第26話 苦闘の艦爆隊
「赤城」と「翔鶴」それに「瑞鶴」から発進した第一次攻撃隊は敵機動部隊を視認する前からF4Fワイルドキャット戦闘機の迎撃を受けた。
これらは「エンタープライズ」と「ホーネット」それに「サラトガ」から発進した七二機のF4Fで、適切な航空管制によって最短距離で第一次攻撃隊を迎え撃つことに成功していた。
迫りくるF4Fに真っ先に斬り込んでいったのは「翔鶴」と「瑞鶴」の二個中隊一八機の零戦で編成された制空隊だった。
一方、F4Fのほうは「サラトガ」隊の二四機がこれに対応し、「エンタープライズ」隊と「ホーネット」隊の四八機は九九艦爆に向けて肉薄する。
ここで「赤城」隊と「翔鶴」隊それに「瑞鶴」隊の二七機の零戦からなる直掩隊が動く。
二四機のF4Fを擁する「ホーネット」隊と対峙した「翔鶴」隊それに「瑞鶴」隊の合わせて一八機の零戦はこれを完全に抑えきることに成功する。
だが、三倍近い数の「エンタープライズ」隊と対峙した「赤城」隊はさすがにこれを支えきれない。
一〇機ほどのF4Fが「赤城」隊の防衛網を突破して九九艦爆に襲いかかる。
新型のF4Fは機銃の数が四丁から六丁へと、従来のそれに比べて五割増しとなっていた。
その両翼から放たれる六条の一二・七ミリ弾の奔流をまともに浴びた九九艦爆が抱えていた二五番ごと爆散し、一撃で翼を断ち折られた機体はきりもみ回転しながら珊瑚海のただなかへと墜ちていく。
九九艦爆も機首に装備された二丁の七・七ミリ機銃や後席の同じく七・七ミリ旋回機銃で反撃に努めるが、しかしほとんど効果をあげていない。
四五機という、真珠湾奇襲の第一次攻撃をも上回る帝国海軍史上最大の数の零戦を護衛に投入しながらも、しかし九九艦爆の被害を完全に抑え込むことが出来ない。
櫛の歯が欠けるように次々に九九艦爆が失われていく。
F4Fの執拗な襲撃をようやくのことで振り切り、米機動部隊に取り付いた時にはすでに一一機の九九艦爆が撃墜され、これ以外にも多数の機体が被弾していた。
「『赤城』隊は右翼、『瑞鶴』隊は左翼の空母群を攻撃せよ。中央は『翔鶴』隊がこれを叩く」
これまで溜めいていた鬱憤を吐き出すようにして第一次攻撃隊指揮官の高橋少佐が目標を指示する。
その命令が発せられるやいなや九九艦爆が散開する。
高橋少佐はそのまま直進、敵の進行方向を確認すると同時に旋回、生き残った一三機の部下とともに突撃をかけた。
米艦が撃ち上げてくる激しい火弾や火箭を突き破るようにして九九艦爆が次々に急降下に遷移する。
その機動は従来のそれとは違っている。
これまでのように一機ずつ降下するのではなく、多数機による同時急降下だ。
このことで、敵の対空射撃のリアクションタイムを削ると同時に対空砲火の分散も期待できた。
九九艦爆の周辺に高角砲弾炸裂に伴う黒雲が湧き立ち、赤や白の火箭が無数に飛びかう。
高角砲弾の至近爆発に巻き込まれたり、あるいは機銃弾の直撃を食らったりした九九艦爆が相次いで撃ち墜とされていくなか、かろうじて生き残った機体は戦友の仇とばかりに次々に二五番を投じていく。
F4Fの襲撃を躱し、無数の対空砲火の洗礼を浴びてなおしぶとく生存への道をつかんだ九九艦爆は用は済んだとばかりに一目散に遁走を図る。
ようやくのことで敵の対空砲火の有効射程圏を抜け、集合地点に集まった部下たちの様子に高橋少佐は絶句する。
五四機あったはずの九九艦爆は今では三〇機に満たない。
半数近い機体がたった一度の戦いで失われてしまったのだ。
生き残ったものもまたその多くが機体や翼に生々しい被弾の傷跡を残している。
この様子だと、機上戦死あるいは負傷している者も少なくないのではないか。
すでに戦果は打電済みだった。
「赤城」隊が四発、「翔鶴」隊と「瑞鶴」隊がそれぞれ三発の命中弾を米空母に与えた。
しかし、その戦果が部下たちが流した血の量に見合ったものであるのかは高橋少佐には分からなかった。
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