第十一話 常者に関するえとせとら
「お久しぶりですにゃ、カタリナの嬢ちゃん。
それが地球と繋がる道具ですかにゃ?」
【猫がしゃべったああああああ!!!】
【あざとい、あざといぞこやつっ】
魚屋の店主、ニャハットさんの姿に阿鼻叫喚の模様を見せるコメント欄。
一種の敗北感を覚えながらも、私はニャハットさんにカメラを向ける。
「はい、そうですよ。
ニャハットさんの可愛らしい姿にみんな大喜びしてますね」
「お、私の良さが分かるとはなかなか話せる奴のようだにゃ。
どれ、褒美に私の頭を撫でさせてやるのにゃ」
【あっあっあっ】
【悲しいことにそれは無理なんだよなあ】
【まだ説明してないから色々分かってないのかw】
【くそ、何で俺らは見ていることしかできないんだっ】
【こうなったらカタリナちゃんに……いや、まてよ
ニャハットさん、タブレットーーこの黒い板の上を撫でてみてください】
「むむ、これの上を触ればいいのにゃ? こうにゃ?」
【がはっ】
【かわえええええええええええ】
【意思疎通できるとこんなにスムーズに至極の一時を撮影できるのか(驚愕)】
【これが本当のガチ恋営業ってか】
【おかしい、何で俺はカタリナちゃんを見ているときより癒されてるんだ……】
リスナーに騙され、タブレットを撫でるニャハットさん。
画面にはスコティッシュフォールドに似た猫が至近距離でその可愛らしいおみ足動かして上の方を叩く映像が映っている。
た、確かにこれはケモナーじゃない私でもぐっとくるものがあるなあ。
「地球と繋がるってのはどんな感じなんだわん」
「ニャハットの野郎が人気なんて全く程度が低い連中チュー」
「ドラにも見せるドラっ」
「ちょ、ちょっと皆さん落ち着いてーー」
ニャハットさんの反応で危険じゃないと分かったのか、一気に集まってくる常者のみんな。犬やネズミ、ドラゴンなど様々な生き物の体をした彼らにもみくちゃにされ、思わずタブレットを手放してしまう。
【にゃん、わん、チュー、ドラ……ドラ?
いえ、モフモフに貴賤はありません どれも最高のモフモフですね】
【ああ、耳が幸せなんじゃあ~^^】
【俺たちが探し求めた桃源郷はここにあったんだな……】
人ごみに流される中、私の視界はそんな幸せそうなコメント欄を捉えた。
……うん、しばらく放置しても大丈夫かな。
「ぎゃはは、そんなんじゃ、地球のみんなに笑われちまうぜ?」
「煩いですゾウ。今に見ているがいいですゾウ」
「そこだ、させっ。運び屋の旦那っ」
【巨人VSゾウ ファイッ】
【おおー、相変わらずすげー迫力】
【これが本当の異種格闘技ですか……】
何もない場所で相撲を始めた巨人族のララットさんとゾウ族のファンティアさん。
その周りには顔を赤らめた常者のみんなが集まって、
そしてそんな光景を少し離れた場所でタブレットを構えながら眺める私。
あの後、地球人に自分たちの雄姿を見せてやるとかでみんな私にタブレットを預けて各々好き勝手に特技を披露し始め、ついでに当然のように酒を飲みだしてーー結果はこの通りの乱痴気騒ぎ。一応地球のことを口に出してはいるものの、彼らの視線はもう私を捉えていなかった。
……ほんと、常者のみんならしいなあ。
「全く、あ奴ら困ったものじゃな。
もはやお主らのことなど眼中にないのではないか?」
どさりとマハタ様が私の横に座る。
その手には例のごとく日本酒が入った徳利。ただマハタ様に酔っている様子はない。流石は村一番の酒豪ちゃんだ。
「でも私、この光景が好きだったりします。
みんな楽しそうですから」
「ふ、違いないの」
マハタ様と二人、朗らかに笑いあう。
いつも徳利を引っ提げて、ことあるごとに酒をひっかける彼ら。
時には褒め、時には罵り合う彼らの表情に影はない。宴会が終われば以前の関係に元通り。
一人寂しく飲んでいる誰かがいたら、必ず誰かが気づいて声をかける。そこに遠慮も立場もない、誰もがただの客で、主役。
私は彼らのそんな気の良いところが好きだった。
【良い顔してるもんなあ 正直俺も混ざりたい】
【それな 会社の飲み会もこれくらいだったらいいんだけど……はあ】
【あああああ 現実とのギャップで死にたくなってきた】
【そーいや何でみんな動物そっくりの見た目をしてるんだ?
