後日談 『明日キミは、あの人の彼氏』 その1

「わぁ〜っ! でっかいチョ〜チン!」


「ね、本当にでっかいね」


 視界の先でぴょんぴょんと弾む、くすんだ白色の、背の低いクロスバケットと、その華奢な肩に手を乗せ、同じ目線で大きな提灯を見上げる、黒い髪の毛。


「ね、フーちゃん見て」


 そう、視界の先でしゃがんだ莉奈が、こちらに顔を向ける。


 それに釣られてゆっくり旋回し始めた、クロスバケットの下のパチリとした青い目と視線がぶつかる。


 そのタイミングで莉奈が人差し指をこちらに向けると。


「ちっちゃいね♪」


 と、提灯の時よりも楽しそうなテンションで言った。


 おい。とツッコミを入れようとしたが、その前に「わぁぁ〜!」と目をキラキラ輝かせた風花ちゃん。


「ちっちゃい! おにぃちゃん! すっごくちっちゃい!」


「ねー。ちなみに。大人っぽく言うと、なんて言うか分かるかな?」


「ん〜……んん〜……ミジンコ?」


「おい」


 小さいにも程があるだろ。


 風花ちゃんの、ミクロすぎる回答に、思わず声が出た俺。


 その一方ブフって吹き出した莉奈。くすくすと笑いを噛み殺すと、


「ふふっ。ミジンコかぁー、いいね。そっちも正解だね」


「ほんと!? やったぁー!」


「おい莉奈、あまり変なこと教えんなよ」


「えー、いいじゃん。あ、あとねフーちゃん。大人っぽく言うと、って言うんだよ?」


「おい、待て。それは非常に誤解を生む」


「わぁー! おにぃちゃん短小!」


 そんなふうに、嬉しそうにはしゃぐその姿はまるで、汚れの知らない天使みたいで……。


 でも、だからこそ。


 —— え、あの人、短小なんだ、ウケる。

 ——あんな小さい子に馬鹿にされるって、ヤバいよね。大きくなっても小指ぐらいしかないのかな?

 ——てか、顔怖くない?


 最後のは事実に沿う悪口じゃねえか。


 そんなツッコミを心の中で入れ、莉奈の方へと歩み寄る。


 そして、後ろから風花ちゃんを抱えると、


「お前のせいであらぬ誤解と、観光地の風紀を激しく乱してる。すまんが雷門での記念撮影は諦めろ」


 そう言って、人の多い仲見世通りを避けるように、薄暗い路地の方へと足を進める。


「えー、残念」


 そんなふうに息を吐きながら、後ろに追いついた莉奈。


「誰のせいだと思ってんだよ」


「んー、あ。でもあれじゃん」


「なんだよ」


「湊、こういう罵倒される音声好きじゃん。この前買ったやつ、なんだっけ? 確か、お姉さんサキュバスのマ……」


「だから事実と異なるっての! つーか、教育に悪いから、そういうの言うな!」


「わぁー! 仲良しぃ〜!」


 俺の体の前でバタバタと嬉しそうに足を動かす風花ちゃん。


 今日は3人で『浅草』に来ていた。


 しかし本当は、4人で来るはずの予定だったのだが、まぁ、その1人は今、自宅でぐったりしている。


 そのことも含めて、少しだけ話を遡ろう。


 あれは今週の月曜日のことだ。

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