後日談 思わぬ伏兵

 夏休み。とある日のこと。


 莉「あ、プリンもうない……湊、ちょっとそこのコンビニで買ってきて」


 湊「はぁ? なんで俺なんだよ。つーか食いすぎだろ」


 風「わぁ〜おにぃちゃんお菓子買って来てくれるの!?」


 湊「いや……ちょっとお兄ちゃん、足痛くて……」


 文「あ、それじゃ湊くん。私の分もお願いしていいかな?」


 ……。


 湊「あぁ、わかったよ! 行けばいいんだろ! 金は後で貰うからな!」


 バタンっ!


 ……。


 莉「それじゃ、私たちも準備しますか。篠崎先生、頼んでもいいですか?」


 文「うん。すぐに持ってくるね」


 風「フーも! フーも手伝う!」


 莉「うん。そしたらフーちゃんには、重要な役割やってもらおうかな」


 風「うん!」


 文「ふふっ。それじゃ、ちょっと待っててね」


 風「は〜い! せんせ〜!」



 数分後。


 湊「ほら! 買ってきたぞ! ……って、は? 誰もいないじゃん……」


 ……。


 湊「もしかして、みんな帰った?」


 ……。


 湊「は、許せねえ……」


 そう、ため息を吐いたその瞬間だった。


 風「おにぃちゃんおめでとぉ〜!」


 そんな声と同時に、寝室のドアが開け放たれ、同時に風花ちゃんが飛び出す。勢いそのまま、まるで施設の時と同じように飛びかかって来て、


 湊「うわっ……っと……いてて」


 風「おにぃちゃん! ナイスキャッチぃ〜!」


 そう俺の胸元で笑った。


 風香ちゃんに遅れて、莉奈と文乃さんも顔を出す。


 莉「あはは、フーちゃん、ちょっと早かったかなぁ……」


 文「で、でも! ほらファーストインパクト? は、バッチリだよ!」


 そんな二人の手元には、白くて大きな箱と、青いリボンでラッピングされたギフトボックスをそれぞれ持っていた。


 なんだそれ? と、目の前の光景に訳が分からずにいると、莉奈は盛大にため息を吐き出す。


 莉「ほんと呆れた……篠崎先生、やっぱり湊はやめた方がいいですよ」


 文「あはは、でも、私も忘れることあるから」


 湊「いやだから、さっきからなんの話を……」


 するとその時だった。


 風「え? 今日って、おにぃちゃんの誕生日なんでしょ?」


 風花ちゃんのそんな言葉に、ハッとする。8月5日。あぁ、そういえば、今日は俺の誕生日だった。


 そんな俺に莉奈はさらに、「ほんとに忘れてたんだ」とため息を吐いた。


 文「あはは……でも、湊くん。誕生日おめでとう」


 莉「毎年、祝ってるんだから、覚えておきなさいよ……まぁ、おめでと、湊」


 湊「おう。ありがとう……ございます」


 『いつも』に増えた新鮮さと、胸の奥から湧き上がる暖かさに、少しだけ言葉がつっかえる。


 腰の上の風花ちゃんを持ち上げ、ゆっくりと立ち上がった。


 莉「3人で選んだものだから、喜んでくれると、嬉しい」


 文「うん! 風花ちゃんと、特に莉奈ちゃんがね、一生懸命考えてたんだよ!」


 莉「ちょっ、篠崎先生!」


 風「りなねぇちゃん、ずっと『こっちの方が湊っぽいかなぁ……』って、一時間ぐらい!」


 莉「もぉ! フーちゃんまで! いや、違うから! 別にそんなに悩んでもないし、せっかくなら湊が喜ぶものがいいかなって、思わなくないこともなかったぐらいだし。あー、そう! いつも通り! 別に特別なことなんて、なんも無いから! とにかく、はい、これ!」


 そう、顔を真っ赤にしながら、莉奈はめちゃめちゃ早口で言った。


 そんな彼女に、俺はふふっと鼻を鳴らして、プレゼントを受け取る。


 湊「ありがとう、莉奈」


 莉「——っ! 別に……どういたしまして」


 文「ふふっ。それじゃ、ケーキ買ってきたから、みんなで食べよっか」


 湊「はい。それじゃ、皿持ってきますね」


 すると、風花ちゃんがプレゼントとケーキを見ながら、ソワソワし始める。


 風「えーっと、フーもなにか……」


 湊「ん? どうしたの風花ちゃん?」


 風「ん〜と、ん〜と〜……あ、そうだ!」


 そう言って、パッと明るい笑顔を浮かべた風花ちゃん。みんながその反応に小首を傾げたその瞬間、ジャンプをして、俺の首の後ろに腕を回す。


 そして。


 風「ちゅ〜っ」


 湊「——っ!」


 莉「へ?」


 文「わぁ」


 柔らかい唇の感触に、どきりと心臓が跳ねる。すぐに視界の先から、青い瞳と金色の髪の毛が下がると、俺の胸元で、「えへへ」と気恥ずかしそうに笑う。


 そして、風花ちゃんの薄い唇の上を、柔らかそうな舌がなぞると、


 風「フーからの、プレゼントだよ。おにぃちゃん」


 そう言って、魔性的な笑みを浮かべたのだった。




 



 最後まで読んでくださった、みなさま。誠にありがとうございました! 

 これにて、今作に一区切りを入れたいと思います!


 少し時間をあけてしまいましたが、後日談いかがだったでしょうか?


 楽しんでいただけたら、何よりも幸せです。それでは、また次回作で。




                         あげもち。

 





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る