第36話 ついに認める?

 そんな、一美は総達を獲物を見つけた。そして身に宿る獣の力。

 暗闇の中を、移動しながら、その姿を視界の中心から外さない。


 その脇で、自分にも見せたことのないような、媚びた笑みをこぼす友人。

 それに対し、美人で派手な子が、明らかに卑猥な言動を平気でして、なにがなんでも総の目を向けようと頑張る。

 その脇では、ちょっとおとなしそうな子と、中学生くらいの子が固めている。


 その後ろには、仏頂面した女の子と、前に逃げられた獲物の男。


 後ろの2人は別にいい。

 問題は、総よ。

 こうして追いかけているのに、完全に気がついている。

 いつから? いや最初っから?


 どうして、足がすくむの? どうしたのこれは?


 すると総が、隣に居る中学生に何かを言うと、恐怖が消えた。


 あの子も、能力者?

 でも感じない。

 はっ。前に奏が言っていた言葉。能力の隠蔽と、能力者の実力が大きすぎると理解できない。

 そんな。私は、獣の力。

 昆虫みたいな非力じゃない。


 きっと隠蔽ね。

 私は強いもの、ほら軟派目当てで、声をかける三人組だって瞬殺よ。


 やがて、彼らは参拝を済ませ、そのまま山側の公園へと向かっていく。


 彼らに、誰かが声をかける。

「あれ、前田や浅井? 偶然だな。今年はこっちで見るのか?」

「黒瀬?」

 花蓮が気がついたが、くみは嫌そうな顔をする。


「ああ。おひさ」

 花蓮も、気がついたのか嫌そうな、顔になる。


「ちょっと見ないうちに、雰囲気が変わったね」

 そうこいつは、今現在。力を使って、何かをしている。

「まあ色々あってね。もう高校生だし。知らなかった事も覚えて、少し大人になったのさ」

 そんなことを言っているが、力が効かないことに気がついた。


「おまえらなんで、力を感じないのに」

 目を見ると、何かを出しているのか怪しく目が光っている。


 奏が教えてくれる。

「何か音が聞こえる。とても不快。対象を操るのかもしれない」

 そう言っている奏も、力を使っていて。周囲から、急速に人気がなくなる。


「畜生」

 そう言って、逃げようとするが、明智と安田さんにぶつかる。


 花蓮に向いて聞く。

「良いのか?」

「うんまあ。力を使ってきたなら敵よ」

 皆が、一蹴りする。


 その中で一人。怖くて震えている人間がいた。その異様な雰囲気の中、安田千夏ちゃんは力を持っていない。

 当然理解ができず。ただただ、異様な雰囲気。

 頭の中ではパニックだ。

 自身がスカートで、地面に座り込み。皆に中身を見せていることなど、全く気にならない。


 いや、気にしている余裕がない。

 そして目の前で、もがきながらさっきの男が、闇へと沈む。

 なにが起こっているの?

 そう考え、隣の明智を見ると、嬉しそうな顔だった。

 同時に、自分にも何かが流れ込んでくる。


 そして、目を開ける。

 自分の前に居る化け物と、手を繋ぐ化け物。その強さに気がつく。

 そう。今の一瞬で、光あふれる世界で何かを捕まえてきた。


 足が震える。

 足が震えるが、本能が勝つ。

 光を……。


「あっ」

 発しようとした刹那。頭を掴まれる。

 ついでに、明智も。総に捕まり浸食される。


「命令。仲良くして」

「「はい」」


「あーあ。したくはなかったが。しちゃったか」

 だが、束縛は弱くしてある。


 くみ達のときとは違い。力もコントロールできるようになっているし、今は彼女を求めていない。

 うまく、コントロールが出来たようだ。



 そしてそれを見ていた、一美。

 ふらふらと、出てきて。

 力なくぽすぽすと、攻撃をする。

 そして、食われるではなく、浸食を受ける。


 子供のときから、守り。ふがいない姿を見て、いじめもしたが。

 総を一美は好きだった。

 そのために空手まで習って、頑張った。

 その頼りない姿を見たくなくて離れたが、ずっと。

 そんな気持ちが、急にわき上がってくる。



 一美は、総にすがりつき告白をする。

「総。私のことを好きになっても良いのよ。許してあげる」

 そう言った瞬間。周りの目は剣呑になる。

「あん?何だそれ」

 総は、つい返す。

 一美は周りの空気が変わったことを、当然理解する。


 あわあわしながらも、口をついて出る言葉は、能力による束縛を振り切り攻撃的台詞ばかり。

「どうして、分かってくれないのよ」


 そう言っても、一美の口から吐かれる台詞は、すべて上から。

 なにを分かれと?


 そうして。やっと、素直に言うことを心に決めた一美は、口を開く。

 するとお約束の、花火の轟音。


「うわあ綺麗」

 すでに皆は、花火が見える方へと移動。


 それから数日後。一美は総の家に泣きながらやって来た。

 眷属としての、上の者からの受容。

 そう。接触し力を分けてもらえないと、肉体的飢餓がくる。


「総。何でもするから頂戴」

 そんなことを言いながら、来たようだが。そこには奏が座っていた。

 きちんと、礼儀よく頂くもの。

 そんな、誰が決めたか分からない説教をくらい。泣く羽目になる。

 そうして、グループにおいて最下層に収まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る