第十三話 男友達と姑息な手
シルビオ・グラント。
狩人を司るグラント家の一人息子にして、私の二歳上の幼馴染。
見た目はちょぴりワイルドな爽やか系イケメンって感じで、赤い髪と真紅の瞳が良く似合っていた。
しかもそれでいて性格も良いんだから……ほんと、悲しくなるよね。前世の世界だったら、多分接点すらなかったんじゃないかな。
ただあくまでそれは私目線の話なわけで――
「なーんか、納得いきませんね。
私みたいな美少女に男の友達がいようものなら即炎上、とかが普通なんじゃないですか?」
リスナーにシルビオの紹介を終えた後、私はそんな疑問を投げかけていた。
配信者、特に女性VTuberには熱狂的なファン(ガチ恋勢というらしい)がいて、少しでも異性と関わると炎上してしまう、なんて話をよく見かけたのだ。
【否定しきれないのがこの界隈の悲しきところよなあ】
【まあ正直な話、カタリナちゃんは異性って感じがしないんだよなあ
むしろ気の良い女友達と馬鹿やってるみたいな感じ】
【わかるわw ……女友達とか一人もいないけど】
【やめろ……まじでやめろ】
ガチ恋の話から発展して、なかなかに鋭いツッコミが入る。可哀そうなコメントも……うん、気持ちはわかる。私もそうだった気がするから。
ってか、もっと女の子らしく振舞った方がいいかなあ。でも可愛いポーズをしたりするのって結構恥ずかしいんだよね……。
うーんうーんと唸っていると、隣でタブレットを見ていたシルビオがお、と嬉しそうに声を上げた。
「地球の奴らもわかってるじゃねえか。
そうなんだよなー、カタリナは女っぽくないんだよ。昔から俺と同じで外で遊ぶのが好きだったし」
「ま、まああの時は子供でしたからね。
今では花も恥じらう立派なレディですよ」
「へー、家事全般がダメなところは今も変わってないって聞いたんだが?」
にやにやと意地の悪い笑みを浮かべるシルビオ。
くそ、なんでこんな表情でもサマになってるんだ……イケメン死すべしっ。こうなったら適当なこと言ってリスナーをドン引きさせてやる。
「なんでそんなこと知ってるんですかね?
まさかストーカーなんですか?」
「なんで俺がお前を追いかけ回さにゃならんのだ。
お袋たち経由でお前の近況が流れてくるんだよ。よく二人で話しているみたいだし、俺とお前をくっつけたいんじゃねえかな」
「うわ、一瞬想像しちゃったじゃないですか。
本当にやめてください、気持ち悪いです」
「完全に同意だな。俺もこんな女っ気のない奴は御免だ」
【「悲報」カタリナちゃん、脈なし】
【どうなんこれ? どっちかが本音を隠してる可能性も微レ存? 教えてえろい人】
【……これはなしよりありですね 間違いない】
【情報が足りなくてまだ判断つかんだろw】
互いのお母さんのお節介に、二人してため息をついた。
あの人たち私がシルビオのことを好きだと勘違いしてる節があるからなあ。私の中のシルビオは良いお兄ちゃんって感じで、恋愛感情は全くこれっぽっちもない。
……いや、本当に。異性間の友情は存在するのだ、特に私みたいなやつにはっ。
まあいずれ起こる代替わりに備えたい気持ちは分かるけど……あ、でもそっか。
「どうしたんだ、カタリナ? そんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔して」
「いえ、そうなったらシルビオは残念姉妹のどちらかと結婚するのかなー、と思っただけです」
穢れに対抗するには稀人のマナの力が必要不可欠だから、稀人の血は残していかなきゃいけない。
ただ稀人同士でしか子供を作れないし、新しい稀人が流れてくるとも限らない。
そうなるとシルビオは私たちの中の誰かと結婚する必要があるわけでーーあの二人の仲を引き離すのは大変そうだなあ。
「あ、あー。それは大丈夫だと思うぜ。
三役を守るための救済措置が色々とあるからな。例えば別の村や国から婿や養子として来るなんてことも昔はあったらしい」
「あ、そうなんですね。知らなかったです」
シルビオの口から衝撃の事実が語られる。
いや、そもそも三役の担うのがそれぞれ一家だけっていう時点で、回していくのは無理があるのか。考えてみれば当たり前のことだよね。
ってか待って。それなら私の百合ハーレム計画にもワンチャンあるってことじゃ……。
「ふっふっふ」
【カタリナちゃんが、、笑ってる?】
【それってシルビオが私以外の誰かと結婚しなくていいのが嬉しいってコト!?】
【お、まさかのフラグが立ったか?】
あらぬ勘違いを始めるリスナーの諸君。
こ、この話はやめよう。何を言っても照れ隠しにしか見えない気がする。
「そうだ。”やつ”ーーウマサケを捕まえるために、手を組みませんか?
シルビオが捕獲して……そうですね、私は応援でもしてあげます」
シルビオは去年の釣り大会の覇者。きっと何か良い情報を知っているはずだ。
私の手札が全くもって役に立たないのは気になるけど、そこは私の高尚な交渉術で何とかしてみせるっ。
「ただ自分が楽したいだけじゃねえのか、それ?
まあでもいいぜ。どっちにしろやろうと思っていたからな」
「? どういうことですか?」
シルビオがにんまりと口角を上げる。
その右腕に急速にマナが集まり、赤黒い球体が生み出されていく。バチバチと赤い火花が迸るそれは、衝撃を与えるのに特化した術。
「ま、まさかーー」
「そのまさかだよっ」
シルビオがエネルギーを持ったそれを川に打ち込む。
ざぱーん、と天高く上る水しぶき。
降り注ぐ水と共に、モーモーと鳴きながら落ちてくる無数の大きな黒い影。
ほぼ同時、草陰から見覚えのある影たちが飛び出してくる。
「ほれ、お前ら行くのじゃっ」
「魚屋として負けるわけにはいかないのにゃっ」
「任せろチューっ」
「どいてくださいっお姉さまにアレを食べさせてあげるんですっ」
「じゅるるるるるるる」
マハタ様、ニャハットさん、残念姉妹、えとせとら。
決起集会にいたほぼ全員が狂気を感じさせるほど必死な形相で、打ち上げられたウマサケーー馬の体に魚のひれと尾っぽが付いた化け物へと突進していく。
か、考えることはみんな同じってわけですか……。
【あの、、、、馬です】
【ウマサケってウマってそっちかよwww】
【ってか、みんなシルビオの後をつけてきたんかw】
【正々堂々とは一体……?】
「ちょっと私も、混ざて下さいよっ」
そんな完全同意なコメントを横目に、お母さんとの約束を果たすためーー何よりおいしい晩御飯のため、私はウマサケ争奪戦へと足を踏み入れた。
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