道中

 魔石ダンジョン《難易度B+~A?》


 深層三階——ここに来ると、厄介な魔獣が多くなってくる。

 基本的に出てくるのは【鬼蜘蛛タランチュラ・オーガ】や【紅狼クリムゾン・ウルフ】などと言ったBランクの魔獣どもだ。この階層からは、僕たちもちょくちょく戦闘に混ざる事もあった。


 突然だがここで、【虎狼の集い】のメンバーを紹介しようかと思う。

 パーティのリーダーであるオレンジ色の男――ランザ。ランクはB。

 僕と戦った時は短剣だが、今は鉄板みたいな大きさの大剣を振りかざして、襲い掛かる魔獣を薙ぎ払っていく。


「理よ我に従え、かの者に栄光の兆しを、【身体強化パッシブ】!」


 ロッドを構えた、紫色のローブを被った魔術師——リード。ランクはC。

 魔術師としての実力は、まあ僕からしてみれば初級も良いところだが、【身体強化】含める補助魔術の腕は確かだ。


「やあああぁぁぁ!」


 プラチナブランドの髪を靡かせ、単身敵に向かって突撃する少女――ルーラル。

 職業は剣士、大剣を振りかざランザとは違い、リーシャと同じく細剣を使っている。


 彼女の存在を実は前から知っていた。Bランクにしてはあまりにも強く、その細剣は間合いに入った瞬間に消え、気づけば斬り殺される――【閃光】のルーラル。

 彼女の持つ細剣は【魔剣】だ。名称は不明だが、微弱な電流が常に剣先に纏わりついている所を見ると【雷属性付与】は確かだろう。


 狭い洞窟内だから、彼女の攻撃は良くとおる。最前線は彼女とリーシャが担当して、真ん中にランザとリリムが、後方支援に僕たちが……と言う感じだ。


「ありがとう……強いね」


 ルーラルが襲い掛かって来る魔獣を狩っていく。

 一流の冒険者は隙を見せない。だが、どうしても攻撃時は必ず隙が生じる。

 その隙を差し込んでくるのが高ランク帯の魔獣たちだ。彼女が背後を見せた瞬間、紅狼クリムゾン・ウルフが牙を向いて飛び掛かる。


 だが、それをリーシャが見逃すはずが無い。

 細剣が振るう。その時に生じた斬撃が、ルーラルを襲おうとした紅狼を切り裂いた。


斬撃波動ライン・スラッシュ】——この二週間でリーシャが会得したスキルの中の一つだ。彼女の対応を見たルーラルが微笑を浮かべながら彼女に言った。


「ありがとうございます!」


 リーシャは本当に嬉しそうに言った。

 自分より遥かに強く、そして自分と同じ細剣使い。

 さっきから彼女に尊敬の眼差しを向けているが、果たして彼女は気づいているのだろうか。


 そんなこんなで、紅狼たちとの戦闘を終え、次の階層へと足を掛ける。

 次の階層——最深部に繋がる、最後の層だ。ここまで長かったが、目だった負傷が無かったのは、運が良かった。


 階層は基本的に階段上になっていて、薄暗がりの中、ガチャガチャと金具の音が響く。


 序盤は、初対面という事もあってか、ギクシャクしていたが、今はそんな事を忘れるぐらいに仲が良くなってきていた。元より人懐っこい彼女たちの事だ、すっかり溶け込んでいる。別々のパーティのはずなのに、まるで一つのパーティになったみたいだ。


 僕の前にいたランザが、僕に向かって言った。


「ここまで順調に来れるとは思わなかった……ありがとう。俺たちだけじゃきっと、数日掛けて攻略していた」


 ランタンの灯りが、階段を下る際の動きによってゆらゆらと揺れる。

 灯りに映った彼は、照れくさそうに頬をぽりぽりと搔いていた。

 僕はその時何て言おうかで迷っていた。正直、こそばゆい気持ちだった。


 階段を下りきった先に待っていたのは、複数の道だった。

 道のあちこちには、端に燃え尽きた松明の残骸が見える。

 何ともおあつらえ向きなダンジョンだなと思いながら、だが丁度いいとの事で、ランザは僕たちに言った。


「ここらで別れよう」


 確かに、その方が僕も本懐が成せる。

 ランザはその後僕たちの事について冒険者ギルドに訴えない事を約束してくれた上に、僕たちにとある物を渡してくれた。


「これは……【探知機スキャナー】か!」


【探知機】とは魔石などの微弱な魔力放出を探知してくれる便利な魔道具だ。

 これで魔石の在りかが分かるし、放出する魔力量によっては、魔石の大きさなども分かったりする。魔石採掘にピッタリの魔道具だが、希少な物なので、買えなかったのだ。


「あぁ、お前らなら俺たちより上手く使ってくれそうだからな」


「こんなにも高価なものを……良いのか?」


「俺たちは魔獣討伐の方が良い。宝の持ち腐れだ。それに……それでアンタに攻撃したことはチャラって事で」

 

 最後にランザはそう言いながら、僕に向かって片手を上げる。

 これは冒険者なら誰でも知っているポーズだ。

 僕も片手を上げて、手を叩く。


「頑張れよ」


「お前もな」


 互いにハイタッチしながら、僕たちは別々の道を進む。


「何だかんだ、いい人だったね」


「そうだな……」


 僕は彼から貰った探知機スキャナーを見つめながら、真正面を向く。

 ここまで来るのに十時間ぐらいは掛かっただろう……今、外は夜か。

 僕個人としては、魔石を採掘したいところだが、彼女たちの身体を考えて、ここは休んだ方が良いだろう。


 僕たちはちょっとした広場を拠点と定めて、テントを張った。

 周辺に魔獣避けの術式を描いて、これで魔獣に襲われる心配は無い。

 火を起こして、干し肉をお湯でふやかしながら口に運ぶ。塩気の強い干し肉が美味い具合にお湯と交ざりあい、一種のスープみたいな味がする。


「うえーっ! お塩落としちゃおう」


 リリムは苦い顔をしながら、干し肉をかじっている。

 僕は彼女たちに向かって言った。


「塩分はキチンと取っておいた方が良い。それとリーシャ、細剣を貸してくれ」


「どうしてですか?」


「魔獣を狩った際に、血がこびりついているからだ。軽く砥いでやるから貸してくれ」


 僕に出来る事は、明日に向けての準備だけだ。

 特に武器の調節は重要だ。ここぞと言う時に使えないとなっては困る。

 僕の言葉に彼女は頷いて、細剣を渡す。


 そうして明日へむけて準備を進めながら、時折魔獣の声が響くダンジョン内の中、僕は静かに眠りについた。






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