第8話 飛んで火に入る。餌だよね

「おらあ。まだ分かんねえのかぁ」

「いやしかし。一昨日。みんな虫に食われて」

「そういや、サブは何処だ?」

「誰一人。帰っていません」

「女どもは?」

「虫に食われたようです。警察が骨を拾っていたのが、7~8人分だったので」

 それを聞いて、チームのボス。遠藤は唇を噛む。


「借金分と兵隊。大損じゃねえか。どうすんだ。おりゃ、明日。上の人に会うんだぞ」

 場にいる皆。目を伏せる。


「俺の連れに、妙な力を使う奴がいますけど、頼んでみましょうか?」

「サブみたいにか?」

「虫を使うのじゃ無くて、元々空手をしていたんですが、無茶苦茶強くなって。この前もけんかの時。相手の頭を、爆散させて笑っていました。バットで殴られても、金属バットへし折っていて、口からつばを吐いたら、バットごと相手が溶けていました」

「そりゃ、間違いないな。連れてこい。多少ならはずんでやる」

 そう言って、兵隊が部屋を出た後。


「問題は、金だ。どうするよ。おれ。連れてきた奴に用心棒をしてもらい。下剋上か? まあ明日。話はするが、駄目なら腹をくくるか」



『ねえ。ダーリン。くみ熱が出てるけど』

『家には連絡したか?』

『した。大丈夫かな?』

『多分2~3日で治る』

『了解です。で、私は部活サボって暇です』

『よし命令だ。看病しとけ』

『はい。でもその後。ご褒美』

『考えとく』

『んちゅ』


 やっぱり熱が出たか。

 基礎値が低いんだな。

 とりあえず。宿題をしている頃。


 港を中心に、危なそうな奴らが徘徊している。


「おい。なんだあいつら?」

「あの感じは、組関係じゃ無いな。やばそうだ」


 そんなことを思うと、災難はやってくる。

「おい。おっさん」

「なんだ危ないから、入ってくるな」

「ああっ。分かったよ。この辺りで怪しい奴見なかったか」

 すっと指を差す。


「ああっ。ふざけんな。俺じゃねえ。他にだ」

「今ここで怪しいのは、おまえらだ。重機を使っているから、危ない。入ってくるな」

「ちっ。わーったよ」


 同様のことがいくつか起こり、警察が介入。

 そして。

「作業中にすまない。この辺りで怪しい奴を見なかったかな?」

「今朝うち、たくさんいたが、お仲間が引っ張っていった。重機使っているから危ないんで、入ってこないでくれ」

「ああ悪い」


 そんなことが、その日中に5回。

 中には、人相では、どっちか判断がつかない奴もいて、うんざりだ。


「ああ今日は。仕事にならなかった」

 仕事が押し、遅くまでかかった。

 同僚達も、同じだったようで、事務所内は苦情の嵐。


「わかった。明日には、警察に連絡をしておくから。何度くらい止められた?」

「俺は5回」

「俺もだ」


「全員5回ってどういう事だ? 色々な組織が、別々に動いているのか? まあ警察には聞いてみるよ」

 だが翌日、港にあるコンテナは、中身がばらまかれ仕事は出来ず。



「おやっさん。今日の所は、これでお願いします。おい」

 運ばれてきたのは、ゴールド地金。100gバー10本。


「おい。なんだこりゃ」

「ちょっと色々ありまして」

「こんな。番号付き。港。引っくり返したのはおまえらか?」

「色々ありまして」


 にらみつけ。

「次はねえぞ。相手には、きっちり。方を付けろ 」

「はい」


「だぁー畜生。不幸中の幸いだが。やばいのは一緒だ。何とかしなけりゃやべえ」

 見張りだけ付けて、違うところから船を出すか。しかし、変なところだと目立つしな。背に腹は代えられんか。



「ありゃ。なんだこれ?」

 数日空けただけで、コンテナがひっくり返っている。

 パトカーも凄い。船もさすがに無いな。また探さなきゃ。


「おい。そこの真っ黒なガキ。こんな夜中に何やってんだ?」

 あー面倒。振り向きたくない。ニコッと笑い。

 振り向いてみる。


 どっちかな? 私服さんだと、どれだろう。

 言葉遣いがあれだから、補導員じゃ無いだろうし。一人。

「えーと。すみません。トレーニング中で」

「何をやっているんだ?」

「えっトレーニング」

 そう言うと、相手の眉間にすじが。


「違う。格闘技か。スポーツか?」

 そう聞かれて、一瞬詰まる。適当に。

「空手です」

「ほう。奇遇だな。俺も空手をやっているんだ。だが、足運びも体型も空手じゃ無いな。始めたばかりか?」

「えーあ。はい。実はそうです」

「構えてみろ」

 言われても、しらんがな。適当にボクシングの構えをする。


「顎の前で拳? 極真か? でも足が。てめえ。ふかしやがったな。空手をやってねえだろ。俺はな、破門されたが、空手は好きなんだよ。それをふざけ半分で。心配するな面倒になるから。ころしゃしねえ。そうだな。これは、空手を舐めた奴への教育だ。いやなら、多少でもあがいてみろ」


 そう言うと、右手を腰まで引き、左手を胸の高さで少し前に出す。

 足も、右は引き、左は前。体重は左かな。

 そんな観察をしていると、風切り音と共に。右拳が右足の踏み込みと共に。やってくる。


 思わず、左手で内側に向けて、ペシッとはたく。

 そのまま、右ストレートを。相手の顔面につい打ってしまう。

 ゴンと音がして。


 何も起きない。そっと、手を引く。

 すると、笑った顔が現れる。


「良いじゃねえか。そりゃ。なんの動きだ。空手じゃ無いが、俺の反応できないスピード。何かの武道か? いいぜ。来いよ」

 そう言って、よく分からないこいつ。まるで、映画で有名な、昔の武道家のように、手首を返し上に向けると。指4本をくいくいと、自身に向けて起こす。


 おいで、おいでだよね。

 嬉しそうな顔をしてまあ。

「じゃあ。いきまーす」

 手を突き出し、広げる。

 引き始めると同時に、蹴り。

 今の俺なら、肋骨くらいは簡単に砕けるはず。


 見事に、蹴りがめりこまない。

 むっちゃ堅いんですが。

「おかしいな。堅すぎませんか?」

「ああ悪いな。ちょっとした能力で。体が鉄より固いんだ」

「えーと、この辺りにいた組織の人?」

「ああ。昨日からだがな。おまえこの辺りよく走るなら。不審者見なかったか?」

 おれは、すっと相手を指さす。


「俺の事じゃねえ」

「いいえ。怪しいです」

 手のひらを、もう一度突き出す。

「けっ。奇襲は一度しか。あ゛あ゛?」

 その言葉を最後に。彼はいなくなってしまった。

 結構良さそうな奴だったのに、残念だ。


「ふっ。良い奴ほど死に急ぐ。彼とは、良い友達になれたかもしれないのに。惜しい奴を無くしてしまった」

 そして、踵を返すと。

 

 全く気配も無く。なぜか、柔らかいものに包まれた。

「せんぱーい。だーれだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る