第二十話 【急展開】新しい家族ができました!



【こんちわー】

【待機~】

【新しい家族かあ……何だろ? ママさんが妊娠したとか?】

【↑普段の二人を知ってるだけに、何か妙に生々しくない それ?】

【つまり二人は夜な夜な……】

【まじでやめいw

 どーせ、ペット紹介とかそんな感じじゃない?】

【あー、ありそう

 不思議だよなあ、何で配信者ってペット――それも大体猫を飼い始めるんやろ?】

【そりゃ、猫の方が可愛いからだろ】

【あ?】

【は?】

【ちょっとこんなところで、仁義なき戦争を起こさないでもろて】


「わあ、面白いねっ、カタリナお姉ちゃんのリスナーたちっ」


「そ、ソウダネー」


 コメント欄を流れる好き勝手な妄言を見て、嬉しそうに声を上げるアネット。

 私はそれを冷や汗をかきながら眺めていた。


 うう、どうしてこんなことに……。ネットの住民の言葉とか絶対に教育に悪いよねえ(偏見)。

 心の中に広がるのは焦燥と不安ーーそして後悔だった。




 ~唐突に挟まる過去回想~




 事の始まりはそう。タブレットを見たアネットの「これは何?」という純粋な質問

からだった。

 私はそれに、何も考えずこれで動画取れることや配信をやっていることまで話してしまってーー

 

「わたしも、カタリナの配信に出てみたいっ」 


 目をキラキラと輝かせて、アネットがそう宣言したのだった。

 そりゃあ自分の姉がそんな面白おかしそうなことをやっているのを聞けば、興味を惹かれるってもんだ。私の馬鹿っ。


「い、いやでもほら。

 ネットには何もしてないのに酷い言葉を投げかけてくる人が沢山いるんだよ?」


「大丈夫、そんなの見ても私、虫の羽音ぐらいにしか思わないから」


「う、うーん」


 私の必死の説得も何のその、自信満々に胸を張るアネット。


「あら、いいじゃない。

 これからマハタ様も来るし、ナキア村の紹介も兼ねて一緒に撮ってみたら?」


 はてにはお母さんたちもがアネットの応援に回って万事休す。結局、アネットと一緒に生放送をする展開になってしまった。




 ~回想終了~




「そろそろ開始時間だねっ」


 大丈夫かな? 一生残る傷になったりしないかな?


 アネットの天真爛漫な笑顔とは対照的に、暗澹とした感情が広がっていく心。


『例え見ず知らずの誰かに貶められようと、私たちはお互いのことを思いあっている。だから大丈夫よ。

 何をそんなに心配しているかは知れないけど、カタリナは自分のやりたいようにやればいいわ』

 

『最悪、全てを消してここに引きこもればいいだけだしね』


 同時に、お母さんたちの最初の言葉が蘇った。

 

 ……そう、だよね。

 現実と違って、身バレして家に卵を投げ込まれたり無言電話を掛けられたりとかの実害は起こりえないのだ。

 最悪、ヤバそうな雰囲気になったらすぐに配信を閉じてしまえばいい。今の家族なら、それくらいきっと乗り越えられるはずだ。


「よし。折角なら楽しもっか、アネット。

 何があったらお姉ちゃんがフォローするから、アネットは自由にやっていいよっ」


「うんっ。ありがとうカタリナお姉ちゃんっ。頼りにしてる」


 アネットと改めて笑いあい、配信開始時間に。

 場所はいつもの自室。私は手に持ったタブレットを自分の方に向け、手慣れた挨拶を始めた。


「えー、皆さんこんにちわ。異世界の美少女、カタリナ・フロムです。

 今回は我がフロム家に新しい家族が増えたので、早速紹介したいと思います。さあどうぞっ」


【ワクワク】

【よし、犬よ来いっ】

【はあ? ここは王道の猫だろ?】

【じゃあ俺はその間を取って犬と猫が融合した流者、「犬猫」だな】

【↑ちょっとありそうなのやめろよww】


 本当に頼むよ、みんなっ。私の天使アネットを泣かしたら絶対に許さないからねっ。

 

 どくどくと心臓が脈打つ中、画面の中心でアネットがぺこりと頭を下げた。


「え、と、こんにちは。カタリナお姉ちゃんの妹のアネット・フロムです。

 今日はわたしの我儘でお姉ちゃんとのお邪魔させてもらいました。よければ仲良くしてくれると嬉しいです」


【新キャラキターーー】

【かわえええええ】

【相変わらずの精度やなあ 全部で一体いくらかかってんだ、これ?】

【↑考えるな あたまおかしなるで】

【年の割にしっかりとした女の子っていいよね

 いや、ロリコンじゃないけど】

【分かるマン】


「あ、あれ? 意外とみなさん普通ですね?

