第33話 山崎さん能力を得る

「君も、能力者なのかい?」

 奏に向かって、山崎さんが問いかける。

 無論奏は、今更という顔だが。


「当然です。力無き者は、これから先の世界では必要ありません。最初に力を受けたときに、神からの啓示を受けました。弱き者を滅ぼせと」

 それを聞いて、俺たちも驚く。


「おい、奏。何だそれ、俺は聞いていないぞ」

「「私たちも」」

 皆が反応する中、オロオロする特別対策室のメンバー。

 落ち着いているのは杏果のみ。ひたすら肉を焼いている。

 三枚に一枚くらいは、俺の取り皿へ入れてくれる。ありがたい子だ。

 姉ちゃんは見習うべきだ。うん。


 一応、反射的に聞いていないと、奏に問うたが。

「問題ないか。まあ良い」

 自己完結をすると、花蓮とくみも。

「そういえば、そうね」

 そう言って作業に戻り、黙々と肉を焼く。


 周囲のザワザワが大きくなる。

 どこかで、世紀の大勝負でもやっているのか?


「君達。全員なのか?」

「いや違うよ」

 俺がそう言うと、山崎さんが安堵する。

「杏果は違うな」

 そう言うと、顔が上がり、何の話という顔になる。


「何か力を使えるか?」

 基本何か力があれば、感じることが出来る。

 隠蔽まで出来るのは、大分上級だからな。


 赤い顔をして、うつむくと。ふっと顔を上げる。

「お兄ちゃん。好きです」

 何故か告白をしてきた。

 何故この場で。


「くっ。クリティカルなダメージがもろに」

 胸を押さえ、思わず倒れ込む。

「何を言っているの杏果」「「何を言っているのあんた」」

 最初の声は、花蓮。後のはくみと奏。


「だって。一緒にいると、美味しいものがいっぱい食べられるもの」

 そう言われて、また場が固まる。


「「「たしかに」」」


「じゃあ、仕方ないわね」

 花蓮が納得する。

『良いのかいぃ?』

 特別対策室のメンバーが心の中で突っ込む。


「まあ色々と、情報をありがとう」

 そろそろ、積み上がった伝票が、恐怖レベルになってきたのだろう。山崎さんが終わらそうとしきる。すると、発注用のタブレットが消える。


 次々と、注文品がやってくる。

 山崎さんと長瀬さんが呼吸できないようで、パクパクし始める。


 かわいそうだから、1つくらいならお手伝いをしますよ。

 そういうつもりだったが、何故か口から、声として出なかった。


 花蓮が反応し、解毒薬を撒き出す。

「対応できるか?」

 あっ声が出た。

「んー多分。解析は終わったし同系統」

 何奴かな、目視で発生源を視る。


 影で捕縛し、くみに伝える。眠らせろ。

 あん。久々。そんな意識がやってくる。


 ホールの兄ちゃんが一人倒れる。

「彼が今。毒を振りまきました。すでに解毒と中和を行いました」

 特別対策室のメンバーが一瞬顔を見合わせ、立ち上がる。


「これしかし、証拠がないから逮捕が出来んな。どうやって証明をするんだ」

 山崎さんが、男を一瞬掴み。離した。

「じゃあ。杏果その兄ちゃんペンペンして」

 くみ達が、えっ良いのという感じでこっちを見る。


「このくらい?」

 そう言いながら、お尻を叩く。

「もう良いよ。手をしっかり拭いてね」

 おしぼりを渡す。


 素直に手を拭き出すが、皆の目線が離れた瞬間。影に食われる。

 杏果ちゃんは、何があたるかな。



「あっ奴がいない。どこへ」

 無論。無視をして、肉を焼く。

 くみ達は、デザートに入ったか。

 宴も終わりだな。


 あれそういえば、さっき山崎さんが攻撃を加えたな。と言うことは、能力を得るという事か。

 伝えとくか。

「山崎さん。明日から熱が出るかもしれませんね」

「どうして、なにが」

 パニックを起こしているが、熱とその後。力が出れば理解もできるだろう。


 その時、長瀬は積み上がった伝票を、ぼーっと眺めていた。

 どうすればいいのだと。支払いは、カードで出来る。だがその後だ。借りた物は払わなければいけない。

 そう思いながら、見ていると、視線の先。

 倒れた男を、影が這い上がってくる。

 異様な光景。すべてを包み込んだ影は、ぺたんと潰れ、厚みがなくなる。

 今のは。男はどこに行った。


 山崎がキョロキョロと周りを見ている。

 しまった伝票を落とせばよかった。とっさにそう考える。すべては遅いか。


 やがて、始まりがあれば終わりは訪れる。


 その場は静けさを取り戻し、大量の皿達と大量の伝票。

 そして涙を流す男が一人。


 地面を気にして、見たのが最後。

 部下達は、見事な逃げ足だった。

 長瀬は、積み上がった伝票を掴むと、会計に向かう。

 そこに、杏果がやってきて、長瀬を見上げながら言葉を発する。

「おじさん。ごちそうさまでした」

 そう言って、頭をぺこんと下げる。


 その瞬間。雷に打たれたような衝撃を受ける。

「良いんだよ。お腹は張ったかい?」

 その時の長瀬は、菩薩のような顔を浮かべていた。


「はい。満腹です」

「そうかそうか。よかったよかった」

 うんうんと頷き。颯爽と会計に挑んだ。

 無論勝負は、驚異的なダメージを食らったが、何故か心は、少しだけ満たされていた。


 その後。

 山崎は、二週間ほど熱を出し見事光を纏う。


 杏果も熱が出た。だが、以外とダメージを食らわず力を得た。

 その熱は、三週間ほど続き。

 闇を纏う。

 そう、得たのは物理現象ではなく、上位の種族。その陣営の力。

 つまりこの世界にいて、上位種族へ進化をした。

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