第二十一話 初デート



「では儂は先に戻るぞ。

 町の者にはすでに話を通しておるから、好きに見せてやるといいのじゃ」


「「はい、ありがとうございました」」


 ナキア村中央、大衆広場の端。

 いつもの空中跳躍あれでここまで送ってくれたマハタ様に、アネットと二人で頭を下げる。それに彼女はひらひらと手を振って、軽い足取りで去っていった。

 私達に足代わりに使われたのに、特に気にした様子もない。

 ……ほんと、善い人だよなあ。


「えへへ、カタリナお姉ちゃんとデートだね。

 楽しみだなあ、ここにはどんな場所があるんだろ?」


「でっ……わ、私に任せてください。

 アネットにぴったりな最高のでぇ、デートプランを遂行して見せましょう」


「わあーいっ」


【な、何かアネットちゃんのカタリナちゃんに対する好感度高くない?

 昨日預かったばっかりなんだよね?】

【そりゃあ、あれよ 夜のスキンシップ(意味深)のおかげよ】

【たった一夜で仲良くなれるなんて、一体どんなにすごいスキンシップをしたんやろなあ?(すっとぼけ)】


 満面の笑みを浮かべるアネットの気押され、つい童貞っぽい反応をしてしまう私。

 

 い、いやだってデートだよ? 男と女が休日に出かける、創作物にしか存在しないあれだよ? 

 こ、これはもしや私が攻略対象になってたりする? それとも女の子同士だとこれくらい普通に言うのかな?

 前世だと男友達しかいなかった気がするし、残念姉妹は残念だし……経験が無さ過ぎて分かんないよお。助けてエロい人っ。


「どうしたの? お腹痛い? さすさすする?」


「い、いえ何でもありません。それじゃあ行きましょうか。

 ……アネット。どこか気になるところはありますか?」


「うーんとねえ……」


【早速相手任せじゃねえかww】

【最高のデートプランとは一体……?】


「し、仕方ないじゃないですか。

 私もここに詳しいわけじゃないですからっ」


 きょろきょろと忙しなく視線を動かすアネットの傍ら、タブレットに向けて囁き声で事情を話す。


 まだ私が見習いで自由に出歩けない影響で、買い出しとかはすべてお母さんたちの役割だったのだ。

 私がここに来るのは何かお祭りごとがあったときくらい。

 一応ほとんどの住民とは顔見知りではあるものの、どこに何があるかはさっぱり分かない、というのが実情だった。


 うーん、こんなことならマハタ様とかに頼み込むべきだったかなあ。

 でも自分の仕事があるだろうし……。


「あ、それじゃああの大きな木は? 何の木なの?」


【あー、それ俺も気になってたわ】

【最初からずっとあったもんな】


 アネットが指さしたのは、私たちがいる大衆広場の中央に佇む一本の木。まだ蕾の段階のそれの周りにはぽつりぽつりと僅かな人影あるだけだった。

 そういえばリスナーのみんなにも説明してなかったんだっけ?


「あれは桜の木、ナキア村のシンボル的な奴です。

 毎年満開になったら、ここに集まって宴会をするんですよ」


「え、えんかいっ!

 ねえねえ、今年はいつやるのっ!? 私も参加できるっ!?」


「勿論ですよ。当然お酒は飲めませんけどね。

 この感じからして、あと三週間、多分3月下旬には満開になっていますかね」


【ほーん、そーいや向こうの日時とかもこっちと連動してるんやっけ?】

【↑だね 地球でも似たような予想日になってる】

【つまり今年はカタリナちゃんとお花見できるってコトっ!?】


「ええ、どんな形かはまだ分かりませんが、当日は配信する予定です。

 色々と面白い催しがあったりするので、みなさん楽しみにしていてくださいね」


「いいねっ」


【りょ】

【よっしゃ これで仕事も頑張れそうやわ】

【うう、お花見シーズンに何の予定がなかった俺が……ついにっ!】

【チキンとケーキを用意して待ってるねっ!】

【↑チキン冷めちゃった】

【おまいら、周りはみんなでわいわい盛り上がっている中、一人でスマホ見ながら黙々と食べる野郎の姿を想像してみろ】

【ま じ で や め ろ】


 いつぞやの大事件を思い出したのか、阿鼻叫喚状態に陥るコメント欄。


 さ、流石に私もサイレントで配信キャンセルはしないんじゃないかなあ……?

