第七話 【ゲーム配信】懐かしのアレをやります!②



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 【まえがき】

 2023/04/01 10:00 本文の修正を行いました。

 該当箇所は以下の通りです。

 ・流者に関する説明。

 ・最後から二番目のターンが始まるときの姉妹の会話。

 ・最後のオチに関する描写の追加。

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 百人一首も終盤ーー残されたのは二枚の取り札。

 思わずごくりと喉を鳴らした私を見て、サーニャが馬鹿にしたように笑う。


「あっれ~、最初の威勢はどこにいったんですか、カタリナ?」


「うるさいですよ、サーニャ。

 あと一枚取れば私の勝ちなんですから、それまで黙ってくださいっ」


 現状の私の獲得札数は33枚、タニアは32枚、サーニャは33枚。最後まで三人に勝利の目がある大接戦となっていた。

 おかしい、計算では二人はとっくに私の前に跪いているはずだったのに……。


 どうしてこうなった???


 最初アクシデントはそう、二句目が終わった後に起こったのだった。




 ~唐突に挟まる過去回想~




「あ、見てください、お姉さま。

 カタリナの奴、コメントに色々と教えてもらっていたみたいですよ」


「……本当ね。流石、カタリナ。

 こういう時の悪知恵は良く働くわね」 


「くっくっく、何とでも言ってください。

 例えバレたところで、私の有利は変わりませんから」


 私の視線の動きを見たんだろう、あっさりとからくりを見破る二人。

 思ったよりも早いなあという気持ちはあるものの、まだ大丈夫。そこまで考えてこの配置にしたのだ。流石、私。あったまいいっ。


【うわあ、わるい笑み】

【完全に悪役側で草】

【カタリナちゃんに弱みを握られ、わからせられるメスガキ姉妹、、、あると思います】


 ほら、リスナーも私の活躍にこんなに喜んで……喜んでる、これ?

 ま、まあ威厳は示せたのかな、うん。

 

 私の策略にがるると唸っていたサーニャが手を上げる。


「カタリナのお母さんに場所替えを要求しますっ。

 やっぱりお姉さまの前に来るべきです」


「え、私?」


「うーん、そうねえ。あまりに差が開くようなら、そうしようかしら。

 このままカタリナに調子乗らせるのも気分がよくないし」


「ちょっとお母さんっ!? 

 母親なら娘の成功を喜んでよ!」


【「悲報」カタリナママさん、娘を裏切る】

【何か普段カタリナちゃんがどんな扱いされてるのかわかるなあ】


 とまあこんな感じで、家族の謀反がありながらも


「それじゃあいきますね~。

 なつのよは~」


【俺はカタリナちゃんの方見るわ】

【おっけー、じゃあ俺は手前の方】

【「雲のいづこに 月宿るらむ」やな これも結構有名な句】

【さてさて……】

【みっけ、カタリナちゃんから見て左の手前の方】


「これですっ」


「くっ」


 すっかりリスナーさんのロボットと化した私は、指示された通りの札を取ってーー


「あら残念ですね~。お手付きです」


「え?」


【あれ? 名人さんの勘違い?】

【い、いや、合ってるはず サイトにもちゃんと書いてあるし】

【ロッテンママさんが勘違いしてるとか? それか誤植?】

【そんな重要な部分がごちゃごちゃになるかねえ】

【あれ そういえば流者って色々なものが混ざっているんじゃ……】

【? 流者って生き物だけを指してるんじゃないの?】


「あっ……いえ、地球から輪廻の歯車を通って流れてきたものを総称して流者と呼びます」


【……つまり?】

【流具も流者の一種で、色々と混ざってる】

【ダメじゃんwww】


 リスナーに指摘され、その事実を思い出す。

 そうじゃん、大体問題なく使えるから忘れてたっ。


「ぷっ。流者のくせに自分たちの性質を忘れるとは、流者の風上にも置けませんね」


「く。ま、まあいいですよ。それでもまだ私の有利は変わりませんっ」


 どのみちリスナーのコメントにどれだけ早く反応できるか対決になっていたのだ。

 その指示と盤面が同時に見えるという有利性を使えば簡単に勝てると、この時は思っていた。

 ところがーー



「ちょっと、全然違う場所にあるじゃないですかっ!?」


【わーい、騙されたw】

【何か小学生みたいな悪戯しとる……】

【可哀そうは可愛いっっっ】

【まあタニアちゃん達の目を欺く意味も多少はあるからねw】



 私がリードすると反旗を翻し始めるリスナーのせいで、自分の力で探さざるを得なくなったりーー



「お姉さまっ、そっちです」


「あ、本当ね。ありがとう、サーニャ」


「えへへへ」


 お姉さま絶対主義のサーニャが、何とか反射神経よわよわタニアを勝たせようと「お姉さまが無理なら自分が、お姉さまが取れるならお姉さまに」といった絶妙な調整を繰り返した結果ーー






「全員に勝利の目があるってか。嬢ちゃんたちの勝負、面白いことになってるじゃねえか。……どうだい、ここらで一局?」


「お、いいですねえ。

 じゃあ私はこの唐揚げをサーニャちゃんに賭けます。一番反射神経がありそうですからね」


「ふ、あいつは自分がお姉さまに勝つことに許せねえじゃないかな。

 ってことで、俺はタニアにこれを賭けるぜ」


 と私たちの真剣勝負で勝手に賭博を始める父親二人。

 ……おかしい、私の味方は? そうだ、リスナーさんは私の勝利を望んでくれるよねっ!


