第25話 主力空母被弾
第三艦隊に向かってきたのは三六機のF4Fワイルドキャット戦闘機に八一機のSBDドーントレス急降下爆撃機、それに四五機のTBFアベンジャー雷撃機だった。
ハルゼー提督は持てるすべての戦力をもって第三艦隊に殴りかかってきたのだ。
これに対し、「赤城」と「翔鶴」それに「瑞鶴」の二七機の零戦がそれぞれの母艦を守るべく六倍の数の敵に果敢に立ち向かう。
しかし、二七機の零戦はF4Fの阻止線を突破することが出来ない。
F4Fはミッドウェー海戦で有効性が証明されたサッチウィーブを駆使、ペアで零戦を抑えにかかる。
その間にSBDとTBFが第三艦隊に肉薄するが、そこに第二艦隊から増援に送られてきた三〇機の零戦が立ちはだかる。
零戦は半数が低空に舞い降りてTBFに食らいつき、残る半数は高空からSBDを狙い撃つ。
防御力に優れた米機といえども、戦闘機の援護を受けなければ損害は免れない。
第二艦隊から来た増援の三〇機の零戦は鬼の居ぬ間の洗濯とばかりにSBDやTBFを次々に食い散らかしていく。
しかし、四倍以上にものぼるSBDやTBFをすべて捌ききるのはさすがに無理があった。
零戦の防衛網を突破した四〇機あまりのSBDと二〇機ほどにまで撃ち減らされたTBFは輪形陣を易々と突破して空母に迫る。
第三艦隊は二隻の重巡と一隻の軽巡それに八隻の駆逐艦が三隻の空母を取り囲むようにして布陣していたが、しかし護衛艦艇のうちで高角砲を備えているのは「利根」と「筑摩」の二隻の重巡、それに防空駆逐艦「秋月」のわずかに三隻でしかない。
それ以外の艦は、主砲は平射砲で対空射撃能力が低く、実質的な武器といえば個艦防御にしか使えない機銃くらいのものだった。
真っ先にTBFが「赤城」にその矛先を向ける。
「赤城」は「翔鶴」や「瑞鶴」と全長こそさほど変わらないものの、幅が広くなにより高さが違った。
低空から見ればその差は歴然であり、つまりは「赤城」の艦としてのボリュームは「翔鶴」や「瑞鶴」と比較にならないくらい大きく見えてしまう。
飛行機乗りの大物志向は洋の東西を問わない。
まして、ふだんから大型艦の撃破を期待されている雷撃機搭乗員であればなおさらだ。
一方、「赤城」にとって幸運だったのは、TBFが五月雨式に攻撃を仕掛けてきたことだ。
もし、二〇機前後のTBFがまとまって、しかも挟撃を仕掛けて来たとしたら回避は不可能だったはずだ。
しかし、TBFは「エンタープライズ」や「ホーネット」それに「サラトガ」の生き残りの寄せ集めであり、組織立った連携は取れていない。
それに、搭乗員の腕も悪かった。
ミッドウェー海戦で「エンタープライズ」と「ホーネット」それに「ヨークタウン」と「レキシントン」の雷撃隊が壊滅的打撃を受け、さらに第二次ソロモン海戦において「サラトガ」と「ワスプ」の雷撃隊が甚大なダメージを被った。
いかに人材、つまりは人間力に優れた米軍といえども、短期間に優秀な雷撃機搭乗員の数を揃えられるものではない。
今回の戦いに参加したTBFの搭乗員のほとんどがルーキーでありしかも初陣だった。
一方、「赤城」に着任してから半年以上、ミッドウェー海戦の激闘を生き延びた青木艦長の操艦は冴えわたり、TBFが放った魚雷をことごとく躱していく。
しかし、そこへSBDがその姿を現す。
「エンタープライズ」爆撃隊と同じく索敵爆撃隊だった。
最初は二七機だった「エンタープライズ」隊も、零戦によって半数近くを撃墜され、攻撃位置に取り付くことが出来た時点で一四機にまで撃ち減らされていた。
だがしかし、彼らの闘志にいささかの衰えもない。
雷撃機の回避を優先したことで、急降下爆撃機の襲撃機動に対応する「赤城」の動きは鈍い。
大きくその姿をさらけ出した飛行甲板目掛けてSBDが次々にダイブに移行する。
投弾を阻止するための火弾や火箭が撃ち上がってくるが、被弾するSBDは一機も無い。
すべてのSBDが投弾を終えた時、「赤城」は猛煙に包まれる。
一四発中四発の一〇〇〇ポンド爆弾が命中したのだ。
三割弱の命中率は、だがしかし搭乗員の半数以上がルーキーでしかも今回が初陣だったことを考えれば十分に及第点を与えていい成績だった。
その頃には「サラトガ」隊に狙われた「翔鶴」と、同じく「ホーネット」隊の襲撃を受けた「瑞鶴」もまた煙を噴き上げている。
雷爆同時攻撃を受けた「赤城」と違い、「翔鶴」と「瑞鶴」は急降下爆撃機からの回避に専念できたので被弾はそれぞれ二発ずつで済んだものの、しかし両艦ともに飛行甲板を破壊されて離発艦能力を奪われていた。
第三艦隊の空母はそのすべてが戦力を奪われてしまった。
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