第33話 英空母雷撃
直掩隊が迎撃戦闘に移行したのは優秀なレーダーを持ち、さらに洗練された航空管制を実施している英側のほうが早かった。
「インドミタブル」と「フォーミダブル」それに「イラストリアス」から発進した三六機のマートレットは日本の攻撃隊に対して正面からの突撃を敢行する。
そこへ護衛の四二機の零戦が立ちはだかる。
マートレットと零戦、それに英海軍の搭乗員と帝国海軍の搭乗員に顕著な力の差は無い。
そうなると、あとは数がものを言う。
マートレットは九九艦爆や九七艦攻への攻撃を試みるものの、しかし零戦の防衛網を突破するには至らない。
零戦のほうは二割近い数の優位を生かしてマートレットを拘束する。
九九艦爆や九七艦攻の防衛を厳命されている零戦は深追いを避け、もっぱらマートレットを追い払うことに専念している。
それゆえに撃墜されるマートレットは思いのほか少ないが、しかし一方で九九艦爆や九七艦攻には手出しが出来ずにいた。
膠着状態の零戦とマートレットの戦いを横目に攻撃隊は英艦隊の上空に到達する。
中央に三隻の空母が逆V字型を組み、その周囲を二隻の大型艦と八隻の小型艦が固める典型的な輪形陣だ。
「艦爆隊は護衛艦艇の排除、艦攻隊は艦爆隊の攻撃終了後に空母を叩け。『飛鷹』隊は左翼、『隼鷹』隊は右翼、『龍驤』隊ならびに『龍鳳』隊は中央の空母を目標とせよ」
「飛龍」から「飛鷹」に一時転属し、そのまま攻撃隊指揮官となった友永少佐から攻撃目標が指示される。
同時に三六機の九九艦爆が小隊ごとに散開、そのまま輪形陣外郭を固める巡洋艦や駆逐艦にダイブする。
この動きに対し、空母を守る英巡洋艦や英駆逐艦から反撃の火弾や火箭が撃ち上げられてくる。
だが、ミッドウェー海戦や第二次ソロモン海戦で米艦隊の猛砲火を経験した友永少佐から見れば、英艦隊のそれは明らかに弾幕が薄い。
当然のことながら、撃ち落とされる九九艦爆もまたさほど多くはない。
三〇機以上の九九艦爆が投弾に成功、命中したのはそのうちの三分の一程度だが、二五番なら船殻の薄い駆逐艦であれば至近弾でも損害を与えることがあるから、見た目以上にダメージを与えている可能性もある。
いずれにせよ、九九艦爆隊によって輪形陣は崩壊、その機を逃さず三〇機の九七艦攻が三隻の装甲空母に肉薄する。
直率する「飛鷹」艦攻隊を誘いつつ、友永少佐は最も左にある空母に狙いをつける。
目標とした空母の回避機動は悪くない。
「飛龍」ほどではないが、それでも「飛鷹」よりは明らかに動きが素早い。
だが、「飛龍」相手に雷撃訓練を重ねてきた友永少佐にとっては命中させることが困難だという印象も無かった。
回頭する装甲空母の動きを先読みする友永少佐と部下の八機の九七艦攻は海面上を這うようにして投雷ポジションに迫る。
「撃てっ!」の掛け声とともに魚雷を投下、後続の機体もそれに続く。
同時に斜め後方に付き従っていた部下の機体が爆散する。
おそらく、機関砲弾か機銃弾の直撃を食らったのだろう。
友永少佐は部下の死を悼むとともに、かなうのであれば被弾したのが投雷後であってくれよと祈る。
さらに離脱途中にも部下の一機が火箭に絡めとられ散華する。
「目標の空母に水柱! さらにもう一本!」
後席で戦果確認をしている部下からの報告が友永少佐の耳に飛び込んでくる。
八本乃至九本の魚雷を投じて命中したのが二本というのは少しばかり物足りない戦果ではあるが、しかし片舷に複数の魚雷を食らっては装甲空母といえども無事では済まない。
高速航行それに艦上機の運用は極めて困難になったはずだ。
「『隼鷹』隊、敵空母に魚雷二本命中」
「『龍驤』隊、『龍鳳』隊とともに敵空母を雷撃、魚雷三本命中」
右翼の空母も中央の空母もともに複数の魚雷を被雷した。
友永少佐から見て、特に中央の空母の行き脚は完全に止まっているように見えた。
だが、それでも三隻の空母のうちで沈没する可能性があるのはその中央の空母のみだ。
それだって、単なる可能性であってダメージコントロールが上手くいけば十分に生還は可能だろう。
残る二隻は脚こそ衰えたものの、一方で沈む気配は見せてない。
友永少佐は部下に打電を命じる。
「効果不十分、第二次攻撃の要有りと認む」
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