第34話 力と状態
山崎は焦っていた。
昨日高い肉を食べたせいか、体がおかしい。
「普段良いものを食べないから、体がびっくりしたのか?」
普通ならアレルギーとかを疑うが、そんな考えは湧いてこない。
「熱は、38.5度。まあ高いがいけるか」
そうつぶやいて、いつものように出勤をする。途中で解熱剤を飲み。
ついでに、栄養ドリンクを、一本飲み干す。
「良し」
そこには、立派な日本のサラリーマンがいた。
だが、書類を書いていると、軸がもろっと消える。
手を見ると、うっすらと光る。
何だこりゃ?
そう思い、ふと思い出した夢。
光に塗りつぶされた世界。
そこでもがいていて、何かを掴んだ。
やっと気がつく。
「これって、まさか」
昨日、店員が毒を撒き。その後消えた。
あれってあの時。死んだのか。
居なくなる手前。掴んで落とした。
その後あの子が、ぺしぺしとお尻を叩いて。消えた。じゃああの子も。
そういえば彼が、熱が出るかもしれないと言っていた。
「分かっていたんだ、あの時」
ついぼやく。
新しい、ペンを出すが、消える。
PCで、入力と思ったが、数文字打つとキーが消えていく。
キーから文字が消えた、マニアックな無刻印キーボードができあがっていく。
うわっ。一度、手を止めたら、キーが分からなくなった。
駄目だこれは。
諦めて、長瀬に事情を言いに行く。
すると黙って、電話を取ると、どこかに通話。
警官と、救急隊員が来て、どこかへ連れて行かれる。
厳重なドア。壁はコンクリートぽいが、ひどく寒い。
中には、鉄板が入っているだろう。
声が聞こえる。
「この壁は、マジックミラーで。こちら側ではモニターをしておく。聴取の結果三日から一週間くらい熱が出て、長いほど強い力だという事だ。バイタルモニター用のセンサーをこれから付けに行く、暴れるなよ」
そんなことを言われると、触りたくなるよな。
ペタぺたと触ると、厚さ10cmのアクリルと、フイルムの複合強化マジックミラーが無くなっていく。
「ああ。お疲れ様です」
直視して、驚く一同に挨拶をする。
「モニターは良いですが、こっちの部屋寒いです」
「熱があるからだな。分かった。だが、このアクリルボード高いんだ。数年はボーナスなしだな」
驚いた瞬間、円形に切り取られる。
「なっ。何という。しかし、きちんと制御をしたまえ」
「何とかします」
そうして、結局二週間ほど幽閉される。
「なあ花蓮。杏果ちゃんの力。理解できているか」
「うん。体が震えるの」
「じゃああれだな、力を付ける前に仲間になって貰うか」
「そうだね。うん。そうしないで、敵対とかなるといやだしね」
目の前には、ベッドで苦しそうにしている杏果ちゃん。
ピタッと頬に、手を当てると、力に引き摺られているのだろう。
目を開けるが、昨日までのかわいい杏果ちゃんでは無く、今にも噛みついてきそうだ。花蓮には、そこまででは無いようだが、俺の力が体内にあるため。それが匂うようだ。
がうがうと吠えそうだし、睨んでくる。
「ほれ。お食べ」
右手の人差し指を、口に突っ込む。
無論食いちぎる勢いで、噛みつかれる。
半分くらい、ちぎられたところで動きが止まる。
当然俺の力の方が強く、杏果ちゃんの中に居た闇を。浸食した。
すでに、指の傷は塞がって来ているが、流れた血などを美味しそうに吸っている。
「離して、杏果ちゃん」
ぶんぶんと首を振る。
「おいひいから、ひゃだ」
「キスしてあげるから」
そう言うと、指を離す。
約束とおり、キスをしながら力を分け与え、さらに体へなじませていく。
少し経って熱を測ると、39度近くあったものが、38度くらいに下がった。
「これで大丈夫かな。お休み」
「はい。明日には多分動けます」
おっ態度も戻ったか。
「無理はしないで」
そう言って、頭をなでる。
一応、おかゆと、おじやを用意し、追加のだしも作る。
その日は、花蓮とまったりする。
すっかり忘れていた、明智だが。力を使いこなし、千夏ちゃんの部屋にいる。
もちろん無断で。千夏は誰かと電話中。
『そうそう。そろそろ。男との付き合いも経験は必要でしょ。最初っから理想の人だと舞い上がって失敗しそうだから、適当なところで手を打って。そうそう、そうよ。いきなりで、恥をかくくらいなら練習をして。そうそう。そんなの、適当に別れればすぐに記憶から消すわよ。無論ツーショットなんて一枚も無いし。まあおごってくれるしね。あの花蓮先輩からの紹介だし。そうよ、そうそう』
ベッドに寝転がりながら、ひたすらしゃべっている。
横に居る明智は、無論目から涙が、だばー状態。
そして、千夏ちゃんは電話が終わり、寝る前の日課。
自らの体を、まさぐり始める。
その方法と手順。弱いところを完璧に把握する明智。
さてさて、千夏ちゃんは、弱いところを完璧に把握する明智から、適当なところで逃げられるのか。
ああ無論。明智だから、動画も撮っているよ。下種だもの。
力を得てから、花蓮やくみにも近付こうとして、すぐにばれ、なにを蹴りあげられた。
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