第十話 リリストアルトの住人たち 



「町に行くぞっ、カタリナっ。

 地球の小童共に儂が育てた町をみせてやるのじゃっ」


 私の腕を掴んで町へ連れて行こうとするマハタ様。

 お父さんから色々と聞いて、何をしているかは理解しているみたい。ただ簡単に「はいそうですか」とは言えなくてーー


「ちょ、ちょっとマハタ様っ。

 いったん配信を閉じさせてください。紹介するのは色々と融通が利く動画の方がいいと思います。映りたくない人とかもいるでしょうし」


【カタリナちゃん、律儀やなあ】

【まあ生配信を巡るトラブルも無視できないからねえ】


 編集ができない生配信では色々な事故もありうるのだ。

 そんな心配を含んだ言葉に、マハタ様がふっと頬を緩めた。


「構わんよ。町の連中には話を通しておる。

 みな雲の上の存在だと思っていた地球人の存在に興味津々で、尻込みしてるものなど一人もおらんかったよ。

 それに例え心無い言葉を浴びせられようと、あやつらはそんな小さいことを気にする玉ではないわ」


「う、うーん。それなら大丈夫、ですかね……」


 からからと笑うマハタ様に、不安な気持ちが薄れていく。

 確かに彼らが炎上とかで苦しんでいる光景が欠片も想像できなかったしーー何より、マハタ様は自分の都合のために誰かを蔑ろにするような人じゃないから。


「それで、今もそのタブレットとやらで地球と繋がっておるのか?」


「はい、その通りです。

 見てくれてる人たちをリスナー、彼らが書いた言葉をコメントと言って、こうしてコメントを通じてリスナーとやり取りができるんです」


【マハタ様ちーす】

【相変わらず、すげーグラフィック】

【モフモフモフモフ】

【何か俺らが地球人代表って感じで恥ずかしくない、これ?】


「ほお、面白い。テレビと違って双方向の意思疎通ができるのか。

 しっかし、流れが速すぎて全然読めんのお」


【おばあちゃんかなww】

【ロリババア(ボソッ】


「……どうやら地球には礼儀も知らん餓鬼が蔓延っておるようじゃの。

 少しお灸を据えてやろうか? いやなに、少しばかりちくっとするだけじゃ。死にはせん」


「ま、マハタ様っ。ちょっと待ってください。

 今のはただの冗談ですから。そうですよね、皆さん?」


【ひえっ、凄い殺気】

【まさかの任侠キャラ!?】

【モフモフモフモフ】

【むしろお仕置きとか俺らにとってはご褒美なんだが?】

【本気で死ぬぞww】


 あらぬコメントを見て、腰に差した刀を抜こうとしたマハタ様を必死で止める。

 何かマハタ様なら、時空を超えた攻撃とかしても不思議じゃないんだよなあ。本当にやめてほしい。


 リスナーのみんなも危険を察したのか、大人しいコメントを……

 うん、一度くらい痛い目を見た方がいいかもね(辛辣)。


「って、こんなことをしている場合ではなかった。

 マルク、ちょいとお主の娘を借りていくぞ?」


「どうぞどうぞ」


「へっ?」


 お父さんの適当な返事と同時にぐっと体が引っ張られ、マハタ様に抱きかかえられる。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。


 ちょ、ちょっと流石にこれは恥ずかしいんですけど!?

