雷魔術の神髄
本当に回り道だった。本当に、遠回りだった。
この道が正しいものなのか、いつも不安だった。
選んだ道が、実は終わりが見えなくて、目的地すら見失いそうになって、怖かった。
だけど、いつしかこの道が悪くないと思った。
誰もが僕を【雷帝の魔術師】として見てはいない。
ありのままの僕を、等身大の僕を見てくれている。
最初は嫌だった。僕は自分の威厳を取り戻すのに必死で、だからいつかは別れると思っていた。だけど、彼女たちと関わり合って、徐々に思い知らされた。
「ゼロさんが誰だろうと、ゼロさんはゼロさんです」
いつの日か、そう言われた事がある。
そう、確かあれは夕暮れの時だった。まだ僕が【
「もし僕が、偽名を使っていたらどうする? とある目的の為に、君らを利用していただけだとしたら、どうする?」
我ながら、最低な発言だなと思った。自分の正体がバレるかもしれないのに、だけどその時は、どうしても不安で押しつぶされてしまいそうな時だった。
魔術が扱えず、この先に対する不安で一杯だった。
いや、違う。
――どっちつかずの状態でいる事に安堵感を覚えてしまった事に、危機感を抱いていたんだ。
ゼロとして過ごす自分は自然体でいられて、とても楽しかった。
勿論レイとして、【夜明けの星】で過ごす日々も十分に充実していたと思う。
だがどこか違うのだ。それは偏に、周囲の皆が僕を【雷帝の魔術師】だと思っていないからだと、思う。
「別にゼロさんが私たちを利用する為にこのパーティに入ったとしても、多分皆怒らないと思います」
「それは……どうして」
「私たちだって、それぞれの願いの為に組んだパーティだからです。リリムちゃんはともかく、最初はあまり上手くいって無かったんですよ?」
驚いた。いや、だが、そうなのかも知れない……。
ディジーは無口だし、リリムはまだ話せる方だけど、あまり深い所には入りたがらない傾向にある。リーシャだって、リーダーとしての負い目があるからかあまり深く立ち入る事も無い。
(今までの『
「だが、最近だと上手く連携出来ている事とかあるじゃないか。あれは――」
「あれはゼロさんがいてくれたからです。ゼロさんが、私たちに寄り添ってくれたから、私たちも、互いを知れたんです」
リーシャは僕の方へと振り返って、言った。
ドクンと、何かが鼓動した。それは今まで凍っていて動かなかったはずの、僕の――。
==
「…………」
バチバチと、電撃が俺の周りを走る。
数カ月ぶりに帰って来た雷撃の感覚は、まだ慣れ切ってないのか、少しこそばゆく感じる。
「これで満足か? どうせ直ぐに奪われるというのに」
右手を下ろしたエアリアルは、そう俺の変貌に目を細くしながら言った。
奴は俺の雷魔術に新たな可能性を見出しているのは、見て分かった。
だがまだ模索中なのだろう、それ故の発言だった――そして、エアリアルはそれに乗っかった。
「それはどうかな? ――このままお前をぶちのめして帰る事だって出来るんだぜ?」
「魅せて見ろ、レイ――いやゼロよ。お前のその果てしない研鑽を私は高く評価している。さあ、私に見せろ……雷魔術の神髄を、その真価を!」
その言葉を皮切りに、俺は 右手に纏った電気を、エアリアルに向けた。
白雷の電撃が飛び、エアリアルが拳を振るって電撃を叩き落とした。
しかしノーダメージではなく、奴の拳の甲の皮が剥がれ、赤い血が垂れていた。
「半年間魔力を貯めているからな……こんなのはまだ序の口だ」
こちとら半年間も魔力を貯め続けているんだ。
俺は右手で火魔術を、左手に雷魔術で編み出した魔力を纏って、奴に肉薄する。
エアリアルは真面に防御してはいけないと思ったのだろう、水魔術を以て俺の火魔術を相殺する事を選んだ。
放った炎弾が、奴の生み出した水のシャワーによって掻き消される。
俺は飛沫を上げるエアリアルの前に、電撃を放ちながら、言った。
「なぁ知ってるか――電気って、水を通すんだぜ」
「ぐ……ッ!?」
水を放出するエアリアルの掌から電気が流れる。
直ぐに水魔術を停止させ、一歩半、後ろに退いた。
その隙に――。
「理よ――【
俺はグラムに向かって手を伸ばして、詠唱破棄した上級治癒魔術を行使する。
グラムの体に光の粒が集まって行って、瞬間傷口が再生し、埋まった。
おまけに血液も作ったから、後はアイツの気力次第で直ぐに戦線復帰できる。
「十二詠唱もいる上級治癒魔術を詠唱破棄……か。どうやら、努力は怠っていなかったようだな」
そう言って退いたエアリアルは、後方に四つの魔術円を展開させると、それぞれの属性の多重攻撃を仕掛けて来た。
息の詰まる様な、圧倒的な多重攻撃。エアリアルの本気度が伺えるな。
