第27話 空母撃沈
(見つからんなあ)
頭上や側背の警戒は護衛の零戦と後席の部下に委ね、第二次攻撃隊指揮官の村田少佐は海上をねめるように見回す。
戦闘海域上空に達したはずなのにもかかわらず、しかし第一次攻撃隊が撃破したはずの三隻の米空母とその護衛艦艇の姿がなかなか見つからないのだ。
おそらく、九九艦爆が投じた二五番を被弾した時点で米空母はただちに避退に転じたのだろう。
それも、三隻がまとめてやられないようバラバラの方角に向かって。
それでも、ようやくのことで「サラトガ」を基幹とする空母群を発見した。
その「サラトガ」については一八機の九七艦攻からなる「翔鶴」隊に攻撃するよう命じてあった。
そして、その攻撃もすでに終了し、三本の魚雷を命中させたという報告が上がってきている。
残燃料のこともあり、敵発見をあせる村田少佐だったが、その彼の視界ぎりぎりに航跡のようなものが映りこんでくる。
機体を旋回させて海面を確認すると、それは艦隊あるいは船団が通ったと思しき人工の白い帯だった。
それを追跡することしばし、ようやくのことで第二の米空母群の発見に成功する。
艦橋と煙突が一体化したその姿から、眼下の空母は「エンタープライズ」か「ホーネット」のいずれかだと思われた。
「『赤城』隊は左舷から、『瑞鶴』隊は右舷から敵空母を攻撃せよ」
村田少佐の命令は、つまりは第三の空母の捜索はあきらめるということだ。
残念ながら襲撃機動ならびに帰投に要する燃料のことを考えれば無理は出来ない。
第一次攻撃隊のようなありがたくないF4Fの出迎えを受けることもなく、「赤城」隊の一八機の九七艦攻は輪形陣の左側から米空母にとどめを刺すべく接近する。
敵の指揮官が射撃開始を命じたのだろう、空母を守る巡洋艦や駆逐艦から対空砲火が撃ち上げられてくる。
帝国海軍のそれとは段違いの火力が九七艦攻を包み込み、たちまちのうちに一機が高角砲弾の至近爆発に巻き込まれて海面に叩きつけられる。
さらに輪形陣を突破する際に機関砲かあるいは機銃から吐き出される火箭をまともに浴びた九七艦攻が爆散、三人の搭乗員が散華する。
相次ぐ部下の戦死に、それでも村田少佐の目は回頭を開始した「ヨークタウン」級空母の姿を捉えて離さない。
「ヨークタウン」級の韋駄天ぶりと回頭性能の良さは村田少佐の母艦である「赤城」を明らかに上回り、「飛龍」や「蒼龍」にも匹敵するように思える。
並みの搭乗員であれば理想の投雷ポジションを取るのに苦労するはずだ。
しかし、雷撃の神様と呼ばれ真珠湾攻撃を皮切りに幾多の死線を乗り越えてきた村田少佐の雷撃の冴えは文字通り神域に達していた。
接近を続ける中、「ヨークタウン」級空母の激しい対空砲火によってさらに二機の部下を失ったが、残る一四機は投雷に成功、腹に抱えてきた九一式航空魚雷を解き放つ。
ひとたび魚雷を投下すればあとは一目散に逃げるだけだ。
追いすがる火箭に部下の一機が絡めとられるが、被害はそれが最後だった。
敵対空砲火の有効射程圏外に離脱した村田少佐に後席の部下から左舷に四本、右舷に三本の水柱が上がったことが報告される。
すでに複数の二五番を被弾しているうえに、さらに七本の魚雷を食らえば「ヨークタウン」級はもちろん、新型戦艦でさえ浮いていることは困難なはずだ。
「『ヨークタウン』級空母に魚雷七本命中、撃沈確実」
部下に戦果を打電させつつ、村田少佐は味方の被害の大きさに慄然としている。
ただの一度の雷撃だけで「赤城」隊は全体の三割近い五機を失ってしまった。
戦死した一五人はその誰もがかけがえのない一騎当千の熟練ばかりだ。
反対舷から攻撃した「瑞鶴」隊もまた「赤城」隊と同様に少なくない損害を被ったことだろう。
(防弾装備が貧弱な九七艦攻ではもはや米艦隊相手には戦えんな)
胸中でそうつぶやきつつ、村田少佐は機首を北西に向ける。
今回は生還できそうだが、しかし次回はどうなるかは確信が持てなかった。
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