 そう叫ぶ間もなく、私の体は一気に急加速してーー


【飛んだあああ!!!】

【すげーーーーー!!!】

【何かここに来て初めてファンタジーっぽいことしてるなあ】

【最初にあったやん】

【あ、あれは何か遠くでうにょうにょしてるだけだったから……】


 びゅうと体を撫でる豪風。はるか下に広がる森と私たちの家。


 気付けばーー私は空を飛んでいた。


「うへ?」


「ほれ、こっちの方が早いであろう?」


 下手人のマハタ様が自慢げに口角を上げる。

 確かに私たちは長い滞空時間を経て、ゆっくりとナキア村の中心へと向かっているようだった。流石はマハタ様、とんでもない身体能力だ。


 と、そうだ。


「ここが私たちの世界、リリストアルトです。

 皆さんどうぞご覧ください。素敵な世界でしょう?」


 タブレットを動かし、眼前に広がる光景を映していく。

 せっかくならこの空中浮遊を上手く活用しないと。


【おー、一面の森 こんな辺境に住んでたんか】

【すっげー遠くまで見えるな】

【何かめちゃくちゃ広くね? 俺の気のせい?】


「リリストアルトは地球の何千倍は広いと言われておるからの。

 まだ流者の誰も、その全貌を理解できてはおらん。太古の昔に新しい大陸が毎日のように生まれておったその名残らしいのじゃ」


 ちらっと視線を落としてマハタ様が説明してくれる。


【はええ、それはちょっと見てみたい】

【言い方的に最近はないのかな? 残念】

【ところでさ、新キャラのマハタ様、、どう思う?】

【鬼娘×狐っ娘×のじゃロリ……間違いなく属性過多】

【それな】

【あの尻尾絶対柔らかいって もふもふしたい】

【モフモフモフモフモフモフ】

【ほら、やっぱり動物の尻尾とか生えてるんじゃんっ】


 プレッシャーから解放されたのか、一気に騒がしくなるリスナーたち。あれでも押さえてたんだ。

 ……それとずっとモフモフ言ってる人、それは無理なんだ。マハタ様は特に厳しくて、一度無許可で触ったら本気で殺されかけたから。


「お、町が見えてきたぞ。

 カタリナ、格好よく写すのじゃぞ?」


「はーい」


 マハタ様の指示通り、村人の家が偏に集まる町の方へとタブレットを向けた。


 町の中央にあるのは一本の巨大な桜の木(まだ蕾の段階だ)と、その周りに設けられた広い空間、大衆広場。

 次いでそこを取り囲むように昔ながらの家が雑多に立ち並び、その隙間をひょろひょろとした小さな道が通っていた。


【はー大きな木やなあ】

【見る限りの木造建築……凄くノスタルジーを感じる】

【時代劇とか絵巻でしか見ないような景色だなあ。すげえ】

【ふむ、見たところ土蔵造りの家が多いようですね

 是非カタリナさんにはこの世界の職人たちと話す機会を】

【お、歴史研究家さんちっす】

【ほんと何でそんな人がこんな配信見てるんだよ……】

【そりゃあ一部界隈ではかなり有名になってるらしいからな 

 聞いた話じゃ某大手映画業界のCGチームとかも見てるみたいだぞ?】

【まじか】


 そんなコメントを眺めながら、私たちは大衆広場に降り立つ。

 東京ドーム一個分くらいはありそう(適当)なその場所にはすでに沢山の村人たちが集まっていた。


 躊躇するように顔を見合わせた後、顔なじみの魚屋の店主が二足歩行・・・・で近づいてくる。

 そうして頬に生えたひげを前足・・でかきながら、その可愛らしいω型・・の口を開けた。


「お久しぶりですにゃ、カタリナの嬢ちゃん。

 それが地球と繋がる道具ですかにゃ?」


【猫がしゃべったああああああ!!!】

【あざとい、あざといぞこやつっ】

【周りを見てみろっ、色んな動物の姿をしてるぞ つまりこれは……】

【みんな凋落させれば、モフモフできる?】

【ケモナー大歓喜!!!!!】

【あっ……】

【何か昇天してる奴がいるぞww】


 二足歩行の猫が人間の言葉を話すファンタジーな光景に、一気に沸くコメント欄。


 ……常者のみんなが人気なのは嬉しいんだけど、露骨に私と対応が違うとなんかこう釈然としないなあ。

 くそ、何で私の体には何も生えていないんだっ。


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