MO作戦
第21話 MO作戦
ガダルカナル島を巡る戦いで囮任務を押し付けられながらも、しかしどうにか無事に本土へと帰還した「祥鳳」は整備を受けるとともに損耗した航空隊の再編に努めていた。
そのような多忙な中、伊澤艦長は第三艦隊司令部から出頭を命じられ同司令部を訪れていた。
「『翔鶴』と『瑞鶴』それに『赤城』の修理が完了しました。これに伴って延期されていたMO作戦を実施します。『祥鳳』もまた、その戦力の一翼を担っていただきたい」
新しく第三艦隊参謀長に就任した山田少将からの言葉に伊澤艦長は意外な感を覚えなかった。
米豪遮断は軍令部の悲願であり、米機動部隊の戦力が低下している今がその絶好の機会だと考えたのだろう。
「『祥鳳』は『龍驤』と組んで前衛をお願いしたい。『金剛』型戦艦を主力とする第二艦隊とともに行動していただき、上空警戒や対潜哨戒、それに索敵や周辺警戒任務にあたってもらいたいと考えています」
山田参謀長の言葉を耳に入れつつ、伊澤艦長は持ち出し禁止とされている編成表に目を落としている。
砲戦部隊(第二艦隊)
戦艦「比叡」「霧島」「金剛」「榛名」
重巡「高雄」「愛宕」「妙高」「羽黒」「熊野」「鈴谷」「最上」「三隈」
軽巡「那珂」
駆逐艦「雪風」「初風」「天津風」「時津風」「浦風」「磯風」「谷風」「浜風」「萩風」「舞風」「嵐」「野分」
「祥鳳」(零戦一八、九七艦攻九)
「龍驤」(零戦二七、九七艦攻六)
※「祥鳳」と「龍驤」は第三艦隊から臨時編入
空襲部隊(第三艦隊)
「赤城」(零戦二七、九九艦爆一八、九七艦攻一八)
「翔鶴」(零戦三六、九九艦爆一八、九七艦攻一八)
「瑞鶴」(零戦三六、九九艦爆一八、九七艦攻一八)
重巡「利根」「筑摩」
軽巡「長良」
駆逐艦「秋月」「黒潮」「親潮」「早潮」「秋雲」「夕雲」「巻雲」「風雲」
「飛龍」と「蒼龍」それに「瑞鳳」は修理中で、「隼鷹」と「飛鷹」は航空隊の錬成中だから、「大鷹」型空母と「鳳翔」を除くすべての空母が参加する一大作戦だというのは一目見て分かった。
五月に予定されていたMO作戦のときとは戦力の厚みが違う。
しかし、「祥鳳」が置かれた状況はさほど好転していない。
それどころか、むしろ悪化している。
「つまり、砲戦部隊が盾となりつつ、その一方で空襲部隊の艦上機隊が矛となるのですね。そして『祥鳳』と『龍驤』は盾を守る盾、あるいは敵の攻撃を吸収するサンドバッグとなる」
編成表から目を上げた伊澤艦長はそう言って山田参謀長に問い質す。
前回の任務は囮だったが、しかし今回のそれははっきり言ってしまえば正規空母の弾避けだ。
「祥鳳」を預かる伊澤艦長としては不愉快千万な思いだが、一方で作戦としての合理性や整合性があることもまた理解していた。
ミッドウェー海戦では機動部隊を突出させた結果、主力部隊が遊兵となり効率的な戦力の運用が出来なかった。
今回の編成はそれを反省したうえでのものなのだろう。
まあ、そのとばっちりが「祥鳳」と「龍驤」にモロにきてしまったのだが。
「艦長の認識は間違っていません。『祥鳳』と『龍驤』を前衛に置くことについては正規空母の安全を図るという意味も少なからず含まれています。だが、すでに我々はミッドウェー海戦で『加賀』を失ってしまった。帝国海軍としてはこれ以上、正規空母を失うわけにはいかないのです。
それと、これは言い訳かもしれませんが、米国は稼働空母が極めて少ない状況です。『エンタープライズ』と『サラトガ』は第二次ソロモン海戦の折に撃破しましたし、『レンジャー』はいまだ大西洋にあることが分かっている。太平洋では現状、使える空母は『ホーネット』ただ一隻のみ。『祥鳳』と『龍驤』であれば十分に『ホーネット』からの攻撃を凌げると確信しています」
言葉を飾らずに本音を語ってくれた山田参謀長に伊澤艦長は苦笑を隠せない。
それと、この作戦は第三艦隊が考えたものではなく、さらに上位の組織が立案したものだろう。
だから、文句があるとしてもそれを山田参謀長に言ったところでどうしようもないし、不毛なクレームなど時間を無駄に食うだけで百害あって一利なしだ。
「了解しました。『祥鳳』は第二艦隊の指揮下に入り同部隊の支援にあたります」
あっさりと了承してくれた伊澤艦長に山田参謀長は明らかにほっとした様子を見せる。
「ミッドウェー、それにソロモンで死線をくぐり抜けた『マルチ祥鳳』の活躍を期待しています」
山田参謀長のリップサービスも伊澤艦長の心には届いていない。
(次期作戦において「祥鳳」をどうやって生き残らせるか)
そう考える伊澤艦長は、つまりは山田参謀長の楽観論を信用していない。
伊澤艦長は「エンタープライズ」か「サラトガ」、あるいはその両方が修理を終えて戦場に姿を現す確率は極めて高いとにらんでいる。
それは、ミッドウェー海戦や第二次ソロモン海戦で実際に米軍を相手に戦ったときに身に着いた肌感覚、あるいは戦士の勘のようなものだ。
自分と同じ感覚を身に着けたであろう当時の第三艦隊司令部は残念ながら「飛龍」被弾の際に全滅してしまった。
(第二次ソロモン海戦の戦果とガダルカナルの逆転勝利によって帝国海軍の将兵らは少しばかり浮かれすぎているのかもしれん。そのことで、米軍を侮る風潮が復活しなければいいのだが)
そう考える伊澤艦長は、第三艦隊司令部を辞した瞬間に深々と嘆息してしまった。
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