って必要な施設をマッピングしないと駄目だね」

「それが一番だね。地図は、本屋にあるだろうから持ってくるか?」

「不動産屋に行けば、住宅地図もあるだろう」

「それはそうだ、じゃ市役所で良いのじゃないか?」

「欲張っても、持ち歩けない。必要な分だけで良い。今度移動するときに、マッピングの更新をしても良いし」

「そうだな」


 お父さん連中が、必要な意見を出し纏め、行動してくれている。

 俺は、仲間にしているが、現状ほとんど支配はせず、自由意志で動いて貰っている。


 ただどうしても、上位能力者への心酔がある様だが、これはもう仕方が無い。


「後はJAに行って、色々なものの種を取ってくる事と、釣り具や網などを集める。やはり車が欲しいな」

「でも車は、総君がいないと、あっという間に引っくり返されて終わりだよ」

「今居るのは、化け物ばかりだからな」


 そこへ、一美と奏が帰ってくる。

 この二人。どうこう言っても仲が良い。

「拾ってきた。親は、殺られたみたい」

 一美の報告。


「小学校の低学年か?」

 目線を合わせて、聞いてみる。

「弟、怜央(れお)が三年生。私、田辺真洸(まひろ)五年生。です」

「そうか。大変だったな」

 そう言って、頭に手を当て、浸食する。


 まだ能力を、持っていないようだ。

「何か食べろ。それと誰か、物資調達時に子供用の服も持ってきてくれ」

「はーい。さあ、あっちへ行こう」

 甲斐甲斐(かいがい)しく、杏果が連れて行く。


「やることは沢山だが。危険がありそうなら、すぐに逃げて、俺を呼ぶこと」

「「「はい」」」

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