第3話

 真奈美は三年の男子に手を引かれて、成海の隣に座ることになった。


「どうも。大瀬良真奈美です」

「成海です。大丈夫?」

「え?」

「戸惑ってる顔をしてるから」


 真奈美は咄嗟に手を頬に当てた。


「触っても分からないんじゃない?」

「え? あ」


 一瞬からかわれたと恥ずかしくなったが、成海を見るとそうではなさそうだった。つい数週間前まで高校生だった後輩を優しく見守っているような、そんな感じだった。


「ところで大瀬良さんって、どこに住んでるの?」

「T市です」

「大瀬良さんってもしかして、馬橋(まばし)小学校じゃなかった?」

「え ?!」

「いや、珍しい名前だからもしかしてと思って。僕も馬橋小学校だったんだ。それに」

「そうなんですか! じゃあ曲がり角にあった駄菓子屋、知ってますか?」


何かを言いかけた成海を遮り、偶然に驚いて思わず話し出してしまった。


「ミフネでしょ? 学校が終わって友達と遊んだ時は、あそこで駄菓子を買ってよくた集まってたよ」

「そうなんですか! あそこのお婆ちゃん、優しくて私もよく通ってました」

「でもあの店、お婆ちゃんが亡くなってから閉めたから、今の小学生は可哀相だよね」


 そう言えば店のシャッターは下りたままになっていた。でも亡くなったということは知らなかった。


「どうかした?」


 呆然としていると成海が心配そうに声を掛てきた。


「お婆ちゃんが亡くなったのを知らなくて……もう年だから、体が辛くて辞めたのかと勝手に思っていました」

「仕方ないよ」


 そう言って頭を優しく撫でてくれた。真奈美はその手を当然のように受け入れた。

 

 成海も真奈美と同じように、少し前まで学生だったはずなのに落ち着いていて、今ここにいる上級生達とは全く違って凄く大人に感じられた。

 自分はまだ高校生の面影が抜けていないようで、少し恥ずかしくなった。


「ねえ? 大瀬良さんのご両親ってさ」


 そこでさっきの自己紹介で、副部長で幹事をしている笹川が勢いよく割って入ってくると、「成海先輩。ちょっとこっちに来てくださいよ!」と無理矢理に成海の腕を掴んで、引きずるように連れて行ってしまった。

 

 成海は真奈美に「ごめんね」と席を離れいった。


 まさかこんなところで同じ小学校の人に会うとは思ってもいなかった。

 綺麗に切り揃えられた花の中に、一本だけ発育が悪い物が混じって全体のバランスを崩しているような居心地が悪いこの集まりに、真奈美は居場所を見つけたと喜べたのは一瞬。

 咲いて直ぐに萎びた花のようになりながら、テーブルの料理に手を付けた。


 結局最後の方は、気が合う物同士でかたまっているような状態だった。真奈美も二年と三年の人たちと話が合い、いつの間にか体の中にあった黒くて重い気持ちは取り払われて、それなりに楽しい時間を過ごすことができた。

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