第2話
「なんか先輩たちで盛り上がってるから、とりあえず自己紹介しない?」
そう言って糸口を広げてくれたのは向かいに座っいた、ショートヘアの女性。成海颯太に目を奪われていた女性だ。
彼女はくっきりした二重に女性らしいふくよかな胸。唇に塗られた桜色のルージュが、彼女の為にあるように似合っていた。
真奈美と同じ一年のようだが、大学生活を過ごして板についた先輩のような雰囲気があった。
「私、一年の田中(たなか)笙子(しょうこ)、趣味は読書。あなたは?」
目が合って慌てて自己紹介をする。
「私も文学部で大瀬良(おおせら)真奈美(まなみ)です。趣味は……これと言ってありません」
「え?」
田中と隣に座っている同期生、真奈美の横からは、騒がしい部屋なのに重なった声がはっきりと響いた。
小さい頃から名前を言えば、同じ反応が返ってきてきたので今更だが、ありふれた名前が羨ましかった。
「大小の大に瀬戸内の瀬。ラが良識の良。それで大瀬良です」
周りの反応もやはり数十年見てきたものと同じで、「へえ珍しい名前だね」と返ってきた。
テンポを掴んだのか、真奈美の隣に座っていた中肉中背でこれといって特徴がない眼鏡を掛けた男性が文学部の正木雄二(まさきゆうじ)、趣味は音楽。田中の右隣に座っているのが、同じく文学部の高村(たかむら)健(けん)吾(ご)、趣味は写真。
高村は目の色が茶色で薄いのが印象的だった。色も白く、異国の血が混じっているような顔立ちで、中性的なので目を奪う容姿だ。なのにどこかオドオドした態度は、その容姿に似つかわしくない雰囲気がある。
四人の自己紹介が終わったところで幹事役の三年生が「おーい! 一年! 紹介するぞ!」と大声を上げた。誰の紹介だろうかと、四人で顔を合わせていると、「一人一人立って、学部と名前を言えばいいんだよ」と成海颯太が促してくれた。
数人の一年の後、四人はさっきと同じ事を、今度は立って反復した。一人が終わるごとに「よっ! 一年!」など声が掛けられ、拍手が送られる。
サークルの人数は男女半々の十五名なので、揃った拍手の音は驚くほど部屋に響いた。面白いことに自己紹介の間は一瞬静かなって、他の部屋からも同じような声や音が聞こえてくる。拍手が薄い壁を伝って小さく振動していた。
一年が終わると今度は、二年から四年の順番に自己紹介を始めていった。
でも真奈美は一気に学部、顔、名前は覚えられない。とにかく責任者三人の名前と顔だけは覚えることにした。
そして飛び入り参加の成海颯太。全員の自己紹介が終えると、先輩達に席を強制的に移動させられ、一年はバラバラになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます