第37話 告白

「くっ苦しい」

 飢餓が、前より辛い。


 幾人か食ったが、収まらない。

 力は増している。


 私は諦め、昔よく通った道を、よく知っている家に向かい歩いて行く。


 ドアの前で、30分ほど悩み。ベルを押す。


「ほーい」

 間抜けな声を出し、奴がでてくる。

 私に、こんな苦悩をおわせた奴。

 

 理性では、嫌がるのに、心の奥底でもだえ苦しむように、彼を求めてしまい制御が出来ない。

「おじゃま」

 そう言って、家に上がり込む。

 つい、周りを見る。

 変わらない。


 後ろを付いてくる、総に悔しいが言い放つ。

「総。何でもするから頂戴」


 2階に上がり、ドアを開く。

 すぐに、服を脱ごうとしたら、目の前には凜とした空気を纏い。

 私の親友。いえ。親友だった女。


「なっ奏」

「おやこれは、一美。何をする気ですか。お忙しい総には順番があります。今からは私の番。あなたは、末席。そこに着座し、おとなしくお待ちなさい。それが礼儀」

 振り返るが、何も言わない総。

 ただ私を見つめる。

「くっ」


 一人分間を空けて、座る。

 なんでこんな。チームの中で君臨し、私の強力な力で。

 なのにそれが、なんなのよこいつら。


 奏は女の子の日だったようで、口と手で愛おしむ様に総を相手している。

 総はそれを、なだめるように頭をなで、奏もそれを嬉しそうに受ける。


 しばらくして、終わったのだろう。

 ティッシュで、口を拭い離れる。

「総ごめんね。満足できなかったと思うけれど、後が控えているから、かわいがってあげて」

 そう言って、奏はこちらをちらっと見て、部屋を出て行く。


 私は、涙とよだれ、色々な物を流しながら。

 悔しくて、たまらなかった。


「どうするんだ? するのか?」

「するに決まっているでしょ」

 そう言って、総に触れる。

 それだけで、幸せになる。


 長年待ち続けたような、渇望が埋められていく。

 抱きしめられ、脱がされる。

 直に触れるともうだめ、本当に色々な物があふれて気持ちまで抑えられなくなった。

 無我夢中で、あふれる快楽の向こうに、乾ききった心が埋められる。

 一度では収まらず、幾度となく彼を欲した。

 無論、彼を元気にするため口も使った。


 そのものは、これ以上なく甘く甘露。

 奏の表情。その理由が分かった。


 脳に近いところでの快感。

 甘受できる感覚が、多ければ多いだけ幸福度が増す。


 結局足腰は立たず、何年ぶりかで総のベッドで寝る。


 夜半、物音で目を覚ます。


 少し離れた所で、くみと言う女を相手にしている総がいた。

 でもそれを見て、悔しいとかは思わなかった。

 あんな風に愛して欲しい。

 慈しむような行為。


 お互いがお互いを高め合うような。


 やがて、満足をしたのだろう。

 軽いキスの後、窓から出て行く。

 獣のような動き。

 月の光の中。その姿を美しいと感じた。


 もう私の心に渇望はなく、満たされている。

 早く、彼に抱かれればよかったのに。つまらないちっぽけな意地、なんの役にも立たない。彼の庇護に入るだけで安心して暮らせる。

 そんな安心感が、私を支配する。


 翌朝、もう一度抱いて貰い。

 おばさんに、言い訳をして。

 朝ご飯まで頂いて帰った。


 家に帰ると、家の前に奏が立っていた。

「どうだった? 初恋の人は?」

「はっ?違うし」

「どの辺りが? ずっと彼のことを気にして文句を言って。辛ければ頼ってくれば良いのになんて言って、空手もそのために続けていたんでしょ」


 そう言われて、何も言い返せなかった。


「彼の友人。明智だっけ。聞いた所によると、総。彼つい最近まであなたのことを好きだったみたいよ。初恋を引きずっているって、ぼやいていたみたい。よかったわね」

 それだけ伝え、奏は帰って行った。

 いつから、待っていたのよ。

 友人だけどたまに怖いわ。


 家に帰り母さんにも言い訳する。

 泊まることは、言ってあった。

「不可抗力だから」

 そうは言ったが、母さんに言われる。

「何があったかは聞かないけれど、あんた相当気持ちが悪い顔をしているわよ。今晩は、お赤飯かな。お父さんが泣くわよ」

 そう言って、台所に行ってしまった。


 洗面所にいく。

 鏡に映る私は、非常にすっきりした顔で、満面の笑みを浮かべていた。

「何よ。締まりのない顔」

 顔を直そうとするけれど、心が許してくれない。


 私は、ずっと無表情で冷たいとか言われ続けてきたのに。

 何よ、この顔。


 その晩本当に、赤飯だった。

 お父さんは、本当に泣いた。


 お風呂へ入って鏡を見る。

 まだ顔が、ニヤけて戻らない。

 自分で体を洗うため、触れるだけで彼との行為を思い出す。


 又触れてほしい。

 あの女のように抱いてほしい。

 満たされていた心に、痛みが走る。


 その晩は数年ぶりに、ゆっくり寝た。


 翌日。夕方に彼の家に向かっていた。


 又、奏が居る。


 ドキドキしながら、上がっていく。

 そして、二人の脇に。

 黙って座り。自分と重ねて、行為を見守る。


 そして、自分の番。

 彼に伝えた、自分の気持ち。

「ずっと好きだったの」


 彼は答える。

「そう。ありがとう」

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