 いやでも突然絶世の美女に誘われたらそっちを優先させる可能性が微レ存?(最低)


「むー。なんか変なことを考えてる気がする。

 ねえねえ、お母さんに渡されたメモは使わないの?

 確か大体の店の場所とか、買わなきゃいけないものが書かれていたよね?」


「あっ……よ、よく思い出しましたね。

 今から使おうと思ってたんです。ほ、本当ですよ?」


【明らかに忘れてた様子なんですがそれはww】

【なあ、やっぱりこれ……】

【言ってやるな 真実は時に人を傷つけるもんだ】


 と些細・・なミスがありながらも、道標を手に入れた私たちはナキア村の中を進みーー



「やあ、よく来てくれたのにゃ。カタリナの嬢ちゃん、そしてアネットの嬢ちゃんだったかにゃ?

 私の名前はニャハット。ここで魚屋をやらせてもらってるものにゃ」


「わあ、猫さんがしゃべってるっ」


「むふっふ、いきなり私の頭を撫でるとは分かっているにゃないかっ」


【ニャハットさんきちゃああああ】

【モフモフキターーーー】

【もふもふもふもふもふもふ】

【ちっちゃい子が大きな猫にじゃれつく姿って癒されるよねえ】

【そうか、ここだと子供が怪我をする危険もないのか いいなあ】


 なんてケモナー大歓喜の展開があったりーー



【そういえば魚と肉とか普通に売ってるけど、これ全部常者なんだよね?

 それなら元は話せたりするの?】

【そーいや前に常者は大体話せるとか言ってったっけ?】

【ま?】

【そう考えると、何か急にグロく見えてきた】


「そ、そうなのっ? みんな、お友達になれるかもしれなかった子達なの?」


「い、いえ、流石の私たちもそこまで外道ではありませんよ。

 利用しているのはあくまで意思疎通出来ない常者だけです。

 ほらみなさんもウマサケを見たでしょう? あれみたいな存在は、種類で見れば少ないですが、数としてはかなりいるんですよ。

 そもそも今私たちが立っている大地も常者の一種ですからね」


【あ、そっか 忘れたわ】

【大地が生き物とはこれ如何に?】

【相変わらず不思議な世界観やなあ】


 なんて一幕があったりしてーー



「……みんな、良い人たちだね。それにすごく楽しそう」


「そうでしょう? だから私はここのみんなが大好きなんですよ」


「うん……わたしも分かるなあ」


 町の中を周り終えた私たちは大衆広場に戻ってきていた。

 時刻は11時。今日は一日自由をもらっているからまだまだ時間はある。


 買い物は最後でいいし……うーん、今から何をしようかなあ?

 アネットくらいの歳の女の子が好きなもの、か。……ど、どうしよう。一緒に遊ぶとかしか思いつかない。

 大丈夫? 楽しいのは男だけだったりしない? 


「よっ。久しぶりだな。そいつがアネットか?」


「こ、この声はっ」


 聞き覚えのある声に振り向けば、そこいたのは幼馴染第三号。

 爽やかな笑みを浮かべる奴の名前はーー


「アネット。あいつはシルビオ・ロリコンガ―。

 イケメソの顔に騙されてはいけません。小さい子を見ると見境なく襲い掛かる変態さんです」


「へ、へんたいふしんしゃさんなのっ!?」


「おいこら、勝手に俺を犯罪者にするんじゃねえ。

 俺が好きなのは年上のナイスバディな……あ」


【なるへそ シルビオは熟女好き、と】

【男の子出ちゃったねえ】

【語るに落ちるとはこのことよ】


 よしっ、これで釣り大会での屈辱は果たせましたかねっ。

 

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