第34話 日英機動部隊

 電波兵器の開発競争に立ち遅れた帝国海軍といえども、さすがに昭和一八年ともなると大型艦の戦艦や空母にはもれなく電探が搭載されている。

 英米のそれに比べて性能面で見劣りする日本の電探ではあっても、しかし単機ならばともかく一〇〇機近い編隊を見逃すことはない。


 英機動部隊を発見したとき、第三艦隊の直掩戦闘機隊は三直態勢だった。

 三分の一が上空警戒にあたり他の三分の一が即応待機、残る三分の一が整備補給というローテーションだ。

 電探が敵編隊を発見すると同時に第三艦隊の上空にあった二七機の零戦がただちにその編隊に向けて突撃をかける。

 六隻の空母の飛行甲板上で即応待機中だった二七機もまた緊急発進、上空警戒組の後を追う。

 さらに残る二七機も次々にエレベーターで飛行甲板に上げられてくる。

 整備補給中の零戦は実際のところはすでに即応待機に近い状態にしていたから、発艦までにさほどの時間は必要無かった。


 真っ先に英攻撃隊に接触を果たした上空警戒組の二七機の零戦に対し、護衛の三六機のマートレットがターポンを守るべく立ち向かう。

 六三機の日英戦闘機が混交するなか、そのまま進撃を続ける五四機のターポンに対して今度は緊急発進した即応待機組の二七機の零戦が取り付く。


 すでに護衛のマートレットを引きはがされてしまったターポンは防御機銃を振りかざして零戦の攻撃から身を守ろうとするが、しかし戦闘機と雷撃機とではその運動性能があまりにも違い過ぎた。

 そのうえ、ターポンは腹に一トン近い重量物の魚雷を抱えているからさらにその動きは鈍い。


 そんなターポンに対し、零戦は昨年末から導入された二号機銃で次々に二〇ミリ弾を撃ち込んでいく。

 一号機銃に比べて初速が速くなった二号機銃、その銃口から吐き出される高威力の二〇ミリ弾は単発艦上雷撃機としては破格の防御力を誇るターポンに対しても甚大なダメージを与えることが出来る。

 装弾数も従来の六〇発から一〇〇発に増え、さらに低伸性も向上しているから命中弾数も増える。


 それでも類まれな防御力にものを言わせ、ターポンのうちの三割近くが零戦の防衛網の突破に成功する。

 そして、待望の日本艦隊を発見すると同時に、だがしかしターポンのパイロットたちは死神を目にする。

 仲間たちを次々に食い散らかしていった悪魔のような戦闘機が空母の飛行甲板を蹴って次々に舞い上がり、その機首をこちらに向けてきたのだ。


 そして、すれ違いざまに二〇ミリ弾をターポンに叩き込んできた。

 いくらターポンの防御力が優れているといっても二〇ミリ弾をカウンターで撃ち込まれてはたまったものではない。

 わずかに生き残ったターポンは魚雷を捨てて遁走を図る。

 ごく少数の機体で雷撃を敢行したとしても、敵艦の集中砲火を浴びて殲滅されるのがオチだ。


 結局、日英機動部隊が初めて激突した戦いは日本側のワンサイドゲームで終わる。

 勝敗を決めたのは艦上機の数、もっと言えば戦闘機の数だった。

 対艦打撃能力を持つ急降下爆撃機や雷撃機に関しては日英ともに八四機と同数だった。

 だが、制空権獲得の要となる戦闘機に関して言えば英側が七二機であったのに対して日本側は一二三機と七割以上も優勢だったのだ。


 英側が三六機のマートレットで一〇八機の日本の攻撃隊を迎撃しなければならなかったのに対し、日本側は八一機の零戦をもって九〇機の英攻撃隊を迎え撃つことが出来た。

 空母の性能自体は装甲空母で固めた英側に分があったが、しかし実際に勝敗を分けるのは艦上機の性能と数だ。

 そのうえ、日本側は米機動部隊との戦闘経験とその戦訓をいくつも持ち合わせていた。


 日本側はこれまでに得た手痛い戦訓を反映し、攻防ともに十分な数の戦闘機を用意、数的有利の状況をつくり上げたことで英側に勝利したのだ。

 逆に英機動部隊は艦上機の数において、なにより経験において日本側に後れをとっていたことが敗因となった。

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