第十六話 【VLOG】異世界リリストアルトの歩き方
「異世界系VTuber カタリナ・フロム」
3月初旬に大手動画投稿サイトに開設され、異世界の少女が地球に向けて配信するという
開設1週間にして、登録者数は9800人。
一度生放送が始まれば、1000人近くの視聴者が集まる。
その成功には様々な要因があったが、何よりもファンの心を惹きつけているのはライブ感だった。
精巧な3Dモデルに基づくキャラクターと世界観、そして此方の声に生き生きと反応する彼ら彼女たち。それら全てがまるで彼らが住む世界が本当に存在するかのような幻想を生み出していた。
さて、そんなチャンネルに今宵一本の動画が上がる。
タイトルは「【VLOG】異世界リリストアルトの歩き方」。9本目にして初めての限定公開である。
……。
…………。
【こんばんわー】
【お疲れさんです】
【お、珍しい。今日は動画か】
パラパラとコメントが流れ、同時接続数が3桁に乗った頃、動画は始まった。
画面に映るのは白背景に虹色で書かれた「異世界リリストアルトについて」の文字。耳に入るのは聞きなれた少女の声。
「最近の夜は少しだけ暖かくなってきましたね。
こんばんわ。異世界の美少女、カタリナ・フロムです。
今回は特別編ということで、私たちが住む世界リリストアルトについて説明していきたいと思っています」
【やっぱりかあ】
【クソださフォントじゃねえかww】
【考察班の予想もあたるかね?】
【↑どんな考察があるんやっけ?】
【有名なのは「死後の世界」説かな
輪廻の歯車とかもあるし、結構有力視されてるみたいよ】
【ま? カタリナちゃんは幽霊ってこと? それはなんかヤダだなあ。
みんなには楽しく暮らしていてほしいよ】
【いや、だからそういう設定って話な
監禁説があった某Vtuberみたいな感じで好き勝手に考察してるのよ】
【あーね 懐かしいなあ、今はどうなってんだろ?】
【一応ちょくちょく投稿されてはいるみたいよ】
次第に脱線し始めた中、画面は次のカットへ。
「まずは地球との関係について話しましょうか。
皆さんが住む地球と私たちが暮らす異世界、リリストアルト。
この二つの世界は確かに隣り合っていますが、その交流は基本的に「地球側からこちら側への輪廻の歯車を介した流入」という一点のみです。
また地球からやってくるそれらは流者と呼ばれ、リリストアルトのほぼ全てを構成しています」
白地を背景に、上下に並ぶ大きな二つの円。
その接点には歯車のイラストが描かれ、その下部から下の円中央に向けて大きな矢印が伸びている。
二つの円には上から「地球」「リリストアルト」、歯車には「輪廻の歯車」、矢印には「流者」とそれぞれ書いてあった。
【向こうは知っていて、こっちは知らない、か。
どっかの異世界スレを思い出すなあw】
【そーいや、大陸とかも昔出来た名残だっけ?】
「次は輪廻の歯車についてですね。
地球の底、リリストアルトの天頂に浮かぶそれは、地球上のありとあらゆるものーー動物や植物、そして道具に至るまでその全ての魂の輪廻転生をさせています。
あ、因みにこのイラストはお父さんに書いてもらいました」
今度は上側の円がアップに。
円の下側に書かれた歯車、その左上と右上に新たにそれぞれ5つの絵ーーヒト、ネズミ、木、細菌、工具のレンチを模した絵が描かれ、左上から歯車へ、歯車から右上へ、右上から左上へ大きな矢印が伸びていた。
左の方は目に×が描かれたヒト、右の方はヒトの赤ちゃんなどが書かれ、どうやら「死」と「生」の繰り返しを表しているようだ。
【なるほどねえ】
【可愛い絵やなあ】
【カタリナパパ、意外と有能なのかw】
【あの人なんか影が薄いんよなー】
【やめろ、薄いとかいうんじゃねえ 可哀そうだろ】
【そうだぞ ハゲを馬鹿にするんじゃねえ】
【いつの間にか話がすり替わってる、、妙だな】
【また髪の話してる・・・】
【ってか、道具に魂なんてあるの?】
【八百万の神とかそういう感じじゃね 知らんけど】
【あー、何か全てのものに神様が宿っている的な考えだっけか】
「その過程で、特に道具においては一度真っ白な状態に戻す必要があるらしいです。
洗濯ものを洗うように漂白してーーその時流れ出た汚れ、こびりついていた強い人間の思いが集約して生まれたのが流具です。
恨みつらみといった負の感情は”穢れ”として、それを引き起こした道具ーー銃や刃物などの凶器へと姿を変えてやってきます。
逆に大事にされていた道具は何故かその機能が再現された状態で流れてきます。
部屋のライトや私が使っているこの配信機材なんかがそうですね」
壊れた道具の絵から小さな矢印が生まれ、歯車を通って「流者」と書かれた矢印(歯車から下へ伸びる矢印)と合流する。
小さな矢印には「流具」と書き込まれ、海岸に打ち寄せられた流具の写真が貼り付けられた。
【はー、そういう設定なのね 納得】
【いまいち穢れとかの説明もなかったからなあ】
「また流者を生み出すもう一つの要因として、沢山の人が抱いた強い思いーー信仰や好奇心などがあります。
それが集まって生まれたものとその子孫たちを、稀人や常者と呼ぶそうです。
稀人と常者の違いは人間と全く同じか、そうじゃないかですね。
大地や生き物などリリストアルトを構成する多くのものが常者なんですが、最近はこの二つが生まれるのも少なくなってきたみたいです」
今度は生きたヒトの絵から小さな矢印が生まれ、同じように輪廻の歯車を通って下の矢印に合流した。
その小さな矢印には「稀人・常者」と書き込まれ、ナキア村の住人たちやカタリナが微笑む写真が貼られる。
「と、このように流者には二つの成因があるわけですね。
そしてどちらも”もの”に対する皆さんの強い感情を根源としているわけです……なんちゃって」
【うまい!!!】
【うまい、、、のか?】
【可愛いけりゃ何でもいいんだよっ】
【ええー そんなのがいるから寒いイベントが増えるんだぞ?】
【タイムスリップ茶番 くす玉の「おしまい」……う、頭がっ】
「あとは……なんでしょうね。
まあ、何かあったら生放送中に聞いてみてください。そっちの方が早いですし」
【りょ】
【色々と設定が明かされて、考察がはかどりそうですなあ】
「というか私が疲れました、これで勘弁ください。
動画編集って大変なんですね。たった数分の動画を作るだけでめちゃくちゃ時間使いました。
リスナーのためじゃなければ投げ出していますよ、ほんと」
【!?】
【お、おう】
【急にデレるからみんな戸惑ってるじゃんw】
【まあ動画尺の十倍以上の時間がかかるなんてザラだからなあ】
【完成させるの、大事】
「ってなわけで、ここまで見ていただきありがとうございました。
チャンネル登録と高評価よろしくお願いします。異世界の美少女、カタリナ・フロムでした。
それでは。皆さんに素敵な幻想がありますように~」
【乙でしたー】
【素敵な幻想がありますようにー】
【素敵な幻想がありますように】
【すてげん~】
【ってかVLOG要素どこだよw】
最後にチャンネル主たるカタリナ・フロムが手を振る映像を残して、その動画は好評のまま幕を下ろした。
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