【どうする? 誰を勝たせたい?】

【タニアちゃんが勝てば丸く収まりそうだよなあ】

【丸く(カタリナちゃん以外)】

【お前らは間違ってるぜ 

 重要なのは誰を勝たせるか、じゃなくて誰を泣かせるか、だ】

【な、何だってー!?】

【名言きたーーー!!!】

【そうなるとやっぱりメスガキ二人かな~】

【ってことはつまり……?】


「い、いいでしょう!!! 

 最高の形でこの闇のゲームを終わらせてみせますっ。誰も望んでいない、私の勝利という結果でっ」


 ここにいる全員に向け、私は大きく宣言する。

 私以外が幸せになるなんて、許せねえよなあ。


 私の宣誓に、ふっとサーニャが口角を上げる。


「いいえ、勝つのは私たちです。ですよね、お姉さま?」


「そうね、頑張ってサーニャ。あと一枚よ」


「え、ええ。そうですね……私はお姉さまに勝ってほしいんですけど」

 

 姉妹の微妙にかみ合わないやり取りを聞いたのち、運命の一局は始まる。


「ひともあし~」


 下の句が来た瞬間に反応できるよう、神経を研ぎすませていく。

 もうコメントは見ない。

 勘で二分の一をあてにいくのもなし。あと一枚取ればいいのだ、有利な条件を自ら捨てたくはいかない。

 またサーニャの方も自分が勝ってしまう可能性がある以上、無理な賭けはできないはず。最後に、真剣勝負を好むタニアはそんな発想はしない、と思う。


 つまり、完全なる反射神経勝負。


「うきにーー」


 読みはついに下の句に。

 きた、と右側の札に手を伸ばしーー


「ーーいっつっ」


 何かにぶつかって止まる。

 見れば、目の前に100cmはある半透明の白い壁が立っていた。

 これは結界……だと!? 


「よし、取れたわ」


「さすが、お姉さまですっ」


 と、明らかな忖度プレーを見せられている間にその壁が空気に溶け込むように消えていく。

 下手人のサーニャはこちらを見すらしなかった。おいこらっ。


「ちょ、ちょっと流石にずるくないですか?

 今の守人十八番の結界ですよね? 穢れを封じる術をこんなことに使うなんて、恥ずかしくないですかね?」


「え、何の事ですか? ずっとリスナーさんに助けてもらっていたカタリナさん?」


「く。お、お母さんは……?」


「うーん、そうねえ。

 サーニャちゃんが本気を出したらカタリナじゃあ手も足も出ないでしょうし、次からは守人の術を使うのは禁止にしましょうか」


「はーい」


 今回の審判たるお母さんに抗議し何とか制限を勝ち取ったのもつかの間、視界の端でサーニャがべーと舌を出す。


 いいですよっ。

 そっちがその気なら考えがあります。


「それじゃあ最後、いきますよ~。

 かくとーー」


 読み上げが始まったその瞬間、浄化の力を極限まで細く集めて飛ばす。白い槍は高速で飛び、狙い通りタニアの鼻へと吸い込まれていく。


「へくちっ」


「おねえさまのくしゃみ!?」


 と完全にペースを乱された二人を横目に、私は最後の札を取った。

 ふ、これが天才の戦法ってやつですよ。


 さあ、みんなの顔が屈辱に歪むのを見ようと顔を上げてーー


「あ、残念。おてつきですね~」


「は????」


【???】

【?】

【どういうこと?】


 私の札をのぞき込んだタニア達のお母さんが衝撃の言葉を発する。

 床を見ても、もう一札も残っていない。ど、どういうことだってばよ?


「あ、そうだわ。これ、本当の誤植があるのよ。

 二つの読み札の取り札になっている札が一枚だけあるの。

 私たちは面白いから、その札をボーナス札として2枚、どこにも繋がっていない札を0枚としてカウントしたわ」


 くそみたいな伏線回収を始めるお母さん。そのまま私たちがとった札を確認していく。

 え、ええ。冗談、だよね……?


【つまり?】

【どこかの一枚に二枚分の価値があるわけで……?】


「あ、そうそうこれよ。

 というわけで勝者、サーニャ・ロッテン!!!」


【よっしゃっ!!!!】

【いやあ、文句なしの大団円エンドでしたね】


 うそ、だろ……? 私、頑張ったのに……。

 一気に力が抜け、体が崩れ落ちる。


「おめでとう、サーニャ」


「あ、ありがとうございます、お姉さま」


 視界の端で、サーニャがひきつった笑みを浮かべるのが見えた。


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