第24話 希望の増援
敵機動部隊発見の報を受け、第三艦隊司令長官の小沢中将はただちに第一次攻撃隊の出撃を命じた。
第一次攻撃隊は「赤城」から零戦九機に九九艦爆が一八機、「翔鶴」と「瑞鶴」からそれぞれ零戦一八機に九九艦爆一八機の合わせて九九機。
零戦が多いのは第二次ソロモン海戦の手痛い戦訓を反映してのものだ。
同海戦の折、当時の第三艦隊が放った第一次攻撃隊は三隻の米空母から発進したと思しき七〇機以上にものぼるF4Fワイルドキャット戦闘機の迎撃を受けた。
第一次攻撃隊には三〇機の零戦が護衛についていたものの、二倍を大きく超える数のF4Fから九九艦爆を完全に守ることは出来なかった。
少なくない九九艦爆が投弾前にF4Fによって撃ち墜とされ、このことで母艦航空隊は看過できない人的ダメージを被っている。
このため、今回については前回の五割増しにあたる四五機の零戦を護衛につけたのだが、しかしこれは米空母が最大でも二隻だという判断からだった。
三隻だと話は違ってくるが、それでも発艦を遅らせてまで零戦の増勢を図ることは米機動部隊に発見された今となっては現実的ではない。
それに、そもそもとして「赤城」と「翔鶴」、それに「瑞鶴」の三隻の空母に搭載された零戦は一〇〇機に満たないから追加出来る機体もさほど多くはない。
だから、第一次攻撃隊は当初編成のまま送り出さざるをえなかった。
問題は第二次攻撃隊と直掩隊だった。
第二次攻撃隊は「赤城」と「翔鶴」それに「瑞鶴」からそれぞれ零戦九機に九七艦攻一八機の合わせて八一機とし、艦隊直掩には残る二七機の零戦を充てる予定だった。
だが、これは米機動部隊の矛先が「祥鳳」と「龍驤」に向かうとの前提で編成されたものだ。
米機動部隊が放った攻撃隊は「祥鳳」と「龍驤」が吸収してくるからこそ、直掩の零戦が二七機でも大丈夫だと判断されたのだ。
「第二次攻撃隊の零戦を減らし、その分を直掩隊の増強に充てるべきです。発見された米空母は三隻。そうなれば最低でも一五〇機、下手をすれば二〇〇機近い艦上機が第三艦隊の上空に押し寄せてきます。とてもではありませんが、わずか二七機の零戦だけでこれをしのぐことは出来ません」
「確かに直掩機を増やせば第三艦隊が被るであろう損害はある程度は減らすことが出来るかもしれない。だが、第二次攻撃隊はどうする。対艦打撃能力を持った機体はすべて九七艦攻だぞ。
九九艦爆に比べて動きが鈍く、そのうえ重量物の魚雷まで抱えている。十分な護衛も無しに彼らが攻撃目標に取り付けるとはとても思えんのだが」
九七艦攻を護衛する零戦の数を減らし、そのことで捻出した分を艦隊防空に充てるべきだという航空参謀に対し、小沢長官は九七艦攻の撃たれ弱さを根拠に疑問を呈する。
「五四機もの九九艦爆があれば三隻の米空母のすべてに命中弾を与えることが可能です。九七艦攻が戦場に到達する頃には米空母の離発艦能力はすでに失われているはずです」
「米軍が第四の空母を持っていたとしたらどうする。
それに、だ。九九艦爆がすべての米空母の飛行甲板を破壊出来る保証はどこにもない。今の九九艦爆の搭乗員の平均技量は真珠湾攻撃やインド洋で米英艦隊を撃破した当時に比べて明らかに低下している。ミッドウェー海戦や第二次ソロモン海戦であまりにも多くの搭乗員を失い過ぎてしまったからだ。このうえ、さらに九七艦攻の搭乗員を大勢失うようなことがあれば、帝国海軍の母艦航空隊は立ち行かなくなってしまう」
母艦の安全か、あるいは九七艦攻の安全かを巡って議論する航空参謀と小沢長官に通信参謀が割り込んでくる。
「第二艦隊司令長官より緊急電です。零戦三〇機を二波に分けて増援として第三艦隊上空に送り込む。くれぐれも誤射無きよう、留意されたし」
通信参謀の報告を聞いた航空参謀は愁眉を開き、小沢長官はニヤリと笑う。
「どうやら、鉄砲屋や水雷屋が幅を利かせる第二艦隊にも状況が良く見えている人間がいたらしい」
そう言いながら、小沢長官はこの措置を近藤第二艦隊司令長官に進言したのは、開戦の時から航空戦隊司令官を務め上げている角田司令官あたりではないかと目星をつけている。
実際の言い出しっぺは伊澤艦長なのだが、しかしこの局面では些事に過ぎないし、深く考える事柄ではない。
小沢長官はきっぱりとした口調で命令する。
「第二次攻撃隊は当初編成のままで出す。それと、第三艦隊の全艦に敵味方の識別を慎重に行うよう伝えろ。助っ人として駆けつけてくれる味方への誤射だけは絶対に避けるようにとな」
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