第30話 新生東洋艦隊

 日本軍が再びインド洋への侵攻を目論んでいると聞いたとき、ソマーヴィル提督は復讐の機会が訪れたことを素直に喜んだ。

 第一航空艦隊と干戈を交えた昨年四月時点において、東洋艦隊は五隻の戦艦ならびに三隻の空母を基幹とした一大戦力を擁していたが、しかし実際のところは烏合の衆でしかなかった。

 艦隊全体の訓練はなされておらず、少なくない艦艇が何かしらの不調を抱えていた。


 何より問題だったのは洋上航空戦力の貧弱さだった。

 空母は一応は三隻配備されていたのだが、しかし肝心の艦上機のほうはわずかに九三機にしか過ぎず、そのうえ制空権獲得の要となる戦闘機に至っては三六機しか用意することが出来なかった。

 当然のことながら、当時世界最強と謳われた一航艦の獰猛な艦上機隊に抗することはかなわず、空母「ハーミーズ」や重巡「コーンウォール」それに同じく「ドーセットシャー」を一方的に撃沈されるという屈辱を味わったのだ。


 「だが、今回は違うぞ!」


 誰もいない部屋でサマーヴィル提督は闘志を込めて吼える。

 戦艦戦力の向上は著しい。

 「ウォースパイト」がオーバーホールで抜けた代わりに四〇センチ砲搭載戦艦の「ネルソン」と「ロドネー」が加わった。

 昨年から引き続き東洋艦隊に配備されている四隻のR級戦艦も訓練を積み重ね、昨年四月とは比較にならないくらいにその練度と術力を向上させている。

 また、巡洋艦にしても失われた重巡「ドーセットシャー」と同じく「コーンウォール」の代替艦の補充はなされ、さらに軽巡のほうは旧式のD級やE級から攻撃力に優れた「サウサンプトン」級に置き換わっている。


 肝心の空母は「インドミタブル」と「フォーミダブル」のほかに「イラストリアス」が加わった。

 これら三隻は飛行甲板露天繋止を積極的に活用することで従来よりもその搭載機数を増やしている。

 昨年のインド洋海戦時に比べて雷撃機は五割近く、戦闘機に至っては二倍の増勢だ。


 逆に日本側の洋上航空戦力は減勢が著しい。

 昨年四月にインド洋で猛威を振るった「赤城」と「飛龍」それに「蒼龍」と二隻の「翔鶴」型空母はそのいずれもが日本本土にあることが分かっている。

 つまり、東洋艦隊が今回相手取る日本の空母はそのいずれもが改造空母か小型空母ばかり。

 二線級の寄せ集めだ。

 当然搭載機数もまた相応に減少しているだろう。


 さらに、水上打撃戦力についても東洋艦隊の有利は動かない。

 三六センチ砲を一二門装備する「伊勢」型戦艦や「扶桑」型戦艦は日本本土に、韋駄天を誇る四隻の「金剛」型戦艦はトラック島にあることが分かっている。

 「伊勢」型戦艦と「扶桑」型戦艦は本国の防衛、「金剛」型戦艦は遊撃戦を仕掛けてくるかもしれない太平洋艦隊への備えといったところだろう。

 そうなれば、こちらに向かってくるのは最大でも「長門」と「陸奥」の四〇センチ砲搭載戦艦とそれに「大和」ならびに「武蔵」と呼ばれる正体不明の新型戦艦の四隻のみだ。

 「大和」それに「武蔵」の実力の程は分からないが、それでも英国の「キングジョージV」級や米国の「ノースカロライナ」級程度を想定しておけば間違いないだろう。

 旧式戦艦揃いの東洋艦隊とはいえども数の優位を保って戦えば十分に勝てるはずだ。


 (貴様らが知っている昨年までの東洋艦隊と同じだと思ったら大間違いだぞ)


 胸中でそうつぶやきソマーヴィル提督は編成表に目を落とす。

 そこには大英帝国が誇る、頼れる艨艟たちの名前が記されてあった。



 A部隊(機動部隊)

 「インドミタブル」(マートレット二四、ターポン三六)

 「フォーミダブル」(マートレット二四、ターポン二四)

 「イラストリアス」(マートレット二四、ターポン二四)

 重巡「ロンドン」「サセックス」

 駆逐艦八


 B部隊(水上打撃部隊)

 戦艦「ネルソン」「ロドネー」「リベンジ」「レゾリューション」「ラミリーズ」「ロイヤル・ソブリン」

 軽巡「ニューカッスル」「シェフィールド」「グラスゴー」「バーミンガム」

 駆逐艦八

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