その愛は、無限である

安土朝顔🌹

第1話

 人の息がそのまま風になったような、生暖かい空気の夜。繁華街にある居酒屋の前には、真奈美達と同じような団体が点在していた。


 それは学生の団体、社会人と立場は違うものの、グループからほんの少しだけ離れ、まだ着慣れていないスーツ、溶け込み切れない感じは仲間意識を感じるには十分だった。


 歓送迎会、新歓コンパ。真奈美も同じように馴れ合う先輩達とは少しだけ距離を取って、号令が掛かるのを待っていた。

 自分と同じように距離と取って立っている同期生はいるが、お互い何となく声を掛けられない。慣れないヒールで足が痛かった。


 やっと「店に入るぞー」の掛け声でゾロゾロと入っていく。

 前方で幹事が店員に予約の名前を言って、狭い通路を進んでいく。周りからは店員の掛け声が飛び交い、その威勢の良さに真奈美の体は小さく跳ね上がった。

 個室に案内され、最後を歩いていた真奈美達一年は、自然と一番出入り口に近い席に固まって座ることになった。


「取り敢えず飲み物を頼むぞー」と奥に座った幹事が声を上げ、生中、レモンサワーとそれぞれが注文を出していく。


「新入生はまだ未成年なんだからアルコールは止めとけよ!」と直ぐに付け加えられ、真奈美はホッとした。

 でも中には物足りなく感じている人もいて、面白くなさそうな表情をしたり、同じように安堵した人もいた。

 飲み物が運ばれてくると同時に、スーツ姿の男が店員と一緒に入ってきた。入り口にいた新入生全員が「部屋を間違えてるなこの人」と表情をしている。


「あ! 成海(なるみ)先輩! ギリですよ。ギリ」

「間に合ってよかった」


奥に座っていた上級生達が親しげに声を掛けたので、何となく卒業生かな? と皆が思っていた。

 背は百八十センチくらいで高く、眼鏡の奥には二重の切れ長の目と形のいい唇。向かいに座っていた女子が、その男に目を奪われていた。だが真奈美には高嶺の華のように感じられ、観賞用には良いかもしれないと思った。


 成海と呼ばれた男性が新入生の後ろを通るとき、目が合った。親しみが籠もったような笑顔が瞼の裏に焼き付いた。

 途中から入ってきた成海の紹介が簡単にされた。どうやら今春卒業したらしい。


「成海(なるみ)颯太(そうた)です。部外者だけど参加させてもらいました」

「何言ってるんですか。全然部外者じゃないですよ。成海先輩は凄いんだぞー家は金持ちだし、就職先は大手企業だし超優良物件。でもモーションかけても無駄だからな-」


と幹事は笑いながら紹介した。


「ちょっと息抜きにね。よろしく」

 

 成海颯太は一番奥の席に座り、新入生とは両端同士になった。成海は上級生に人望があるのか、メインの新入生を忘れて盛り上がりを見せていた。

 

 その様子を、高校を出たばかりの真奈美はどうしていいかわからずに遠巻きに眺めていた。飲み物が来るまでの間、何となく目配りし合っていた一年数人同士で、自己紹介をする事になった。

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