マハタ様みたいに色んな要素が混ざってそうなものだけど】
「我ら常者たちにとっては”混ざり”が少ない方がモテるのじゃよ。
じゃから世代を重ねるごとに別種の部位は淘汰され、今のように現実とほぼ変わらない姿になった。ただ儂のように長寿で子供を滅多に作らぬ種族はその進化が緩やかになる、とそういう話じゃ」
「因みに常者には必ずベースとなる生物がいて、その同種同士で子を成すのが普通なんです。
異種間だとどうしても問題があるみたいですから」
マハタ様の言葉に付け足す。
やっぱり早く世界観をまとめた動画を作った方がいいよね。頑張ろう。
【こんな世界にも非モテ連中はいるのか……】
【世知辛い世の中よのお】
【常者ってのは色々なものが混ざっている生き物って認識であってる?】
「うむ。正確には稀人を除いたすべての生き物のことじゃな。大抵は地球の動植物や空想上の生物なんかがベースとなっておる。
あとは人の思いより生まれたからか、大体は言葉を交わせるの」
【はー、やっぱり実在の生物だけじゃないのね】
【わざわざ稀人と区別してるのは何か意味があったり?】
「んー、畏敬の念を込めて、という感じじゃな。
穢れに対抗するマナの力を持っておるし、何よりその体は我らが想像主たる人間と全く同じ。否が応でも惹かれてしまうものなのじゃ。
……それこそ相手の宿命を曲げかねないほどに、の」
ふっと視線を落とすマハタ様。
そんな彼女らしくない態度に、思わずそのしゅんとした尻尾を触ってみたくなってーー
「さて、そろそろ
カタリナもずっと気を張っておるのは疲れたであろう?」
「あ、本当ですね。もう三時半ですか」
既に三時間近く配信していたのに気付いて、手を引っ込める。
元々一時間の予定だったし、リスナーのみんなももう疲れているんじゃないかな。
【ああああ、終わらないで せめて定時までは……】
【社会人さんはその前に仕事してもろて
というかどうやってこの配信見てるん?】
【社用のパソコンで見てんだよ、文句あるかっ!?】
【ええー 完全にばれてるよ、それ】
【ま? え、冗談だよな、今まで何も言われなかったぜ?】
【何も言われてないだけ定期】
【最悪に解雇されるレベル】
【え
さよなら、おまいら】
「すぅーーーーそれでは、皆さんに素敵な幻想がありますように」
【急に終わった!!???】
【おいこらww】
【ごめんなさい、冗談です】
「え?」
やばい一人の人生を壊しちゃった、と急いで配信を止めようとしたその瞬間、彼?の訂正するコメントが目に入る。
さりとて、画面に映るのは「この配信は終了しました」の文字。
あーやっちゃった。
しかも、みんなに何も言えてないし。
「くっく、良いようにやられておるではないか」
「ち、違うんです。今のはわざと乗ってあげたんですよ」
「まあ、そういうことにしておいてやるのじゃ」
羞恥に染まる私を見て、マハタ様が機嫌よく笑う。
ま、まあ、マハタ様を喜ばせてあげられたと思えば元が取れたということで、うん……ぽむぽむポテトさん、名前を覚えたからな。絶対許さん。
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