最年少で魔術師の最高位にたどり着いた少年が主人公の物語。Sランク冒険者パーティの一員として活躍していた主人公だが、ある時から、自分の存在理由でもある魔術が使えなくなってしまう。それでも弟子を取ったり、可能な限りのサポートに回ったりとパーティへの貢献を続けたが、ある時、ついに仲間から見放されて……。
失意に暮れる日々。酒におぼれ、散財し、いよいよもって生活が立ち行かなくなってきた主人公。彼は仕方なく、もう一度冒険者としてやり直すことにする。が、待っていたのは人々が向けてくる冷たい視線。たまらず、逃げるように辺境の地へと赴いた主人公を待っていたもの。それは、名前を変えて、ゼロから始まるたった1人の冒険者生活だった。
しかし、とある異変を機に、主人公は“仲間”を手に入れる。ランクも年もバラバラな彼女達と過ごす日々が、主人公の心を変えていく――。
追放モノにしては珍しく、自身を取り巻く環境と心境の変化に重きを置いた本作。全体的に、ゆっくり、じっくりとした印象を受けます。魔術が使えなくなった主人公の苦悩。湿り気を帯びた情景。疑心暗鬼の日々。それらがとても丁寧につづられていて、主人公の解像度が序盤から非常に高まります。落ちぶれる日々には同情せざるを得ず、物語にぐっと惹きつけられるようでした。
また、『魔術』『ギルド』『ランク』など、ファンタジーではお馴染みの単語についても作中で触れられており、読者への甘えがありません。おかげでそれぞれの用語について、作品内でどのように扱われているのかはっきりと理解でき、物語の世界観を把握しやすかった印象です。
そんな本作最大の魅力は戦術の通り、解像度の高い主人公の描写です!
この世界に置いて魔術師はどうやらプライドが高いらしく、主人公も例に漏れない。ゆえに自尊心を守ろうと必死な姿は、少々痛々しく感じられます。しかし、自身最大の取り柄である魔術を失い、仲間も失い、お金も失って。全てを砕かれて0になった時、良くも悪くも見えていなかったものが見えてくる。
そうして変わってしまった日々が丁寧に描かれているため、自然と物語に吸い込まれているような感覚です。落ちぶれた主人公が“逃げ出した”先で迎える新生活も、ついつい応援したくなります。
ですが「心機一転! ここから新しい冒険者生活だ!」とはいきませんよね。やはり長年築き上げてきた自尊心の高さは、新生活の中でも尾を引いています。言動の端々に潜む変わらない……変われない部分にはどこか等身大の人間味があります。
ただ助けるのではなく、自分のために、利用するために人を助ける。そんな腹黒さを抱えながらも、誰かの窮地には駆けつけずにはいられない。仲間を利用するつもりで居ながら、仲間の将来を考えてもいる。なんなら、魔術だって教えちゃう。そんな性根の良さがたびたび見られます。
自尊心が高いながら面倒見がよく、熱い一面も併せ持つ。人情と人間味がある主人公に好感を持ってしまうのは私だけではないはずです。
さて、そんなゼロからの始まりとなった主人公ですが、魔術が使えなくてもかなり強そうです。実は仲間もそれを分かっているようで、それでも、主人公を追放しました。どうやら事情がありそうです……。この辺りに王道の設定を活かしつつ本作“らしさ”があって、ただの「追放モノ」に収まらないよう工夫されているように思えます。
ゆえに「どうしてこんな優秀な奴を追放したのか?」という疑問を抱くことなく、妥当性を持って主人公の有能さを受け入れることが出来、強力なスキルを使って行なわれる戦闘にも勢いがある。おかげで、ゆっくり、じっくりとした雰囲気を維持しながら、退屈すること無く読み進めることが出来ました。取り柄である魔術無しであんなことが出来てしまうなんて……多分この主人公、相当強いですよ?
自分の存在意義を失って、等身大の、1人の人間になった時。果たして【雷帝の魔術師】だった少年は何を見るのか。底辺でくすぶる少女3人の冒険者パーティに拾われて、何を思うのか。主人公の見えている世界が「仲間」の存在によって変わって行く様を精緻に描いた作品。今後の展開に期待大です!
追放物によくある、有能だけど元メンバーはそれが理解できず……ではない、主人公側にも問題ある追放パターン。
それは元メンバーも重々理解しており、追放時のやりとりは少々後味悪いものになりつつも……
まだ序盤な事もあって、この先の展開は少々奥底になりますが……
この話は主人公のレイ改めゼロ君のレベルや技術といった目に見える強さではなく、目に見えない『心』の成長を描いた物語。
デリケートな部分を取り扱うものだけに、作者の技量が強く出てしまう作品ながらも……
上手い具合にハマれば、名作になるだけのポテンシャルはあると思います。
ただ……今の段階では判断付きづらいので、あえて★2評価に留めさせてもらうのをご了承くださいまし( ゚∀゚)テンカイシダイデハホシヒトツフエルヨ