 正直もっとセクハラじみた感じになると思ってました」


【俺らの信用なさすぎだろww】

【そりゃあ(前回の質問コーナーを見たら)そうよ】

【まあ3Dモデルでロリキャラはあるあるやし】

【おいこらモデルとかいうんじゃねえ 

 ……リリストアルトは実在するんだっ】

 

 あー、なるほど。

 Vtuberブームと異世界設定のおかげで本物のロリっ子だとは思われてないのか。


 ……なんだ、これなら過度に心配する必要なんてなかったじゃん。

 ほんと良かったあ。とりあえずは第一関門突破、かな。


「この1233っていうのが、今配信を見てくれる人の数なんだよね?

 こんなに多くの人に見られると思うと結構緊張するなあ」


「そうでしょうそうでしょう。

 全部一から私が積み上げてきたんです。もっと褒めてくれてもいいんですよ?」


「カタリナお姉ちゃん凄いっ、可愛い、世界一っ」


【明らかに適当おべっかじゃねえかw】

【カタリナちゃんそれでええんか……?】

【……なあ、これアネットちゃんの方が(精神的に)大人なんじゃ……?】

【まっさっかー】

【「悲報」カタリナちゃん、4歳児(暫定)に”かしこさ”で負ける】


 ん、んんー? 

 お姉ちゃんとして威厳を高めようと思ったら、何か私のリスナーたちの好感度が下がってる……?


「みなさん、流石に言いすぎですよっ。

 例えカタリナお姉ちゃんが布団の中でわたしの体にいたずらするのが好きな変態さんだとしても、私の大切なお姉ちゃんなんですからっ」


「ちょっとっ!? 流石にその言い方には語弊があるよねっ!?」


【>布団の中でいたずら その話kwskっ】

【姉妹百合……大好物です】

【とうとうここにキマシタワーがっ!?】


 アネットの大暴投に騒然とするコメント欄。

 や、やばい何とか訂正しないと。そう思ったのもつかの間、障子をあけて一人の人物が部屋の中に入ってきた。


「ほお、相変わらず面白いことをやってるではないか。

 やはり早めに来たのは正解じゃったな」


 狐の尻尾を上機嫌に振る彼女の名前はマハタ様。

 ナキア村の村長にして、今回アネットの町案内をしてくれることになった御方である。因みに頭には鬼の角が生えていたりします。


「え、と昨日からカタリナお姉ちゃんの家でお世話になっています、アネットです。

 ご挨拶が遅れて申し訳ありません。不束者ではございますが、どうぞよろしくお願いします」


「よいよい、そんな畏まらんで。

 儂としてはお主がここで楽しく過ごしてくれればそれで十分じゃ」


 アネットとリスナーたちに向けたそんな説明を終えると、彼女はもの凄く丁寧な仕草で頭を下げた。

 ……あ、あれ、アネットって4歳くらいだよね? 何かいまにも菓子折りでも渡しそうな雰囲気なんだけど?


 頭の中に沸き上がる困惑。

 さりとて流石に子供の好奇心には勝てなかったのか、耐え切れないという感じでアネットはマハタ様の尻尾を掴んだ。

 

「あっ」


 次の光景を想像して、思わず目を瞑る。

 マハタ様はいきなり尻尾を触る無礼者には厳しいのだ。小さい頃よくモフモフしようとして、吹っ飛ばされたからなあ(痛みは全然なかった)。

 気持ちは分かるぜ、妹よ。


「わああああ、すごいモフモフっ」


「そうであろう? 」


 しかし、そこにいたのはアネットに撫でられながら、こそばゆそうに目を細めるマハタ様の姿。


「な、何で怒らないですかっ?

 私の時は思いっきり投げ飛ばしたじゃないですかっ」


「流石の儂も子供の戯事にいちいち腹を立てたりはせんよ。

 お主が特別なんじゃ。ほれ、あの時は何か邪なもの感じたから……」


「ええっ!?」


【「悲報」カタリナちゃん、ちっちゃい頃から”あれ”だった】

【解釈一致でございます】

【つまりカタリナちゃんはモフモフとロリっ妹に興奮する変態さん、と

 以上、おあとがよろしいようで】


 

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