第15話 壊れる常識

 おかしい。自分自身で、自分の理解ができない。

 数年ぶりに会ったせい?

 顔を見ると、冷静な判断ができない。


 自身の、気持ちが理解できず。困っている。

 一美は、思い出す。


 公園で会ったときも、駅前で会ったときも。

 すべての反応が、遅れた。

 あまつさえ、あんな奴に。懐かしさや、安心感を感じてしまった。


 斉藤総。私の、幼馴染み。

「むう」

「どうしたの?」

 脇に、桐谷奏がやってくる。

 奏は音を操り、空気に干渉するため。

 すぐ近くに居ても、分からないときがある。


「この前の、男の子?」

「そうね。なぜかあいつに会うと、冷静な判断や行動ができない」

 苦々しい顔で、一美が答える。

「何かの能力?」

「かもしれない。あの晩。訳の分からない力で、1人食われた。いえ、食われたのよね。今だに行方不明だから、多分ね」


「あの晩消えたのは、3人。うーん。怒らないで聞いてね。あの時。あの彼が、現れたでしょう。その時、私ね。この人は、運命の人って。思っちゃったの」

「はぁ? あいつを?」


「そう。姿が見えなくなって、落ち着いたけれど。あの時。凄くドキドキして、好きと言うより、愛おしいが近いかな。それがね、今でも胸の奥にあるのが分かるの」

「それが、奴の能力? でもそんなに幾つも?」

「能力って、まだよく分かっていないから、私たちより、上位とか?」


「あいつが? そんなの許せない。小学校の時だって、私の庇護下で何とかできていたくらいで。私が居なければ、もっと悲惨にいじめられていたはずよ」

 そんな感じで、一美は悩んでいた。



 その頃。デート中の、総たち。

「ねえ本当に。大丈夫? ですか?」

「大丈夫だよ。僕はこの前から、君に会うためだけに。今日を楽しみにしてきたんだ。ちょっとくらいの熱など。平気さ」

 そう言って、明智君は、安田千夏に笑いかける。

「まあ。明智さんたら。でも、あまりご無理は、しないでくださいね」

 今はまだ、猫をずっぽりかぶっている千夏。

 一見すらっとした美人。優しく心配したふりで、明智君に微笑みかける。


 結局、行き場が決まらず、とりあえずボウリング場へやって来た。

 これは、千夏ちゃんの発案。


 僕らは、したことがないが、彼女は、親に連れられ結構来るそうだ。

「本当は、筋力バランスが崩れるから、嫌いなんですけどね」

 そう言いながら、右でも左でも投げていた。


 僕たちは、とりあえず遊び方を検索して、投げ始める。


 そして、風切り音を上げ。

 12ポンドのボールが、直接ピンに当たる。

「うー。全部は倒れなかった」

 かわいく。くみが帰って来る。


「2投目で倒せば、スペアって言うみたいだよ。10点と、次の1投目の点数も足されるみたい。ストライクだと、次の2投分が加算。全部ストライクだと。300点満点だってさ」


「へーおもしろいですね」

「早く投げてよ。くみ。もうあのカバー上がったよ」

「そんなに焦らなくても。私が勝つのは分かっているんだから」

 そう言ってくみは、戻ってきたボールをつかみ。ブンと投げる。

 見事に、ピンをはじき。もう一本に当たり倒した。


「やった。これでえーと。すぺあかな?」

「そうそう」

 ハイタッチを、くみとする。

 そこで背後から、誰かがやってくる。


 警戒しながら、振り返る。

「あのう。プレイ中申し訳ありません。ピンに直接投げつけないで、レーンを転がしてもらえますでしょうか? レーンや設備を壊せば、損害と修理中の損益も請求させていただきますので。ご承知ください」

「あっはい。すみません」


「さっきから、ザワつくしカメラを向けられるから何事かと思ったけれど、そういう事か。説明には投げるとしか書いていないもの。レーンの途中に落とすと、レーンが壊れるから禁止くらいだよね」

 そう言った後、見回すと。確かに皆転がしている。


 立ち位置から、スパットとピンを直線で結ぶ。

 よしここだ。

 投げるとずっと、真ん中が抜けるだけで、左右にピンが分かれたスプリット状態。

 スコアの、俺の一投目は必ず、数字が丸で囲まれている。


 隣の明智達を見ると、彼女に手取り足取り教えて貰い。明智は努めて真面目な顔をして居るが、鼻の穴が広がり、鼻の下も倍ほどになっている。とてもおもしろい。

 でも今の雰囲気は、とてもいい感じだ。




 今日は約束があるため、駅前にやって来た。

 すると信じられない光景を見る。

 でれた先輩達。

 思わず3度見をしてしまった。

 それも、くみ先輩と、花蓮先輩。一人の男? 確かに2人とも仲が良かったけれど。

 それで、もう一人女の子。ちょっと怖そうだけど、かわいい顔の子だれ? 百面相しながら顔の色がコロコロ変わっている。


 私に気がついたと思ったら、明智さんを紹介し。

 いきなり、ほったらかしで、ホテルへ行こうと宣言するくみ先輩。

 こんな人だった? 私の記憶と随分相違がある。

 

 花蓮先輩がたしなめ、デートに行くようだ。

 話をしていた子は、鳩が豆鉄砲を食らった顔で、その場に放置。置いていかれる。

 良いのかしら?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る