第4話 初めてのデート?

「お疲れ様です。補習は終わったの。ですか?」

 そう聞かれて、二人とも、妙な敬語にほのぼのし、補習という単語に、逆ベクトルのクリティカルを貰う。


「あっああ。何とかね。そっちは、練習終わったの?」

「はい。今日もハードで。足ガクガクです」

「器械体操ってすごいよね。うん? 首筋、白い」

「えっ。洗ったのに。まだ、タンマがついてます?」

 そう言って彼女は、ハンカチで顎下を拭う。


「タンマ?」

「炭酸マグネシウム。滑り止めの粉です。先輩はマメが剥げたときに、止血剤だって塗(まぶ)していましたけど」

「止血? 効くの?」

「すんごい。しみます」

 そういう彼女の手が、すごく気になる。


 つい彼女から許可も取らず、手首を握り、手のひらを見る。

 ごついマメが幾度も剥げたのだろう、手のひら全体が堅い。

 手のひらを、ついスリスリしていると、声がかかる。


「あーすいません。汚いですよね。恥ずかしいので、あまり見ないでください」

「あっごめん」

 思わず見つめ合ってしまう。


「くみが、ラブコメしてる」

 横で、ぼそっと声が聞こえる。

 その声の主が、お礼を言ってくる。

「すみません。先日はありがとうございました」

「いや。先日もお礼は言ってもらったし。いいよ」

「いえ。これも何かの縁です。これからどこか行きませんか?」

 おっとなんだか、食い気味に来るな。

 明智の目が、すごく悲しそうだが。


「補習も終わったし。カラオケでも行こうかって。明智と言っていたのだけど」

「「行きます」」

 そして、俺はなぜか、両手に花の状態で、歩き始める。


 そして、なぜかフリータイムで入室して、ドリンクオーダーをする。

「ポテトとかも注文して良いですか?」

「ああ良いよ」

 そう言って、彼女たちにスマホを渡す。

 わーと言う感じで、スマホから注文し始める。

 ここのシステムは、入店時にスマホのアプリで入店し、部屋と紐付けられる。

 つまり、俺のスマホからじゃないと、注文が出来ない。


 明智は、黙々とセットアップをしている。

「斉藤。ログイン。カードは?」

「ほいよ」

 IC月のカードを渡すと、すぐにピローンと音がして、カードが返ってくる。


「最近アバターが、標準しか無くなってつまらんな」

「そうだな。課題曲も無くなったし」

「そうなんだよ。まず何を歌うかで悩むよな」


「先輩達。いつもこっちの機種なんですか?」

「大体そうだな。こっちの方が、下手くそには優しい気がして」

「向こうは、六〇点台が平気で出るものな。くじけるんだよ」

「へー」


「2人は普段、別機種なんだ」

「どうしても、テレビの影響で。ねぇ」


 そう言いながら、ポチポチと登録をしている。

 7月7日に9月11日?


「覚えました?」

 見ていたのを、気づかれていたのか。

「二人とも、覚えやすいと言えば、覚えやすいね」

「でしょ」


「斉藤先輩は、何月生まれですか?」

「11月25日 射手座だよ」

 そうなんですね。


「あっ俺は、12月29日」

 明智があわてて宣言。

 それを聞いて、くみちゃん。

「お誕生日。学校休みですね」

 さらに、それを聞いて。

「ああ。そうだな。残念だな先輩」

 花蓮ちゃんが、嬉しそうに言う。


「登録できた? じゃあ、1番行きます」

 素早く曲を入れる。

『私の歌をきけぇ』

 と、叫んで、花蓮が歌い始める。

 上手だな。歌い込んでいる感がすごいし、さすが運動選手。肺活量がすごいのか。

 かなり感動してしまった。


 選曲が、すごい。方やアニソン。

 方や、別れとか、死んだとか。思い出とかに関連する曲ばかり。


 いま、明智がなぜか俺に向かって『うらみます』を歌っているから、『ファイト』でも歌ってやろうか?

 それとも、明智に合わせて、山崎ハコさんの『きょうだい心中』とか、『呪い』。いややめよう。昔ネタ扱いで歌ったら、思いっきり引かれた記憶が。

 歌えばそのまま、『僕たちの失敗』まで歌うことになる。

 親の趣味で、家にはこの手のレコードが大量にある。

 小さな頃は、ひたすらそんなジャンルの曲を聞いていたので、同年代とは、全く話が合わなかった。


 大昔。保育園のママさんグループで、カラオケに行っても、同じ園の奴らが、アニメの主題歌を歌っている横で、『精霊流し』を歌う幼稚園児。どうだ。すごいだろう。あの声とリズムが、気持ちよかったのだよ。

 考え込んでいると呼ばれる。

「斉藤先輩」

 振り向くと、ポテトが口へ突っ込まれた。

「食べないと、冷めますよ」

 気がつけば、ポテトや、ピザが来ていた。


「ひょっとして二人。おなかが空いていたのか?」

「いやまあ。ちょっと。練習をすると結構ハードで」

「来るときに言ってくれれば、ファミレスかどこかに寄ったのに」

「良いんです。ダイエットになるし」

「そうなの? そんなに、気にするような感じじゃなかったけど」

 言ってから、しまったと思った。


 特に、花蓮ちゃんは無茶苦茶真っ赤だ。

「あーごめんね。思い出させちゃったかな」

 反射的にそう言うと、二人の声がそろう。


「「先輩。見た責任取ってください」」

「「えっ」」

 くみちゃんと、花蓮ちゃん。声がかぶる。


「くみ。あんたは、見られてないでしょう」

「いや。あの時スカートめくられていたし。見ましたよね先輩」

「いや。残念だが。見ていない」

 すると、くみちゃん。思いっきりガーンという顔になる。

 そして、おもむろに立ち上がり、俺の前で思いっきり、自分のスカートをめくる。


「見ましたよね」

「いや、さすがに見たけど」

 なんだこの状況。

 ちなみに、今のは位置的に、明智は見られない。


 見せた本人は、むふーという感じで。ひどく満足そうだ。

 足の付け根にあったのは、段違い平行棒の痣だろうか。

 本人は満足そうだが、他三人は当然ちょっと引いた。

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