第7話 夜中のデート
「何とか、撒けましたね。でも。こんなの、効率が悪くないですか?」
「おまえは、普段どうしているんだ? 結構衝動が、ムラムラとくるだろう」
「私は、かわいいから。電車とかに乗ると、結構触られたりするので、チクッと。でも逃げられる事が多くて」
「その辺り、能力の調整で、何とかならないのか?」
「出来ますけど。やっぱり目の前で死なれると。心にダメージがくるから」
そう言って顔が曇る。
俺は、彼女のそんな表情を見て。無意識に、頭をなでながら。抱き寄せた。
「あっ。うっんんっ」
そう短く、声を出し。
……崩れ落ちる。
思わず支えたが、また涙目。
「ひょっとして」
俺が聞くと、こっくりと、彼女は頷く。
「どんだけ、感じやすいんだ」
「だってぇ。体に電気が……」
そばにあった、ベンチに腰を掛ける。
まだ力が入らないようで、こっちへしなだれかかってくる。
「なんだか、こうしているだけで、しあわせ」
「まだ、知り合ったばかりだけどな」
「えへっ。分かっているくせに。繋がりが分かるでしょ」
「ああ。まあな」
そこまで言って、ふとやばいことに思い当たる。
あの時。流れ込んできた思考。ひょっとして。
「なあ繋がりで、俺の考えとかまで、分からないよな」
「うん繋がっているのが、分かるだけ。いつも隣にいるようで、安心、す、る。……えっ。もしかして。先輩は、私の…… 考えていることが、分かる。とか?」
しまった。なんて勘が鋭い。墓穴を掘ったか。
「いやふと、思ったじゃけで」
「あっ。噛んだ」
そう言って、じっと見てくる。
「あーうん。読もうと思えばね」
「やっぱり。えっち」
「意識すればだよ」
「たとえば?」
言うかどうか、悩んだが、答える。
「昼間に。勢いで、俺にスカートの中を見せて、その後心配になってとか」
やっぱり失敗か。彼女は口をパクパクしながら、真っ赤になる。
「読むときは、始めに一声ください。私との。大事な約束です」
「ああ分かった」
うっわーああっ。どんな繋がり。嬉しいけれど、思考ダダ漏れは。さすがに、勘弁してほしい。
あのあと、気にした事って。
あっ。恥ずかしすぎる。
ある意味、パンツの穿き忘れの方が、まだましだよぉ。
「うーうー。だめだぁ。恥ずかしすぎるぅ」
「あーよしよし」
そんなことを、夜中のベンチでやっていると、くるのだよ。
餌が。ひのふの5人。
「良かったな。大量だ」
「ほんと。普段から良いことをしていると、神様が見ているみたいです」
「先に、刺して。その後、俺が倒せばポイントがつくだろ。今まで、熱が出たことは?」
「最初に3日くらい、熱が出たくらいです」
「じゃあ明日から、熱が出るかもしれない。覚えといて」
「はい。じゃ行きます」
「おい。お話が終わったら、野郎は要らねえ。3時間くらいしたら、帰すから待ってろ」
「なんだ。随分早いな。5人だろ?」
「ああっ? なんだと。えーと一人5分で25分。あー6分で30分だから、3時間だと」
一人が計算を始めると、脇から一人。怒鳴り始める。
「そんなことは、良いんだよ」
「180割る5は、幾つだ?」
「ああっ。ちょっと待て」
「待ってやるよ。今だ。くみ刺せ」
後ろへ回り、チクチクと刺していく。
目の前。俺しか見てないって、どんな奴らだ。
それにしても、刺されて、痛みも無いのか?
「よし。良いだろう。3時間フルなら、一人36分使える。良かったな」
せっかく教えたのに、聞いちゃあいない。
「くみ。これ毒か?」
「うん。イメージ的に麻痺毒で、心臓とかも止まると思う」
「ふぐ毒の、テトロドトキシンとかと同じかな?」
「うーん。分からない」
「まあ良い。食おうか」
そう言うと、くみがワクワクとした感じで見ている。
地面を、影が広がり、5人を飲み込んでいく。
「消えちゃった。何処へ行ったの?」
「さあ分からないが、力にはなるから。気にしていない。中に入ってみるか?」
「ううん。いい。でもこれ便利ね。あっ力が来た。ひゃっ。5人だとこんなに」
何かが流れ込んでくるのが、分かるのだろう。自分の体を抱きしめるように、くみが何かを感じてる。身悶えるという感じ。
「くっ」
「くみ。おまえ家は」
「有る」
「有るじゃない。どこか教えろ。おい寝込むな」
どうすんだよ。
俺は家から抜け出して来ているし。朝になって、俺の部屋にこいつがいたら、大騒ぎになる。少し考え、スマホを取り出す。
『なによ? まだ何か、用なの?』
夜中なのに、電話の主は起きていたようだ。いきなり言われた言葉は、疑問しか無いが。
『夜中にすまない。花蓮ちゃんだよな』
『あれ? 勘違い明智じゃないの?』
『斉藤だけど』
『ああ。斉藤先輩。どうしたんですか?』
『ちょっと、頼み事があってな』
『動画も写真もいやです。それじゃあ』
昼と雰囲気が違うな。いやそうじゃない。
『そんな要件じゃない。くみの住所を知っているか? それと親と一緒かどうか?』
『今日の今日で、夜這いですか? 嫌われ、いや大丈夫かな』
『いや。今一緒なんだが、気を失ってしまって。家に、連れて帰るわけにも行かないし。ちょっと困ってね』
『へーぇ。くみって、多分初めてなのに。気を失うまで。絶倫ですね先輩』
電話越しなのに。にやついている、顔が見える。
『ちがう。絶対想像と違う。とりあえず何とかしたい』
『うーん。じゃあ、一つ貸しということで。家○○町なんですが、近くに児童公園が在ります。検索でもして来てください』
『分かった』
電話を切って検索する。
うーん。土地勘無いな。
ちょっと疲れるが、影を一気に伸ばす。
スピードで酔う。
あっ。ここか? 地図アプリと名前を見比べる。
間違いない様だ。
くみを連れたまま、影に潜る。
すぐ後には、児童公園に現れる。
ベンチに座り、待っていると、人影がこちらを伺う。
すると、周囲に甘い匂いが一瞬したが、すぐ消え。
人影が、走ってくる。
「せんぱーい。こんな所で会えるなんて、神のお導き以外ありません。やっぱり、突き合う運命です」
今ニュアンスが? くみを抱えているため、反応が遅れる。
おもむろに、キスをされ。舌が入ってくると同時に、苦い何かが入ってくる。それを、次の瞬間。俺の影が食っていくのが分かる。
「んぐっ。げはっ」
彼女がうめく。あっやべ、食っちまう。俺は一瞬緊張する。
影に命令し、攻撃をやめ、?? はっ?
意識が流れ込んでくる。
好き先輩。子種が。エッチする。服従するから好きにして。
なんだ? くみと一緒か?
だが、いま。
俺の顔の前で、舌を出したまま固まっている。
よだれを流しているのは、ちょっと怖い。
「話は出来るか?」
きょとんとして、表情が元に戻る。
「あっはい。なあにダーリン?」
「ダーリン?」
「うん。私は、あなたのもの。あなたは、私のダーリン。でしょ。うふっ」
「まあ。良いけど。くみを頼む。明日には、熱が出るかもしれない」
「はい」
敬礼して、くみを小脇に抱え。連れて行った。
さすが、体操選手。力強え。
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