第2話 日課のお散歩
事件の顛末は不明。だが、残されたスマホから。余罪も出てきた。
犯人達は、逃亡。
女の子を助けた、勇気ある高校生二人。
各方面から、思いっきり叱られる。
警察をすぐ呼べと。
「何かのドラマじゃあるまいし、最初は3人でも、アジトに多数いれば、君達はどうなっていたか分からない。無論女の子もだ」
そう言うことらしい。
ただ。女の子と、その親は、ひどく感謝してくれた。
俺も、力を得たし。まあ良いだろう。
だが未だ。知り合ったばかり。
自身の能力である、影君の本名も知らない。
熱でうめいていると、なんとなく使えた。
本に良く出てくる、影使いともちょっと違う。
拡大すると、ちっちゃなGだと嫌だな。
自分で考えて、ゾクッときた。
呼び出された、1年の担任と、俺らの担任。
「よくやった。だが、危ないことはするな。明日の補習も遅刻をするな」
そう言って先生は、1年の担任をしている。美人で有名な先生と、嬉しそうに帰って行った。
「あれって、何か必死に誘っているよな」
「確か先生。結婚していたよな」
「ああ。確かしているな。まあ帰ろう」
「明智君。かわいそうだから。巾着の写真は消してやれよ」
「……当然だろう。もう消したさ」
だが、彼の目は雄弁だ。
俺は黙って、手を出す。
「あー一晩。今晩だけ」
今晩だけ、何をする気だ?こいつ。何をする気だろうが。
「あの娘と、連絡先を交換したんだろう。見られたら刺されるぞ」
しばし葛藤していたようだが。奴は、無言で踵を返して歩き始めた。
警告はしたから、いいや。
俺も、素直に一度。家へ帰る。
うちの親にも、連絡が行っているしな。
その晩。
最近の日課。真夜中の散歩に出かける。
家を抜け出し、近くの桟橋や埠頭を徘徊する。
俺の力。影とおそろいで真っ黒な格好。
と言っても、黒のデニムに黒のパーカー。
指ぬきじゃない革手袋。鋲も打っていない。
「おらっ。さっさと来いよ」
声が聞こえる。
今日も、お姉ちゃんや元お姉ちゃん達が、クルーザーに乗せられている。
意識を広げ、周りを伺う。
これで、連続3。いや4回目だから、さすがに増えたな。
周囲200~300mに、10人以上隠れている。
そして、離れたところに、もう5人。
「最近、遊びすぎたか。無線を持っているだろうし面倒だな」
意識を、広げたついでに。一番外側にいる奴をつまみ食いする。
影が広がり、足下からガバッと食らう。
「効率的だが、つまらん。次は。うん? この車は関係者かな」
さらに外側。一台車が停まっている。
あそこからなら、ギリギリクルーザーが見えるか?
影を、隙間から忍び込ませる。
「あら? 気づかれた?」
影を下がらせる。
車から、一人降りてくる。
何で目が光っているんだ。気持ち悪い。
その時、いやな気配がこっちに来る。
さっき。俺の頭があったところを、何かが通り過ぎる。
ライフルじゃないよな。
音がしなかったし。と思ったら、また来た。
躱さず、影で捉える。
そのまま、捕まえ飲み込むと。
虫か。
スピードが、普通の虫と段違い。
当たると痛そうだし、見られたか。
「あーらら。力に目覚めた同族か。あの力は何かな? ああ。よだれが出るぜ。食らってやる。かしら。同族のようです。ちょっと行ってきます」
「あっおい。守りは。ちっ。おい。もっと離れろ。やばそうだ」
「はい」
車は、港の外まで出て行く。
うー。周りからザワザワと何か来る。
場所柄。フナムシ辺りか?
自分が食われる所が、脳裏に浮かぶ。
「やだやだ。大体虫も敵だろ。なんで従えるんだよ」
特殊走法で、カサカサと移動しながら。音のしている方へ、影を伸ばしてごっそり食らう。
「うー。イメージが流れ込んでくる」
これは、親玉を探そう。
「なんだこいつ。虫どもが、ごっそり食われた?」
どんな力だ?
訳が分からんが、もっと呼んでやる。
埋め尽くせば、どうしようもないだろう。
「ひっ。なんだこいつら」
クルーザーの近くで、見張っていたメンバーが、飲み込まれていく。
「うわーあぁ。食いつきやがる。何とかしてくれ」
無線も含め、そこら辺りで悲鳴が上がり始める。
「敵味方関係なし。物量か」
そう言って俺は、影に沈み。倉庫の屋根へと移動する。
「赤い目は、何処かな?」
周囲の虫を食らいながら、範囲を拡大していく。
「あら。人間を食った奴らは、変異している。虫は、寝込まなくても大丈夫なのか。ずるいな」
「みっけ。力があるから、分かりやすいな」
包むように、影で包囲をする。
「あれ? 対象の体から虫がわいているのか。食っても食っても減らねえ」
それに、毒虫ばっかり。
自身の体で、蠱毒でも作っているのか。
いい加減大量だな。
おかげで、満腹になってきた。
周りで、虫が飛び始める。
「おっと。見つかったのか?」
いや。ここだけ虫が居ないから適当か。
「あー面倒。倉庫ごと食ってやる」
「うおっ。畜生。結局どんな能力だよ。ちくしょうぉぉ」
屋根が抜け。影の中へ飲み込まれていく。
「うげっ。無機物は不味い。しかし。あいつが消えても虫は消えないし。帰ろう」
そう言って、俺は影に沈む。
「あー不味かった」
それから、数カ所の地点を経由して、家へ帰り着く。
そして次の日。俺は熱を出す。
「補習がぁ」
一応昨日のことがあったので、明日まとめてやれと、妙に機嫌の良い先生から連絡があった。
先生。もしかして、1年の担任。食ったのか?
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