第32話 暴露は一気に

 山崎さんは、ふと何かに気がついたようだ。

 嬉しそうに俺に向かって、問いかけてくる。

「ああ。そうか。と、言うことはだ。君は、彼の能力のことも知っていると言うことだね」

 あっやべ。


「はい? 何のことでしょう?」

「いけないねえ。さっき自分で言ったことだよ。ライスだけで我慢をするかね」

「あーまあ。知っています」


 みんな。知っているかい。

 手の平は返すためにあるんだよ。

 だー畜生。肉がちらついて、思考回路がヤバイ。

 ファミレスなら、絶対こんなミスはしない。絶対にだ。

 

 他の皆は、嬉しそうに育て上げ美味しそうに食っている。

 ああ。くみそんな大口をあげて。


 そっと肉を持ち上げる。

 山崎さんは嬉しそうな目で見ているが、目は笑っていない。

 だが食う。


 うまー。とろける。濃厚なうまみ。

 

 箸を出そうとすると、また手が出てくる。

 能力を出せば、きっと動きは見えないだろう。だがしかし。


「あいつは、能力。つまり、光で人を操り。人を食らう殺人鬼ですよ。あんた達も、絡むなら殺されないようにね」

 そう言って、動きが止まったから、箸を進める。


 はぐっと食う。

 うんまあぁ。某アニメなら、服がはだける所だ。味が濃いな。


 視線を戻すと、一瞬の間に焼けていた肉がエリンギに代わっていた。

 誰だ? 思わず力があふれ出す。


 周り皆の動きが止まる。

「ごめん。そんなに怒らなくても良いじゃない。ちょっと焦げていたから変えただけよ」

 そう言って、くみが、あーんをする俺の口に、肉を入れてくる。




 そんなバカップルの目の前。そこで、山崎は焦っていた。

 彼の背中は、冷や汗が、きっと玉のように、吹き出している事だろう。

 一瞬。ほんの一瞬。目の前の何かは、正体を現した。

 女の子により、肉が口に入れられた瞬間。霧散したが、肉がエリンギに代わっていた瞬間。この部屋の空気は冷たく、そして、呼吸をするのが難しいほど濃密な何かに代わった。


 反射的に、体は硬直し。自身で生を諦めた。

 見えてはいない。

 それは絶対。


 でも何かが居て、それを感じ。からだが生きるのを放棄した。


 その現象は、当然他の特別対策室のメンバーも受けた。

 今弛緩し、一生懸命息を始めたところだ。


 さて問題は、杏果だ。

 実は長く一緒にいて、無意識下で総から仲間認定を受けている。

 身体接触からの浸食が無いため、影響下にはないが攻撃もされない。

 今彼女が、ナイフでも使い刺せば、総に何の問題も無く刺せる。アキレスのかかと的存在となっていた。



 総が、次の一人前を食べ始めた頃。山崎は再起動をする。

「きっ、きみ。さっき何かしたかね?」

「へっ。いえ別に」

「そうか。それで、あいつとは、どういう知り合いなんだ?」

「知り合いというか、知っているだけ。一度襲われて逃げた感じですね」

「逃げた? 光から逃げられるのかね」

「あれ光というか、光っている粒の集合体みたいな感じなんで、倒せば逃げられます。特性的には光ですけれど」

「そうなのか」

 そこまで言って、山崎は緊張をする。


 先ほどの力? いや恐怖。それを思い出さずにいられない。

「あーいや。それで。ズバリ聞くが、君を含めて、能力者は多いのかね」

「へっ。そこから?」

 そう言うと見回し、頭を抱える。


「あんた達、何千万給料貰っているのか、知らないけれど。今のままならコロッと行方不明になるよ」

「公務員だ。何千万などもらえるのは、ずっと上だけだ」

 黙っていた、室長の長瀬さんが言い放つ。


「じゃあ仕事から、離れるか。誰かに攻撃を加えて殺すことだ。そうすれば力を得ることが出来る」


 それを聞いて、特別対策室のメンバーがザワつく。


「じゃあ君は、人を殺したのか?」

「いいや。目の前に自殺者が降ってきた。体にきっとちょっとでも触れたんだろう」

「のっ、能力は何だ?」

 室長の長瀬さんが、食い入るように聞いてくる。

「それはさすがに、言えないよ。能力を知られると、命取りだもの」

「そうか。では他の種類は?」


 そう聞かれて、ちょっと悩む。

 だが、答えることに決める。

「多くは、虫の持つ力。たまに動物が持つ力。そして、物理現象なのかな。多分。良し。この情報は特上クラスと判断する。くみ、花蓮。タブレットはどこだ?」

 すると、花蓮が隠し持ったタブレットを出してくる。


 手元に来るまでに、いくつか注文が増える。

 さらに追加。


 いま、状況は彼らに知られていない。

 さっき言った情報を、何かで照らし合わせているようだ。


「確かに、なんとなくだが、毒物や麻痺剤。入手経路を探したが、能力だったのか」

「あっ。ひょっとして、巨大な蜘蛛の巣。あれもか」

 ザワザワと、話が広がっていく。


 そんな中。今まで一言もしゃべっていなかった奏が、頬を赤くしながら情報を垂れ流す。

「あっ私。もしかして。主様と同じ物理系かしら?」

 そんなことを言う。


 そんなことを言えば、花蓮とくみが黙っていない。

「「あんたは、どっちつかずのコウモリよ」」

 そう言われて、衝撃を受けたのだろう。

 口を開け、ガーンとなる。


 その言葉。やり取りを聞いて、衝撃を受けたのは、特別対策室のメンバー。

 再び場が固まる。

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