確かにこれなら、俺はやられていただろう。だが、それは半年前の俺だ。
「俺がこの半年間、何もしなかったと思うか――?」
目で見ろ。色を、見ろ。
(水火風水火水水風火土水風——)
襲い掛かって来る魔術属性を見極めろ。
そして最適解を導き出せ。
見るのは一瞬、術式を
火には水を、水には風を、風には土を、土には水を。
それぞれの相性関係の良いものを選出し、それを術式に組み込み、発動させる。
「これらを制するのは、流石としか言いようが無いが……なら、これはどうだ」
全てを防ぎ切った俺に、瞬間、空へと上がったエアリアルは俺の目の前で詠唱する。驚いたことに、詠唱破棄では無い。完全詠唱のみ発動できる高等術式なのか。
その時、俺は奇妙な感覚を覚えた。
――エアリアルに対する魔力操作が行われていない。
「太陽は再び、貴方の昼を照らす光と成らず、月の輝きが貴方を照らすこともなく。主が貴方の永久の光となり、貴方の神が数多の輝きとなられる。貴方の太陽は再び沈むことなく、貴方の月は欠けることがない。主が貴方の永遠の光となり、貴方の嘆きの日々は終わる――」
「光……? いや、火か!?」
エアリアルの頭上にある球体。激しい光をまき散らしている。
あれは……何だ? 光か、それとも火なのか。いや、そもそも魔術に光などという属性は無い。見たことも無い術式に、俺はエアリアルの次の台詞に驚愕する事になる。
「起きよ、光を放て。貴方を照らす光は昇り、主の栄光は貴方の上に輝く――神級魔術【断罪の救世】」
「神級魔術……ッ!?」
頭上に照らされる極光の光が、剣と成り代わって俺たちに襲い掛かる。
俺は直ぐに合掌し、相反する二つの術式を組み合わせて急遽作り上げた【
「クソ……間に合わないか!」
しかし展開速度があまりにも遅い。
仕方ない……俺は【反魔術】を近くにいるグラムに向けると、俺は光の剣が降り注ぐ中を走り抜ける事にした。
「無駄だ。この攻撃は、旧来の属性には属さない古代の神術だ。永劫なる光にその身を捧げろ」
「ぐ、おおおおぉぉぉ……っ!」
光の剣が押し寄せる。俺はそれらを全て紙一重で避けながら、奴への対策を考える。
確かにこの攻撃は凄まじい。今だって、完璧に避けているという訳ではない。
(治癒魔術が……効かない!?)
傷は増え続け、治癒魔術は通用しない。
呪術と同じ全く未知なる攻撃。
しかしさっきのとは違って、この攻撃には自然界には無いものだ。
だから俺の魔術が通用しない。自然界とはかけ離れた、いやもっと神聖な、神々しいナニカ。
「この攻撃は、お前が得意とする自然界とは属さないものだ」
「~~~~~っ! 神など、よくぞ魔の者であるお前が出せたな!」
「神に種族など関係ない。神と近しい者であれば、その恩恵を受けられる。魔王と同じく、これで分かったか――?」
エアリアルは上空へと浮くと、断罪の剣の前で両腕を掲げる。
黒と白。正反対のオーラが、彼に纏う。生と死が、光と闇が、彼に混在する。
紀元、魔王と神は相反する存在として伝えられていた。どちらとも伝説という扱いにされているが両者には明確な違いがある。
それは――実在の有無だ。
魔王は実在していて、今も尚存命している。
だが初代魔王は既に死に絶え、今は六代目の魔王がいる。
しかし、神に関しての実在は今の所不明だ。古い文献などには記載されているが、ここ数百年は無し。もはや事実上、存在しないものとして扱われている。
魔王に関しての文献は多い。何故なら、その災厄があまりにも強大過ぎるからだ。
数多の災害を引き起こす災厄の王。彼の前には全てが平服する、万物の王。
しかし神に関する力を表す文は少ない。
――天地を裂き天上の力を振るう救世の覇者。
魔王と同じく、絶対の力を持つ者。
だからか、エアリアルの次の言葉に、俺はただ――。
「神と魔王——両方の力を会得している私に、勝てるはずがない事を」
この時、俺は何故か、口元に笑みを浮かべていた。溢れる高揚感、未知なる技に対する危機感はあるが、だがしかし、どうしても堪えられない――。
こうして全力で魔術が使えるという事実に、感覚が、感情が、耐えられない。
だがしかし、俺の今ある魔術の中ではアイツの持つ【神級魔術】に対抗できるカードが無いのも事実だ。
なら――。
「なら、見せてやるよ――俺の新しい【新技】ってのを」
こうなれば、決めるしかない。
最大のパフォーマンスで放つ――俺の新たな【魔術】を。
俺はそう啖呵を切って、術式を起動し始めた。
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